第七話 『運命』はあなたを殺すことを諦めました
「初めに言っておきますが、この部屋での出来事は記憶は残りません。この前は転生させようと肉体ごと連れてきたので記憶も残ったみたいですが、今回は精神だけですから」
ふと気づいた時にはもう、女神様に話しかけられていた。
周囲を見渡すと、白い景色が広がっていたので……なるほど、またしてもこの空間に来てしまったらしい。
「やっぱり、ここって夢じゃなかったんだ」
「はい。もちろん、現実でもありませんが」
寝ている間限定で、しかも記憶に残らないなら、ほぼほぼ夢と言っていい気がする。
ともあれ、この空間は嘘でも妄想でもなかったことを確認できて、安堵した。
「ここで今起きている出来事って、全部忘れちゃうのか?」
「そうですよ。何をしても、何を話しても、ぜーんぶ忘れちゃいます。たとえば光喜様が通り魔に襲われた際、少しだけ泣いていたことを幼馴染の彼女が気付いていましたが、それを私が教えたことも現実では忘れるので安心してくださいね」
「麗奈は気付いてたのか!?」
だって怖かったから仕方ない。
ナイフと殺意を向けられたのだ。もらさなかっただけマシだと思っているくらいだ。
まぁ……できれば、このことは麗奈にはバレたくなかったなぁ。彼女は観察眼も鋭いので、隠し切れなかったようだ。
「わざわざお泊りして、手を握ってくれたのも、きっと光喜様のことを気遣ってのことでしょうね」
「優しい。幼馴染が優しすぎる」
麗奈がいい子すぎるせいでまた泣きそうだった。
人の優しさは温かい……と、いうのはさておき。
やっぱり、泣かれていたことを知られていたのは、なんだか恥ずかしい。
なので、そろそろ話題を変えることにした。
「俺って、本当に転生する運命だったんだな……」
この空間が、実際にあるものだと確定した。
つまり、前回の出来事も真実だったということである。
あの時に女神様は『俺が転生する運命にある』と言っていた。
そのことを思い出したのだ。
この空間に来て以降、転生フラグが乱立している。
昼間はその対処に忙しかった。トラックの暴走、突然の落下物、犬と子供の飛び出し、通り魔……色々あったが、しかしそれ以降は途端に何も起きなくなった。
「はい。でも、あなたの幼馴染のせいでうまくいってないようです」
女神様は、どこか不服そうである。
唇を少し尖らせて俺をジトっとした目で見ていた。か、かわいいな。
それにしても、やっぱり麗奈に似ている。特に銀髪の髪と金色の瞳が酷似していた。
大人になった麗奈、と言っても過言じゃない気がする。
「おかげでネタ切れのようです。運命はあなたを殺すことを諦めました」
「な、なんか怖いこと言ってる……」
運命が残酷だった件について。
しかし、麗奈にフラグをバキバキに折られたようだ。
「それで、俺に何か用なのか?」
世間話、というか近況報告はこのくらいにして。
気になっているのは、女神様が俺をここに呼び出した理由である。
はたして、彼女は俺に何の用事があるのか。
「いえ、用事はありませんよ? ただ、オシャベリしようかなって」
なんだよそれ。かわいいな。
麗奈みたいな見た目をしているので、正直なところ女神様はすごく大好きな顔である。そんなことを言われると照れるな。
「そ、そっか。まぁ、オシャベリくらいなら麗奈も許してくれるよな……!」
「大丈夫です。ここは私の創造した世界なので、何をしてもバレません。つまり、浮気し放題です」
「女神様に手を出すとか、どれだけ性欲強いんだよっ」
「転生する英雄様は好色な方も多いみたいですよ? 女神だろうとハーレムに加えていると聞いたことがあります」
「たしかに」
女神様がヒロインになるのは、異世界ファンタジーの定番ではあるか。
まぁ、それはさておき。
そういえば彼女に聞いてみたいことがあったので、質問してみた。
「女神様、教えてくれ。麗奈って何者なんだ?」
俺の幼馴染は、明らかに普通じゃない。
今までは、とにかく可愛くてちょっと格闘技の才能があるだけの女の子だと思っていた。
しかし、転生フラグをことごとく壊しまくっている姿は、明らかに普通ではなかった。
俺は、彼女が何か特別な存在ではないかと疑っていた――。
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