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the moon on the sixteenth night of a lunar month.

作者: 咲良 紫苑
掲載日:2010/06/13

今夜は満月の夜。真っ黒な闇を銀色の淡い光でほんのりと照らす月を見ていると、とても穏やかな気持ちになる。

学校の先生は、月は太陽がなければ輝けないなんて言っていた。最もだけど、夢がないわ。私は太陽よりも月の方がずっとずっと好き。

それに、月ってとてもロマンティックだと思う。一日一日の月の形にひとつひとつ名前を付けているんだって。

私が一番好きな月は十六夜の月。

満月の次の日、ほんの少しだけ欠けている月。

普通に見たら満月だって思うけれど、本当は少し欠けていて足りない。

月は誰にも悟られないように一人でそっと昨日の満月を思っているのかな。なんて思うから私もじーんときてしまう。


この気持ちはママからの受売りなんだけどね。


私の家は、世に言うお金持ち。パパは貿易のお仕事をしていて、世界中を飛び回っているの。王様や総理大臣を相手に商談を進めるパパはとってもかっこいいのよ。いつも忙しくしているパパだけど、休みの日にはちゃんと家族揃ってご飯を食べたり、お話したりとっても幸せに暮らしている。

欲しいものは欲しいだけ、手に入れることができるお金はあったけれど、パパもママもそうやってお金持ちをひけらかすことが嫌いで、いつでも誠実に、謙虚に生きなさいと言い聞かせて私を育ててきた。

でも小さい頃の私は、私はお金持ちのお嬢様よっていう変なプライドを持っていたの。

その頃の私は月よりも太陽の方がずっとずっと好きだった。月なんて、みんな眠ってしまって見ていないじゃない。それに比べて太陽はいつもみんなの中心だわ。太陽の方が人気者で、素敵よ。そう思っていた。

自分で言うのも恥ずかしいけれど、私は可愛らしい女の子だった。家を訪ねてくるお客さんはみーんな、可愛いね。お人形さんみたいね。なんて褒めるものだから、得意になっちゃって、私はみんなの太陽よ!なんて思っていた。

その頃の私はなんでも自分の思うようにしようとしていた。でも私が高飛車な態度を取ろうとすると、パパもママもとっても怒った。私は怒られるといつも大きな声で泣いて婆やに助けを求めに行った。パパのママ、私のお婆様はパパが小さい頃に亡くなって、その変わりに婆やがパパを育てていたから、パパもママも婆やには頭が上がらないことを私は知っていたの。今考えると、とても計算高くて本当に可愛げのない子どもだったと反省しちゃう。でも婆やは優しい声で、でも厳しい目で、パパとママの言っていることが正しいよ。我儘を言ってはいけないよ。と私のことを叱った。婆やは絶対私の味方をしてくれると思っていたから、とてもビックリしちゃって、悔しくってショックで、そのままトイレに閉じこもったの。でもだんだん、どうしてお譲様の私がトイレになんて閉じこもっていなくっちゃいけないんだろうってまた悔しくなってきて、今度は婆やの住んでいる離れに立てこもった。当時の私には立てこもって心配させることでしか、パパとママ、婆やに私の気持ちを理解させる方法はないと思っていたの。一人でいじけていると、時間の感覚が狂ってきてしまうのかな。本当は十分かそこらしかたっていないんだろうけど、何時間も一人でいるような感覚だった。最初は怒っていたから流れた涙も、だんだん寂しくて、不安で流れる涙に変わっていくのを感じていた。違う感情で流れている涙なのに、おんなじにしょっぱいことに気がついて、驚いたことも覚えている。





その時、家の窓からは空に浮かぶまぁるい月が見えていた。

お月さまなんて嫌い。お日様の方が素敵だもん。

「あら。私は今日のお月さま、大好きよ。」

独り言を言ったつもりが、不意に返ってきた言葉に少しビックリした。けれど、不安な時に聞くママの声はいつも聞く声の何倍も優しく聞こえる。思わずママに抱きついてちょっとだけうれし泣きしちゃった。

ママのバカ。本当はそんなこと全然思っていなかったけれど、悔しくて反抗的になってしまう。

「そんなこと言ったらママ、おうちへ帰っちゃうわよ。」

ママは私をおいて部屋を出て行こうとするから、私はぎゅっとママの手をにぎりしめた。ママはそんな私を見て、いたずらっぽく笑うと優しく私を抱きしめてそっと窓のそばに腰かける。

