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seek one's fate  作者: 六軒さくみ(咲海)


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12/12

*運命の幻想2*

「いや、だからさ、お前、さっきから何を言ってるんだよ、意味がわからない」

「そんなの、俺にだって……どう説明したらいいのか、わからないんだ!」



 絞り出した声が意外と大きく響き、驚いたのはアスランではなくタイスだった。



 怪訝な視線と、辺り一面を支配する沈黙を前に、苦笑いを浮かべたタイスに出来たことといえば、唇を噛みしめてディスプレイを睨み付けている親友兼同僚兼リーダーを立たせて促して、そっとその場を後にすることだけだった。

 自分たちが今いたのは、戦艦リバティ・ベルの司令室とは違う意味での頭脳ともいうべき一室で『ステラ』たる立場を最大限に利用して、使わせてもらっていたのであって、その場にはアスランとタイスの他にも、情報を収集するオペレーターや担当官が、当然の如く日常業務をこなしていたのだ。


 ただでさえ静かな空間であるのに、突然、キーボードに拳を叩きつける音がすれば、誰だって驚く。

 視線が一斉に集まるのも、それは致し方ないことで、ステージのアイドルよろしく何時までも視線何んぞを集めている訳にもいかないが、さりとて言いつくろう程の言い訳なんかを、咄嗟に思いつける筈もなくて、親友として出来る事と言ったら、とにかくその場を離れることだったのだ。

 人目を憚るなら、どうせなら女を連れ込むとか、色気のあることで人目を憚りたいという言葉が、心の片隅にうっすらと浮かんでは消えたが、親友の何かを思い詰めたような横顔を見れば、ただ事ではないことだけは推し量られて、とにかく事情を聞くためにもタイスは、自分用に用意された部屋へと急いで引き返した。

 途中「アスラン、お前どうしたんだよ」と本日、すでに何十回といった言葉を繰り返してみたがアスランは、ただ唇を噛みしめるだけで、ここでは言えないとばかりに俯いてしまった。



**



 泳いで味方と合流しようなんて、アホの考えることだと自分の迂闊さを呪っていたタイスを助け出したのは、アスランだった。


 自分の記憶が正しくて、きちんと頭が働いていれば何故アスランがこの場にいるのかを疑問に思うところだが、その時は泳ぎ疲れて体力も限界、浮かんでいるのがやっとの状態で、身体は冷え切り、思考能力はマイナスに近かった。

 地球生まれであるのだし、広い海を侮っていたわけではないが、海に飛び込んだ時点で冷静な判断なるものも一緒に海に投げ入れてしまったタイスは、助けられた後、自分がリバティとはまったく別の方向に向かって泳いでいたことを知り、自分の間抜けっぷりにあきれ果てて溜息すらも出なかった。

 自分たちが帝国内で護衛兵に見つかり大騒ぎになったおかげで、孤立していたリバティ・ベルが無事に脱出し、味方の艦隊と合流を果たしたこと自体は大変、お目出度いことではあったのだが、アスランが無事に脱出して自分と合流したことの方が断然、喜ばしいことだと、素直にそれを口にしたのだが、確かに今考えればアスランはこのときから様子がおかしかったのだ。

 そもそも、なんでアスランが無事に帝国から逃げ出して、あまつさえ自分を見つけ出すことが出来たのかを考えれば、十分におかしいことだらけだったのだが。

 リバティに到着したアスランは艦長にステラであることを告げて情報室を使わせて欲しいと、着任の挨拶も早々に進言した。

 艦長にしてみれば、自分たちを救い出した功労者であり、新しく配属されてきた『宇宙のエリート』であることも手伝い、内心では複雑な思いも抱えていたであろうが大人げない対応はせず、使用時間を限った上で許可を出してくれた。

 正式着任前の人間に対しては寛大な行為であることに間違いはない。



 冷えた身体が疲れを訴えていたタイスに、アスランは「付いてこなくてもいい休養をとれ」と告げたのだが、その言葉にいつもと違う何かを感じて、自分の体に鞭を打ち付けて同行した。

 この同行が正解だったと、ガラにもなくタイスは回顧するのだが。


「お前、さっきから何を言ってるんだよ?」

「俺にだって……何をどう説明したらいいのか……」



そして、数十分後



「何だよそれ、もう一度、説明してくれよアスラン…」


 どう説明すればいいのか、わからないと言っている人間に対して、随分と間抜けた発言だと考える余力は、タイスにはもう許されていなかった。

 濃密や濃厚と言った言葉は、本来、自分の大好きな色恋沙汰にこそ使うべき言葉なのであろうが、今日一日に起きた出来事を簡単に言おうとしたらまさに濃厚・濃密が的確な言葉ではないのだろうかと思ったのだ。

 他に「波瀾万丈」や「濃縮還元」でもいいような気がする。

と、思っている時点でタイスの脳みそはすでに活動を停止していたのだが。

 それでも動きを停止した脳みそを必死に揺り動かして、アスランの言った言葉を思いだし、まとめてみることにした。


「帝国内に探していた幼なじみがいて、その幼なじみと再会したのもつかの間、その幼なじみに助けられて帝国内を脱出できたと、いうことだよな?」


 ここまでは問題ないとばかにアスランも静かに頷く。


「で、その幼なじみがなんで、帝国内にいたのかはわからず? ええっと、なんだっけ?」「何もかもがわからないんだ、調べても、調べても。ルリが居た邸は帝国の王族所有で、なんであいつがそんなところにいるのか、もう何がなんだか」

