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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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*それぞれの想い2*

  アスラン、と。

   ルリが呼んだ声が聞こえた気がして。




 明かりを落とした自室で、無理矢理にでも目をつぶって、頭の中に響いてくる声も、外の雑音も遮断して、眠らなければと自分自身に何度も言い聞かせてはいるが、心が急くだけで眠れるはずもなく。

 体は疲れているのは確かで、横になった瞬間に一度は意識が薄れたが、夢でルリの笑顔を、意識のどこかでルリの声を聞いてしまったら目が覚めてしまった。

 隣のベッドで同じように休んでいるタイスは、健やかな寝息を立てていた。

薬も使用せずに何時でも、何処でも、すぐに眠れるタイスをある意味尊敬していたアスランは、その事を素直に正直に、なんの含みもなく誉めたのだが、タイスは笑いながら「たとえ戦艦の中だとしてもさ、安心して横になれるんだから、そりゃすぐに眠れるさ」と言っていたのだ。

 最初は何の冗談かと思ったものだが、タイスと親交を深めていくうちに、その意味を知った。



 戦争孤児で瓦礫の山の中で生活していた。



 そう聞かされて納得したのだ。

 その頃のアスランは、外の喧噪など何も知らず、何も知らされずに、平和の楽園であったブルームで、親の庇護下の元、ルリやルカとともに、それこそ楽しい日々を過ごしていたのだ。

 今から思えば、その楽園が「作られた」ものだったとしても。

 それを作り出した人間達の苦労など何も知らず。

 うつら、うつらと、していた脳みそは、これから数時間後に行われようとしている作戦のことではなく、やはりルリやルカのことで、考えれば考えるほど今の自分が滑稽でならない。

 無理矢理に意識をダウンさせようと努力したが、やはり響いてくるのだ。

 他の人間に見習って支給されている薬を使おうかとも思ったが、アスラン自身どうも薬に頼るということに抵抗感を覚えていて、未だに使用したことがない。

 逆を言えば今まではそんなものに頼らなくても眠れたのだ。

 頭にではなく、心に直接響くようなルリの助けを求める声が自分の何かを堪らなくさせる。



『助けて、アスラン』と、ルリがアスランを求めて泣いている気がして心が痛む。



 その一方で腕が手が、覚えているルリの感触に戸惑う。

 腕の中に、胸の中に抱きしめたルリは、柔らかかった。

 覚えていた限りのルリよりも。力の加減をしなければと思えるほどに、ルリは柔らかくて、胸に押しつけられたふくよかなバストが、細いなだらかな腰つきが、離れていた時間をアスランに突きつけた。