月明かりに照らされたママはとっても綺麗で、私は怒られていたことも忘れてママがママでよかったなぁって思ったの。

「今日の月はね、十六夜の月っていう名前なのよ。ママはこのお月さまがどんな形の月よりも大好き。」

イザヨイノツキ?私には呪文のような響きに思えた。

「そう。16番目のお月さまという意味よ。昨日の月はまんまるで一番大きなお月さま。それよりもほんのちょこっと欠けているの。」

私にはまんまるに見えるわ!私の目にはただのまあるいお月さまにしか見えなくてちょっと強気で言ってみた。

「そう見えるけれど、本当はまんまるじゃないのよ。」

ママはいわくありげな顔でそう私に言った。私は見えないものを信じろと言われているような気がして、ママの目がおかしいんだわって言ったの。でも、ママは相変わらず今日のお月さまはちょっと欠けているって言いながら、お月さまを愛おしそうな瞳で見ているから、どうして今日のお月さまが好きなのか聞いてみたの。するとママはうふふって笑って

「パパと出会ったのが満月の日だったの。」

と言ったの。私はますますわけがわからなくなったわ。パパと出会った日が満月なら、満月の日が好きなはずじゃないって。私の混乱した顔を見てママはもう一度うふふって笑って話してくれた。


 「私がパパに初めて出会ったのは、十九歳の時。ママの住んでいるおうちは大きなお屋敷だった。ママのお父様は町で一番偉い人だったのよ。だから私は小さい頃から踊りとか、歌とかたくさんの習い事をしていたの。もちろん、お勉強もね。」


私はお勉強と聞いて、算数の宿題が出ていたことを思い出したけど、すぐに忘れることにした。私は算数が大っきらい。ママもお勉強嫌いだったのかなぁなんて思いながら続きを聞く。


「ある日、我が家で大人だけのパーティーが開かれたの。いつもなら、私がちゃんと勉強するように見張っているお勉強の先生も、お父様もお母様もみんな会場に行ってしまって、私は一人でお部屋にいたの。でも、楽しそうな笑い声や話し声が聞こえてきて、私も行きたくなってしまったの。まだ、大人じゃないから本当はダメなんだけど、綺麗にお化粧をして、ドレスを着て、髪の毛もちゃあんとセットしたら、とっても素敵な大人になったような気がしたのよ。」


ママは相変わらず月明かりを浴びてキラキラ光っているよう。まるで月の女神さまのようだわって思った。おめかししたママは本当に綺麗だったんだろうなって思いながら私はママを見つめる。ママは私の髪を優しくなでながら話を続けてくれる。


「そっとパーティー会場に忍び込んでみると、豪華なドレスを身にまとう女の人や、スマートな男の人がお酒を飲みながら楽しく過ごしていた。みんな、とろんとしていて、私一人が緊張しながらこの場にいるんだってことに気がついたの。でも、ママのことは誰も気がつかなかった。みんな、素敵ねって褒めてくれたわ。でも、やっぱりここは大人の世界。まだまだ中身はお子様だったみたい。私はほんの少し居づらくなってしまって、ベランダに出ることにしたの。その時、大きくて、まんまるなお月さまが私のことを見下ろしていた。私はあまりの綺麗さに息をするのを忘れて見入ってしまったわ。」


私は息をするのを止めるとすぐに苦しくなってしまうから、ママがどうやって息をしないでいられたのか、すごく気になった。

「その時、後ろから、今日の月は確かに綺麗だけど、俺はこの月なんて比べられないほど綺麗な月を知ってる。お前本当に筋金入りのお嬢様だな。外の世界全く知らないだろって声が聞こえてきたの。私はムッとして声の主を探したわ。そして見つけた。」


パパのこと?