「イヤ、俺はもっとわけわからないから!」


 深刻な顔つきの親友に届くことは絶対にないと思いつつも、愚痴なのかの判断すらもつかない言葉を投げつけたところで、何も判るはずもなく、後にはタイスとアスランの含む意味の違う重苦しい、ため息だけが部屋を満たしていた。




    アスラン、ルリが泣いてるよ、君と一緒にいたいと。

    僕は君と約束したのに、ルリを泣かせないって




『ルリ、もう泣かないで』

 ルリの耳の奥にアスランの優しい声が響く。

『ルリ、もう泣かないで。俺はここにいるよ。ルリの傍にいるよ、ずっと一緒だよ』

 ルリがいつも聞いていた声が、ルリの側にあった声が、ルリが望んでいた声が耳に奥に響いてる。


「ルリ、泣かないで」


 声はアスランではなくルカのもので、この数時間の事が夢ではなかったのだと突きつけられて、ルリはルカの胸で唇を噛みしめた。


「お願いルリ、泣かないで」


 それでもルリが泣きやまないことは、予測できたことであったし、話を聞いているうちにルカだって巡り合わせの悪さに舌打ちをつきたいのと、叫びだしたいのとで、なにをどうしたらいいのか、冷静に考える余裕はなかった。

 それでも、今、自分の腕の中で肩を震わせて静かに嗚咽を漏らす妹を前にすると、自分の怒りや、やるせなさは塵と同じだと思えた。


「アスランに逢ったよ、ルカ……」


 そう告げて、立ちつくしたまま泣き出した妹に、ルカの出来ることは抱きしめてやることと、経緯を聞くくらいだった。

 二年の月日が変えたのはアスランの身辺だけではなく、ルリやルカの身辺をも変えていたのだ。

 それを知った瞬間のルリの哀しみを思えば、ルカには抱きしめてやることしか他に思いつく手だても、言葉もなかったのだから。



 数時間前、邸の外が何事か大騒ぎしていたのは知っていた。


 暖かくて天気のいい日は、危険だからと止めてもルリは「ひなたぼっこ」と称しては庭のベンチに座って読書するのが日課になっていた。

 ついぞ二年前のルリからは想像もできない読書する姿は、窓から見ても信じられない光景の一つだ。

 多分、兄弟同然の幼なじみも同じ事を思うだろう。

 ルカの知っているルリは、とにかくお転婆で、一つの所に大人しくじっとしているということがなかった。

 体を動かすことが大好きで、暇さえあれば乗馬を楽しみ、雨の日は邸の地下にあるコートでテニスを楽しむ、物静かでたおやかなとは無縁の活動的な少女で、まれに大量に出る宿題のために机に向かうことがあたとしても、その活動に陰りが差したことなど一度もなかった。 

 そのルリが読書を趣味にしてしまった。

 十五年間を一緒に過ごし、以心伝心であるルカでさえ驚いた。

 でも読書の内容を知ってやっぱりルリはルリだと思ったのは確かで、その読書の間、ルリの心を占めているのは間違いなくアスランのことだ。

 ルカがことある事にルリとアスランを結び付けて考えるように、ルリはベンチに座って、自分の記憶の中にいるアスランを見ていたに違いない。  

 


 共に育った一五年間。



 両親よりも傍にいて楽しかったことも、哀しかったことも全てを共有してきた。

 ルリやルカにしてみれば一緒にいるのが当然で、一緒にいるのが自然で、離れてしまうことなど想像もしていなかった。

 たった一言でもたらされた突然の別れが、その後、長く続く事になるなんて、ルリにもルカにもそしてアスランにも予想できなかったのだ。

 アスランに出逢ったのだと、夢にまで見た再会だったのだと、ルリが打ち明けた時にはアスランの無事を知ってルカも喜んだ。

 逢いたくて、逢いたくて堪らなかった幼なじみ。

 だからルリも喜んで、直ぐにアスランに会いに行くと言い出すと思っていた、目の前でルリが声を殺して泣き出すその間際までは。


「ルカ……アスランは」と続けて泣き出したルリが腕の中で呟いた。

「ステラになってた……」と呟いたルリ。


 その一言が今後、どれほどの『重さ』を伴ってくることになるのかすぐに解ってしまったルカには、腕の中のルリをただ強く優しく抱きしめることしか出来なかった。

 昔から気が強くてお転婆な割には良く泣いた双子の妹。



 ルカの半身。



 この二年間でルリは泣ける場所を無くしてしまった。

 正確には二年前から時間が止まってしまった。

 アスランと引き離されてしまったあの空港の、あの瞬間から、ルリは二度と声を上げて泣くことも、誰かの胸にすがって泣くこともなかった。

 そのルリが泣いている。 

 アスランに出逢ったと泣いている。


「アスラン、ルリが泣いてる」


やりきれない想いに支配されて、ルカも涙をこぼした。


「ルリを頼む………ルカなら言わなくても、だよな」

「当たり前でしょ、僕はルリの双子の兄だからね、ちゃんと約束は守るよ」


 ほんの少しはにかんだアスランの顔には、優しさと不安が入り交じって「別れる」こと「離れる」ということに感じた漠然としたやるせなさを十分に含んでいた。



    アスラン、君はどんな想いで武器を手にしたの。

    どうしてルリとアスランはこういう形でしか出会えないのだろう。



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