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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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*ふたつの正義2*

「皮肉だな……」


 静かに漏らした言葉は、タイスの耳に突き刺さった。

 アスランが何をさして皮肉だと言っているのかが、手に取るようにわかる。

 表面上は何事もなかったかのように礼儀正しく、それこそステラとはこうあるべきだと振る舞っているものの、やはりどこか沈んで見えるのは、タイスがアスランの身近で接しているからだ。

そして、アスランから打ち明けられているからだ。

 ルリとルカのことを、ブルームでの幸せだった日々を。

 今まで昔語りなどしたことのなかったアスランの口から出た過去の記憶に触れ、人ごとなのに痛みが分かってしまうのだ。


 タイスは本当の両親の顔も知らずに育った。


 今時、珍しくもない戦争孤児で、五歳の時に現在の養父母に引き取られ成長した。

 養父母は二名の子供を手元に引き取り育てていたが、愛情を受けられなかったとか、差別されたであるとか、それこそ虐待など受けたこともなく、連邦の軍医であった養父と、やはり同じような仕事についていた養母に、実の子のように愛情を受け、何の憂いもなく育てられた。


 タイスが連邦軍の軍人になると伝えたとき、すでに軍を除隊していた養父は最後の最後まで入隊を反対していたのだが、最後は彼の意志を尊重してくれたのだ。

 タイスの他に引き取られたのは一歳下の義弟で、この義弟は現在養父母の元で生活をしている。

 特段、仲が悪くもなくそれこそ、よく連絡をよこしてくる。

 両親のいない自分に家庭を与えてくれた養父母と義弟を大切に思っている。

 実の両親を知らないという事さえ抜いてしまえば、普通の家庭と家族に囲まれて育ったのだから、アスランの家庭の事情を知れば知るほど、同情を禁じ得ないのだ。 


 母親を幼い頃に亡くし、父親は忙しく国外を転々とし、自宅に戻ることは稀で、いつも傍にいたのは同じ歳の幼なじみで、共有するものが多ければ多いほど、引き裂かれた痛みは想像を超える。

 軍に入隊した理由はその幼なじみを探したかった、想い出の場所を守りたかった、と。

 戻せない、取り戻せないと判っているから、アスラン自身も苦しんでいるのだから。

 そのような状況下の中で、作戦までの数時間を強制的な休憩に当てられても、アスランには余計なことを考える時間にすり替わっていくだけで、現に引き上げてからずっと、アスランは手に指輪を握りしめたまま虚を見つめていた。



「帝国に潜入してルリに逢えて、探していたルリとルカが生きていることを知って、嬉しかった。生きていたことにも、再会できたことも本当に嬉しくて……でも、その潜入で得た情報が元で俺はこれから、あの国を、ブルームのあったあの場所を、そしてルリとルカを攻撃しなければならなくなった」

「大丈夫か? お前……」


 タイスのあきらかに「心配だ」を含んだ声色に、苦笑いを浮かべると深いため息をつく。

 ただでさえ悩みが多くて、家族関係で苦労しているのに、追い打ちを掛けるような幼なじみの現状。

 ここ数日で目の前の戦友が一歳どころか十歳以上も老け込んだような気がする。


「大丈夫だ、といっても信用できないだろうな」

「お前がさ、俺の立場なら、大丈夫だという言葉を信じられるのか?」

「いいや、信じないな」


 思っていたよりもしっかりした声が自分の喉から発せられたことに、アスランはほんの少しだけ安心して、タイスに笑って見せた。

 昨日、アスランの元に四名の部下兼後輩が配属されてきた。自分と同じステラ候補の。

 以前の自分が司令官から受けたように、これからあの四名に出来うる限りの事をして、無事に宇宙に返せなければならない。

 ルリのこともルカのことも、そして四名の部下の事も。

 全てがアスランを追いつめていく歯車のような気がするのも事実だが、泣き言ばかりを言っていられる状態でもないのだ。


「軍人としてなら帝国を攻撃することに異論はない。俺が出した報告書も役に立つ。だが、軍人としてではなく、俺個人を問われたら攻撃なんてしたくない、ルリを、ひいては祖国のあった場所に銃口を向けることなんて出来ない、それでもタイス……今の俺は俺個人であると同時に、連邦政府軍の軍人としての立場があるんだよ」