「そう。パパのこと。黒い燕尾服をパリっと着て、ベランダに寄りかかりながらこっちを見て笑っていたの。確かに顔は格好良かったけど、自分が格好良いことをわかっているようで、すごく感じが悪かった。そうそう。パパを初めて見た時は何こいつ!大っきらいって思ったのよ。」


ママは大っきらいだなんて言っているけど、笑っている。クラスの男の子は私にちょっかいを出してきて、とっても嫌い。だから私はとっても嫌な顔をしてしまうのに…


「私は本当に頭にきたけれど、こういう時に自分の気持ちをうまく言葉にできないのよ。怒ってる気持ちが私の体の中だけで燃えているの。熱くて吐き出したいのに、言葉になって出てこないの。きっとパパは暗くて覚えていないと思うけれど、私の顔は真っ赤だったと思うわ。だから、私はどうしようもないから関わらないで自分の部屋に戻ろうとしたの。そうしたらパパは、俺がもっと綺麗な月をみせてやるよ。っていうのよ。私、目の前にいる男の人の考えていることも、誰かもわからないのに、今日の月よりも綺麗じゃなかったら承知しないから。なんて言っちゃたのよ。やっと出た言葉がこの言葉で、正体不明の男の人と一緒に月を身に行く約束をしてしまったの。次の満月の時に、庭の噴水の裏で待ち合わせをすることになったのよ。」


ママとパパが喧嘩!?信じられない。今では本当にすごく、すごく仲が良いのに。


「部屋に戻ったあと、今まで感じたことがないほど心臓がドキドキしていたの。心臓の音で体が揺れるぐらいよ。きっとすごく頭に来たからだと思った。その日はなかなか眠れなくて、やっと眠れたと思ったら次の朝だった。昨日のことは夢だったのかなって。パパの言った言葉をひとつひとつ思い出しては夢じゃなかったことを確認していた。昨日のことは、お母様にも、お父様にも内緒にしていたから、次の満月まで私は一人でずっとパパのことを考えていたの。一人で秘密を温めているとね、ドキドキする気持ちがどんどん大きくなっていくのよ。心にお月さまがあるみたいに。最初は細くて不安そうな光しか見えないお月さまが、日に日に大きくなって期待でいっぱいの満月になる。わかるかな。この気持ち。そしてやっと満月の夜。みんなが寝静まったあと、窓から抜け出して庭の噴水に走って行った。緊張しすぎちゃっていたから、いきなり待ち合わせ場所には行けなくて、遠くから噴水を見てみたの。でもまだパパは来ていなくて、今日は満月じゃなかったかな。なんて不安に思っていたら、なにコソコソしてんだよって後ろから頭をたたかれた。心臓が跳ね上がったわ。」


ママの話に出てくるパパはどこか今のパパとは違う気がした。だって、今のパパはママにも私にもとっても優しいしゃべり方をするもの。それに、ママのことをたたいたりしない。なんでだろう。ってママに聞いたら、ママはきっと照れ隠しよ。って言って笑った。パパはママに対して、もう照れたりしないのかなぁ。


「パパはそう言うとスタスタと歩きだしたの。私がどこに行くのか聞いても教えてくれなくて、無言で私のずっと先を歩く。お家の庭を抜けて、真っ黒な森の中に入って行く。いくら話しかけても、いいから離れないでついてこい。としか言わなくて、ひょっとして私、誘拐されているのかな。なぁんてちょっと怖くなったけど今更一人で帰るのも怖くて。ただパパに置いていかれないようについていくしかできなかった。でも、その時気がついたの。前にお父様と一緒に森に入った時は、草とか小さな枝とかたくさん生えていてすごく歩きづらくて、あっちこっち小さな傷ができて痛かったはずなのに、今日はすごく歩きやすい。なんでかなって思ったら前を歩くパパが枝をポキポキ折りながら、私が歩きやすいようにしていてくれたの。なんだ。この人、言葉はきついけど、優しいじゃない。って思ったら急にかわいく思えて、怖かった気持ちも吹っ飛んでしまったわ。急いでパパの隣に走って行ってありがとうって言ったら、パパはすごく意地悪そうに、筋金入りのお嬢様は舗装されてる道しか歩けないだろ。なんて言うの。でも私は全然嫌な気持ちがしなかった。それからは、一緒に草木をわけながら少しずつ話をしたの。自分のことや家族のこと。好きなことや嫌いなこと。最初、パパは私の話を聞いているのかいないのか良くわからなかったけど、だんだん自分の話もしてくれるようになった。パパは私よりも1つ年上。私のお家と仲良くしていた貿易のお仕事をしているお家の子どもで、弟がいること。本当はパーティーは大っきらいなんだけど、あの満月の夜のパーティーは、大人になって初めてのパーティーだったから、無理矢理連れてこられたこと。そうしたら、間抜けそうな女が口をあけて月を見ていて、少し笑えたこと…そんなことを話してくれた。」


