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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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*運命の幻想4*

「……アスラン、生きてた」



 それは俺のセリフと、笑って告げて、昔よくしていたようにルリの柔らかな頬を指先でなでたかった。

 なのに、出てきたのは安堵と不安のため息。

 そして発した声は自分が思っても見ないほどに頼りなかった。

 抱きついてきたルリの背に自分の両腕をまわすと、温もりや存在を確認するように、アスランは力を込めてルリの体を抱きしめる。


「……ずっと、あの日からずっと、ルリを探してた。ルカは? ルカも無事なのか。小父さんはどうした? ラン姉さんは?」

「ルカとパパは無事……生きてるよ。アスラン、逢いたかった……ずっと心配していたの」

「俺も……あの日、空港が攻撃されて無事に逃げたのか、どうしたのかずっとずっと心配で……探して、ずっと探して……ルリ、お前、今はどうしてるんだ? なんで帝国の屋敷に居た?」


 ルリの答えを待たずに再び矢継ぎ早に質問する。

 もっと落ち着けと、自分の声が耳の奥で響いていたが、響くだけで心が追いつかない。

 普段、出来は悪くないと自他共に認めるアスランの怜悧な頭脳もこんな時にはまったく役には立ってくれずにいる。


「時間がないの。今からちゃんと説明するから……」




   ルリ、俺が今、聞いたことは真実なのか?

   それが本当だとしたらルリ、俺はどうすればいい?



「アスラン、私は……私とルカは帝国の皇統の人間だった」




   この言葉の持つ意味を理解するだけの時間はなかった。

   誰も知らなかった。

   俺もルリも、ルカも。 

   この先、三人に与えられる未来が残酷だと。

   再会できたのはそれが運命なんだと思っていた。

   だけど、引き離されてしまった二年の年月が与えたのは残酷なまでの現実。

   だから何も言えない。

   何も答えられない。


「ルリ……」


 それ以上、アスランの口から言葉は続かなかった。


 まだ薄暗い海で、この秘密の場所で、聞かされた話は現実とは思えなかった、アスランには。

 タイスと約束の時間を決めてリバティ・ベルを抜け出したのは六時間前のことになる。

 無事にブルームに潜入することは出来たものの、当然のことながらルリと出逢った邸は厳重に警備されて、近づく事すら出来なかった。


 つい先日(前日とすら言えない前日)の銃撃戦の事もあり、大手を振って歩くわけにも行かず、また自分の顔が警備兵に知られていないとの確証もないから、警戒に警戒を重ねての行動だった。

 邸の中に再び潜入するためにルリと別れた海岸に出向いたが、洞窟の中は広すぎて、危うく迷子になりかけ、そこから邸を目指すのを諦めざる得なかった。

 あの時はまだ昼で洞窟の至る所に薄い太陽の光が降りそそいでいたが、深夜を回った洞窟内は本当に暗闇で、自分が歩いてきた道すらも見失った。

 そうこうしているうちに、決められた時間が迫り、何をどうすれば良いのかすら分からずに、その場に座り込んでしまったくらいだ。

 何も考えられない情けなさや、どうにも出来ないもどかしさに、正直を言えば泣きたくなった。

 アスランがこれほどに頼りない思いをしたのは子供の頃以来で、こんな時に働いてくれない自分の頭にも腹が立つやら、なんの妙案も浮かべることのできない不甲斐なさに涙が出てくるで、本当に途方に暮れていたという状態だった。 

 時間だけが確実に過ぎていき、仕舞いには地団駄を踏んで、やりきれなさを解消しようかとも考えたが、それはあまりにも大人げがなくて右足をあげかけた所で踏みとどまった。

 引越を告げた時、引きこもったルリと開鍵を巡って、あやうくPCを壊しかけたことを思いだし、こんな時だというのに口元に笑みが浮かんだ。

 そのおかげで心に余裕が生まれた途端、ふっと心に浮かんだ場所があった。

 考える間であるとかは殆どなく、アスランは踵を返すと洞窟を抜け出して海岸線を走り出した。

 


 ルリだった。



 月明かりが照らす夜の海を見ていた一人の少女の後ろ姿は、間違いなくルリだった。

 そこはルリが秘密の場所と言っては訪れていた、カーディナル家の裏庭から続く森を抜けた場所に存在する小さな入り江。

 入り江と言えるほどの大きさもない。

 それでもルリは、そこから見える景色が大好きで、よく三人で寄り道をしていたのだ。

 その懐かしい場所で再会出来たのは、自分とルリが同じ想い出を共有しているのだからだと思うと、嬉しくて、嬉しくて、直ぐには言葉が出てこなかった。

 だが、その思い出深い大切な場所でルリの口から聞かされたのは紛れもない衝撃の事実だった。




**


***大切な想いでは、僕の中にもある。

   三人で過ごした時間は今でも大切なんだ ***




「行っておいでルリ、大丈夫。アスランも絶対にあの場所に来るから」

「どうして、そんなことが言えるの、ルカ?」


 涙目のルリが痛々しい。

 運命の女神に喧嘩を売っても、アスランを渡すのはイヤだと言ったころで、それはルリの気持ちであって、現実にはどうすることも出来ない事も存在する。

 だからこそ、立ち止まることも、素直に納得出来ないことも存在する。


「ルリ、引き合う魂って知ってる?」

「しらない……」

「ルリとアスランの事だよ、今晩あの場所でアスランに会えなかったらルリと僕の負け、もしアスランに再会できたら、たとえこの後に残酷な未来が来ても、ルリと僕の勝ち。運命に闘いを挑むのは並大抵のことじゃない、だけどね、どんな未来でもルリ、僕はルリだけの味方だよ」


 そう呟いてルリを思い切り抱きしめた。

 引き合う魂のことはルリを励ますためだけの、気休めや嘘ではない、ルカの目から見ればルリとアスランには、なにか言葉では言い表すことのできない、言い尽くせない『特別な』ものが存在しているのだ。



 だから、確信なのだ。



 今日の昼間、ルリとアスランが出逢ったのなら、アスランは必ず何かしらの行動を起こして、ルリに逢いにくるであろうと。

 何故ならばルカも同じ事をするという確信。

 昔からルリのことに関してだけは思慮深さも、落ち着きも、一瞬にして吹っ飛ぶアスランが、このままルリを放置しておくはずがない。

 ましてやルカの知っている幼なじみは、知らないことをそのままにしておくことのできない性格をしている。

 爽やかで穏やかな見掛けからかけはなれた執念深さと頑固さを持っているのだ。


「大丈夫、絶対にアスランは来るから!」

「警備とかそれに……」


 言いかけた言葉にほんの少しだけルカは笑って、ルリの唇に指を立てる。


「大丈夫、お兄ちゃんに任せなさい。その代わり一つだけ約束してルリ」




***引き合う魂がある。

   そうルカから聞いて、私の魂は絶対に、アスランと繋がっていると信じていた。

   運命の導きなんだって、信じて疑っていなかった***




『だけど、真実は、むかし読んだ残酷なおとぎ話より、もっと残酷だった』   



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