 自然と出た言葉に胸が痛む。

 ブルームでルリとルカに会った。

 そしてあのブルームで二人と引き裂かれた。

 あのブルームを取り戻したくて、ルリ達を探したくて連邦軍に入った自分が、今日ほど滑稽に感じることはない。



『ルリ、俺は今、軍人なんだよ。ルリに自分の正義があるのなら、俺にも自分の正義があるんだ。その言葉を聞いた瞬間のルリのあの瞳が、あの言葉がこの胸を焼く』



***アスラン、正義ってなに? 

   それはどこにあるの?***








「これは間違いのない報告なのか」


その声には、明らかな苛立ちと侮蔑が込められていた。


「如何なさいますか」

「如何なさいますだと、そんなものは決まっている。消してしまえ。エイドリアンも余計なことをするものだ、いっそあの時に殺してしまえばよかった。方法はお前達に任せる、その双子を殺してしまえ、アスランと接触する前に」

 

報告書と一緒に手渡されたカードには、ルリとルカそしてアスランが映し出されている。


「ですが大臣、その二人には利用価値があります。帝国側の血を引いていることも、そしてブルーム八民政委員のカーディナルの子供でもあります」

「そんなことは言われるまでもなくわかっている、それでも切り捨てろ! やっと先が見え始めているのに、ここで元に戻すわけにはいかん。カーディナル家のこともカーディナルフェル家のこともいずれ対処は考える」


 これ以上の議論は無理だと悟ったその男は一度、時間を置いて相手の頭が冷えるのを待つのが得策だと考え、静かに頭を下げるとその場を後にした。

 部下が退出すると、再び彼は報告書を手にとり映し出されているルリとルカそしてアスランを見つめる。



 若い頃から政治家になることを目指し、月政府でその第一歩を踏み出した。

 その後、様々な紆余曲折を得て今はこうして連邦政府の高官となった。

 長きに亘るデュオン家の台頭に何度も煮え湯を飲まされながら、やっと地球の半分をデュオンの手から解放したのだ。

 もちろんその手段など選んでいられないときもあった。

 そうやって影の部分を作りでもしなければ、デュオン家の化け物達が地球を食いつぶすと考えたからだ。

 そのデュオンの血を引く娘と、孫息子アスランとの関係を知れば知るほど、悪しきデュオンの血筋の娘との仲など認めることなど絶対に出来ない。

 そもそもの原因が息子のエイドリアンだと思うと、忌々しくて今すぐ屋敷内に監禁している息子を自分の手で絞め殺したい衝動すら覚える。


 幼い頃から利発で、鋭い感性の持ち主であった息子にそれこそ惜しみない教育を施し、自分の傍に置き政治学等を始め色々なことを覚えさせた。

 自分の跡を継がせ政治家にしようと考えたこともあるし、息子の目利きの良さを認めていたこともある。

 だから軍籍に身を置かせたのも、今後に何かの役に立つだろうと判断してのことであったのだが、その軍に叩き込んだ直後から、どこかで歯車が狂いだした。  

 息子を軍に叩き込んだものの、最前線に送るつもりなどはなからなく、裏から手を回して後方支援やらに回していたにも拘わらず尽くそれを覆させた。

 初めのうちは息子の成長と笑っていたのだが、突然、決められた婚約を破棄し、誰とも知らないアシェリーナという女と結婚し、あげくドーマスカーの名も捨て、気がついたときにはすでに長男が産まれていた。

 そこにいたって、自分と息子との間にあった、見てみない振り、気がつかない振りをしていた確執は、高い壁となり深い溝となり二度と顔すら会わせない親子となっていた。



 二年前。



 初めて対面した孫息子のアスランは、ドーマスカー家の気質をそのまま受け継いでいて、若かった頃の自分にそれこそ良く似ていたのだ、体格も髪の色も瞳の色も。

 そのアスランが「連邦に入りたい」と告げた時、もちろん何故なのかの理由も調べさせた。

 カーディナルの娘や息子が、たとえアスランの幼なじみだとしても、そんな感情などすぐに忘れると思っていたのだが、二年経った今でも探していると報告を受けて苦々しく思ったのだ。割り切りの悪さもドーマスカー家の気質なのか、と。

 今やっと取り戻した自分の後継者を、みすみすこのような処で失うわけにも行かなければ、カーディナルの娘にくれてやるわけにも行かない。

 一つの難題が解決すると、次々に新たな難題が噴出し自分の足元の地面を削っていると思うにつけ、息子のエイドリアンがよりにもよってカーディナルと繋がっていた事実に腸が煮えかえる思いを抱いていた。


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