出発
「では、どなたがどこの区域を受け持つか決めようと思います。ですがその前に右京「覚醒者〔プレイヤー〕」あいつはどうした?」
あいつとは右京が所属しているところのギルドマスターのことだがこの口ぶりからして十文字はその者と深い間柄のようだ。
「そのことなんですが間もなくギルマスから電話があるかと...」
十文字の携帯が鳴った。
プルルル...
十文字が声を発しようとしたがそれを遮るかのように
ギルマスは自分の用件だけを伝えてすぐに電話を切っていた。
「お...」
「俺ちゃん、ずだばの新作フラペチーノを飲まなければいけないというとても重要な任務があるから俺ちゃんの代わりに右京に出席してもらったから。後、俺ちゃん達は東北側を引き受けるから他はそっちで適当に決めといて。まぁそういうことなんで頼んます」
何回か掛け直したが応答がなかったので十文字は呆れていた。
「ハァ...まったくこいつときたら...そうしたら『我路ギルド』は東北方面を『矢嵐ギルド』はその援護などをしてもらい、『水龍ギルド』と『火龍ギルド』で中国方面を組合は四国方面を受け持つということで問題なければこれで実行に移したいと思いますが...」
不知火、瀧石、右京、矢沢はただ黙って頷いた。
四人が会議室から出ようとした時十文字はこのことに関して何か言い忘れていたことがあったようだ。
「それから、何か不測の事態が起きた時それらを対処できるように私と九条はここに留まり戦場での指揮などは東北を司波、中国、四国を桐生にやってもらうので何かあればその者に聞いて下さい」
(まぁ「義息〔バカ〕」ではなく右京君がやるはめになると思うが...」
さっきまでなんともなかったのに何故か不知火と瀧石の顔から明るさがなくなっていたのでそれを見た桐生が二人に問いかけていた。
「不知火、瀧石お前ら表情がなんか暗いけどどうかしたか?」
「いえ...お気になさらず...」
我路ギルドは八名全員で現地に向かうが他の三大ギルドはそうではなかった。
三大ギルドは所属している半数のハンターを連れていくつもりだった。
それは、人々が暮らしている居住地にもゲートは出現するので全員で行ってしまうとそれを攻略する者がいなくなってしまうのを防ぐ為だった。
三大ギルドのギルドマスターは自分達が不在の間、
ギルドの運営などを他の者に代行してもらおうとしていた。
人員が少ないのと我路ギルドの援護ってこともあり
矢沢は五十嵐に託していた。
「直哉、僕の代わりにギルドの方は任せるで!」
「こっちのことは気にせんでええから総一は「魔物〔モンスター〕」を撃退することに専念しいや!」
不知火は部下の京極大雅、瀧石も部下の熊谷宏光に託していた。
「俺がいない間ギルドの方は大雅頼むぞ!」
「龍然さんの代わりにちゃんとやっておくんで、龍然さんは無事に帰ってくることだけ考えて下さい」
「私が不在の期間ギルドの方は宏光、貴方に任せました」
「龍水さんが帰還するまでしっかりと自分の役目は果たしておくのでご心配なく!」
四大ギルドは各々の戦場に赴きまた「非覚醒者〔ノープレイヤー〕」の者も一緒に同行していた。
なぜかというと今から目指すのは「魔物〔モンスター〕」によって荒野された大地なのでゲートをなくした後、街を再建させる人員としての役割だった。
この頃には湊も人里離れた場所に着いていた。
すぐにチケットを使用すると思ったが湊の額には冷や汗が流れ若干躊躇っているようだった。
(俺なんかにできるのか...もしあの時みたいになったら...)
それもそのはず、今回潜ろうとしている「迷宮〔ダンジョン〕」にはたった一人で挑まなければならずましてやこの間には、生死の境をさまよい死ぬかもしれないという恐怖、生きて帰ってこれないかもという不安が襲い尻込みするのは当然の心理だった。
肉体は以前の弱々しかった湊とは想像がつかないくらい一変してはいたが周りから役立たず、出来損ないなどと浴びせられ自分に自信が持てずどうせ無理だとという限界の壁を作り卑屈になって一歩を踏み出せずにいた。
まだ、湊の心は弱者の頃と変わりなかった。
それを見かねてムゲンが勇気づけていたのか分からないがリズミカルに煽りながら湊に発破をかけていた。
「ビビってる!ビビってる!ミナトがめちゃくちゃビビってる!ヨイショ!」
「お前って奴は俺がどんな思いでいると...」
うなだれている湊にいつもと違う雰囲気でムゲンは何かを伝えようとしていた。
「ミナト、今の弱いままでは「迷宮〔ダンジョン〕」で強者にねじ伏せられ淘汰されてしまう。それに「迷宮〔ダンジョン〕」では誰もお前のことを守ってくれる奴、手を差し伸ばしてくれる奴はそうそういないだろう。自分を救え変えられるのは自分しかいないからこそ誰かに縋るのではなく自分自身で道を切り開く他ない。お前は誰の為、何の為に強くなろうとしたんだ!思い出せ!」
湊はムゲンの言葉にはっとさせられ頭の中に楓と蓮のことが浮かび、今までされたひどい仕打ちや殺されかけた強い怒り、憎しみが蘇り右手を強く握っていた。
「そうだ...楓はこれから高校、大学へと進学したいとなった時に金銭的な問題で断念させたくない。蓮なんて父さんと母さんがいなくて寂しい思いをしているはずなのにそれを表に出したことはない。これ以上二人には辛い思いはしてほしくないから俺が稼げるようになって何不自由ない暮らしをさせて二人に危険が迫った時には俺が守れるぐらい強くなりたいと思ったんだ!それに!弱いから舐められ見下され挙句の果てには刺され置き去りにされる始末だった!二度とそんな思いも仕打ちをされるのはうんざりだ!だから...もう誰からにも奪われないぐらい強くなる為にここまで来たんじゃないか!」
ムゲンの言葉がしっかり届いて先ほどまでうなだれていた湊の表情が変わり、自信に満ち溢れたような面構えをしていた。
そうなったのはムゲンのおかげでもあるが湊自身が決意して縛りつけられていた物が解放され振り切ったことにもよるのだろう。
「ありがとう、ムゲン」
照れているのかムゲンは素直ではなかった。
「勘違いするんじゃない。ワシはただお前に死なれては困るからしただけのこと。礼などは要らぬからせいぜいワシのために強くなることを心がけることじゃ!」
湊はこの素直じゃない返し方はとてもムゲンらしいと感じていた。
また、湊は段々とムゲンなりの優しさなどが分かっているようだった。
湊は「収納倉庫〔インベントリ〕」からチケット三枚の内Lv推奨が低い物を選んで取り出していた。
チケットにはこう書かれていた。
【チケット】
Lv六十の汝、勧む
汝、帋に妙なりを込めば現前に出で来
湊はなんとなくだがチケットに「MP〔魔力〕」を込めたらいいのではないかと思った様子だった。
指示通り「MP〔魔力〕」を込めるとチケットは眩しいほどに光出した後、跡形もなく消えた。
その数十秒後に空間に亀裂が入るような音がしてそれが剥がれ落ちた後、湊の目の前にゲートが現れた。
ピシッ!ピシッ!
ガシャーン!
このチケットには米粒程度の文字で注意事項が書かれていた。