 あの明けていこうとする海辺で。

 苛立ちとともに感じた戸惑いが、今更ながらにアスランを襲う。

 確かにあの時に感じたのは、苛立ちだけではない。

 状況もなにもかもが吹っ飛びそうな程の劣情だった。

 言うなりにならないルリに対するある意味での劣情。 

 幼なじみとか、自分にとっての大切な存在とか、そんな綺麗事で済ませられないもの。

 気づかされてしまったら、自分が気づいてしまったら歯止めがきかなくなりそうで封印したはずの何か。

 感情と頭の間にあるいいようもない溝に、アスランは深いため息をつく。



「…お前、本当に大丈夫なのか?」


 アスランの深いため息を聞きつけて、タイスが身を起こす。

 安心して眠られると言いながらも、小さな物音でも目を覚ますのだから、アスランにしてみれば尊敬に値する。

 幼なじみのルカは一度熟睡してしまったら起こすのに一苦労し、ルリはもっと大変で一度起こしても、目を離したらすぐに二度寝してしまったものだ。

 寝起きの悪い双子にどれほど苦労したことか。

 あげく兄のルクもこの上なく寝起きが悪かった。


「悪い、起こしたか?」

「それはいいけどさ、お前、休まないとひびくぞ」

「判ってるんだけどな、頭では。でも、心がついていかない。言い聞かせても納得してくれない。……こんな時には、頭と心を分離できたらいいなと思うよ、非科学的だけど」

「人間の感情はそれこそ非科学的なんだよ」

「言えてる」


 淡く笑うアスランの表情に「何を考えていたのか一目瞭然だ」とばかりの視線を向けると、冷えた水を取り出して、一挙に喉に流し込む。


「タイス、今から水分取ると後で大変だぞ」

「……お前も飲んでおけよ。どうせ薬で出すことになるんだし強引に。少しくらいなら大丈夫だって。それに、お前の方が水分必要みたいだぞ……枯れてる」


 掌から伝わる冷たい感触にわずかに顔をしかめつつも、その冷たさのおかげで、今までいたるところに巣くっていたものが瞬時霧散する。


「暗い部屋にいると、気分も暗くなるよな」

「……タイスは恋人がいるのか?」


 何気ない自分の言葉に被さるように囁かれた音に、タイスは自分の耳を疑って瞬きした後、ベッドに横になったままのアスランに視線を向けた。


 空耳でなければ言葉を発したのはこのアスランのはずなのだ。


外から人が入ってきた形跡もないから、この部屋にはアスランとタイスの二人以外は存在しない。


「今、恋人とか言ったか?」

「……いや、いるのかなって思って」


 未だかつてなんの脈絡もなくこんな話題をアスランからふられたことがないから、タイスが驚くのも無理のない話で、それ以上に、アスランの口から出たことも驚愕に値したのだ。

 タイスから持ち出すことはあっても、よもやアスランから持ち出されるとは思っていなかった。


「と…突然、どうしたよ?」

「いや……いるのかなって」

「進行形ならいないけどさ」

「過去にはいたのか?」

「まあ……いたことはいたけどさ」

「そっか……」


 何が聞きたいのか分からない。

 もともと脈略のない話をするような人間ではないのがアスランだ。

 理路整然としていて、いつでも物事を順序よく的確かつ迅速に理解もする。

 だからこその優等生でありステラなのだから。

 そのアスランが何を間違ってこんなとりとめもないことを言い出すのか、とタイスが訝しむのは当然だったのだが、 最大の驚愕はこの後、起こったのだ。

 それはもう、驚愕どころの騒ぎではなく、これから数時間後に任務を控えた人間の言葉とは到底思えなかった。


「タイス…その恋人達とは済ませたのか?」

「……なんだって?」


 決して自分の頭の回転が遅いとか、鈍いとか思ったことのないタイスではあったが、この質問の意味を正確に理解することは出来なかった。

 どう返答すればいいのかタイスが言葉を探していると、アスランは視線をタイスに向けることもなく、ことさら恥ずかしがることもなく、そしてことさらに言いよどむわけでもなく、まるで戦術の一つでも話しているような口調で言い放った。


「……その恋人達と寝たのか? 別な言い方でセックスとかメイクラブとか」

「…………あ?」

「前にルカに言われたことがあった。ルリのことを押し倒したいほど好きなのか? エッチしたいほど好きなのかって」


 独り言のように呟くアスランをしばらく凝視したタイスは、ため息をつくと、遙か天上、宇宙にいるもう一人の親友に心の中で助けを求めた。

 自慢するわけではないが、タイスだってそこは性少年なのだから、それなりのお楽しみはすでに済んでいるし、通常の世間一般が考えるところの恋人同士ならやりそうなことは一通り経験済みなのだ。

 もう一人の親友だって同じ事だ。

 恋人がいて、手を握れて同意があるのなら、もっと深い関係を求め合っても不思議なことではない。

 ましてや性欲も精力も普通に存在している性少年に歯止めなんてあるはずもない。


「……お前は?」

「興味がなかったわけじゃないけど、機会がなかった」 


「なんだよ、未経験かよ」と言葉にするより早くアスランが付け足す。


「ルリとは機会がなかった。そういう意味では子供だと思っていたからそういう事はルリとは……」


 そこまで聞いてタイスは叫びだしたい衝動を必死に抑えつけて再びため息をつく。

 様々な考えが頭に浮かんでは消えて、目の前にいる優等生にどうやってそれを教えようか迷いつつも、出てきた言葉はいたく簡素で簡単な一言だった。


「アスラン、それって好きって事だろ?」

「ただやりたいのと、好きの境界線ってどこか知ってるか?」

(そんなもの、自分で考えろよ!)

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