ママはちっとも間抜けじゃないわ!とっても綺麗よ!そう私が言うと、本当よね。パパにもよぉく言ってちょうだいね。なんてママは言う。よし。パパに会ったらママは世界一綺麗なのよって言うんだから。


「どのくらい歩いたのかな。今まではずっと同じ景色を繰り返していたのに、急に森が開けたの。そこには小さな池があって、空気がとっても澄んでいたわ。パパは、着いた。ここの月は一番綺麗なんだ。って言うから私は慌てて空を見上げた。でも、月は全く見えないし、空もほんの少ししか見えないの。ぽかんとする私を見て、パパはクックっていたずらを仕掛けて成功した子ども見たいに笑うと、私の腕を引っ張って池の方へ連れて行ったのよ。池を覗いてみると、そこには空には見えなかったはずの満月が水面に映っていた。すごく綺麗で、月の光が粉になって水にキラキラ浮いているようだったわ。いつもは見上げることしかできなくて、すごくすごく遠くにある月が、手を伸ばせば触れることができるようなところにゆらゆら揺れているの。後から聞いた話だけど、その場所からは直接空の月は見えないけれど、池には月が映る角度に奇跡的になっているんですって。池に映った満月を見た私は、綺麗っていう言葉がすごく簡単な言葉に思えるほど感動した。パパはそんな私を見てすごく満足そうにしていたわ。俺の言った通りだろ?って。それからどうやってお家まで帰って来たかは覚えていないの。ただ、覚えているのは、また、連れて行ってくれる?ってパパに聞いたら、もう、一回連れて行ったんだから、次は一人で行けって言われたこと。でも、私は筋金入りのお嬢様で舗装された道しか歩けないからあなたも一緒じゃなきゃ無理よって言ったら、しょうがねぇなって言って、また次の満月の日に一緒に月を見に行く約束をしてくれたこと。ママが十六夜の月が好きな理由はね、すごく楽しくて夢のような昨日を思い出す時の甘酸っぱさや、ちょっと切ない気持ちが、十六夜の月に似ていると思ったからよ。きっと、一番満ち足りていた満月を思って切ない気持ちになっているんじゃないかしらって。」


素敵なお話ね。私がそう言うと、ママは今日の月を見上げたの。私も一緒に月を見上げた。今では、太陽とお月さまだったらお月さまの方が好きかもしれないわ。と思いながら。


「私はあなたにお月さまのような人になってほしい。みんなが寝静まった後も、真っ暗な夜で迷子にならないように、照らしてあげるお月さまのような。人の気持ちにそっと寄り添うように優しく輝くお月さまみたいな人になってほしい。」


ママは相変わらず、私の髪をなでながらそんな風に言ったの。ママになでてもらっていると安心して眠くなってくる。私の消えかける意識の端っこに、私とママを包み込むように笑うパパの姿が見えた。もう限界…でも、パパにちゃんと言わなくっちゃ…


パパ、ママは世界一優しくて綺麗なのよ。間抜けなんかじゃないんだから…



幼い頃の大好きな思い出。今でもその時のことは良く覚えている。ママを見つめるパパ。パパを見つめるママ。ママに見つめられてちょっとたじろきながら、なんだよって照れているパパ。私の知っている二人じゃないみたいだった。ママはずっと可憐で可愛らしくて、パパはハッとするほど無邪気で格好が良かった。きっと私は、私が生まれる前の二人を見ていたんだろうな。いつか、私もママとパパのような素敵な恋がしたい。



そっと寄り添い見守ってくれるのは、夜空に浮かぶ優しい優しいお月さま。


レラさんをモデルにしています。

わかる方、いらっしゃいますか?


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― 新着の感想 ―
[良い点] はとぽっぽです♪ 「the moon on the sixteenth night of a lunar month」とても面白かったです!! 話の展開や書き方がとても好きで、最後まで楽…
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