エピローグ 異世界ファンタジーより、ラブコメが好き
「と、いうことは――まだ、諦めなくていいってことかしら?」
あれ?
ぐっすり寝ていたはずのフィオが、いつの間にか起きていた。
俺の腕枕で寝たふりをしていたのかもしれない。話は全部聞いていたのか、彼女もいきなり割って入ってきた。
「今度、ヘイムの魔力が回復した時も、まだ世界を救うのに間に合う可能性はある……そういうことよねっ」
「うん。ミツキが良ければ、の話だけど」
「申し訳ないけど、俺は行くつもりはないぞ?」
こればっかりは、いくらフィオでも気休めになるようなことは言えない。
行く気がないと、正直に伝えた。しかし彼女は、それでもいいいと頷いていた。
「ええ。だから、考えるわ……ミツキお兄さまが行かなくても、わたくしたちの世界に干渉できる手段があるかもしれないもの」
「え? そんなこと、できるのか?」
「分からないわ。だから、考えるの。時間に猶予があるのなら、わたくしは諦めないわ」
フィオは相変わらず、王族としての責務を果たそうと一生懸命だ。
今回は手段を間違えた。だから次はやり方を変えると、そういうことなのだろう。
「それに……単純な話よ。今はミツキお兄さまがレイナお姉さまに夢中だから、振り向いてくれないけど。わたくしたちが、奪えばいい話よね」
「う、奪うって……」
物騒なことを言わないでほしい。
そんなことを言うと、彼女が登場してしまう!
「つまり、この世界で言うと……『寝取れ』ばいいのよ!」
「12歳が使う単語にしては過激すぎるぞっ。麗奈に聞かれたらどうするんだ!?」
「――ふーん。フィオちゃん、いい度胸してるね」
あ、遅かった。
フィオの宣言と同時に、麗奈が我が家の扉をあけ放った。隣にはセーラもいる。
ちょうど、買い物から帰って来たらしい。
彼女は耳がいい。特に、俺に関係する話に限って聴覚が上がるので、バッチリ聞き取っていたようだ。
「わたしから、光喜くんを奪えるとでも?」
「ええ。それなら、ミツキお兄さまの意思に反するということもないわっ。わたくしたちが、メロメロにしてしまえば魔王化する可能性もなくなるもの!」
「……バトルじゃなくて、ラブコメで勝負ってことね。いいよ、正々堂々――戦おうか」
ああ、なんでこうなっちゃうんだ……!
せっかく、平穏な日常ラブコメになるかと思ったのに。
フィオの宣戦布告と、麗奈の喧嘩上等精神のせいで、穏やかな日常を過ごせそうになかった。
「セーラ、ヘイム。次は、ミツキお兄さまを惚れさせるわ。それがわたくしたちの勝利よ」
「……姫がそう言うなら、別にいいけど」
「は、破廉恥な! し、しかし、ご命令であれば……くっ。私はまだ男性と手すら繋いでいないのだからな!? ミツキ殿、優しくしてくれっ」
「別に何もやらないけど!?」
俺が何をすると思っているのか。セーラが顔を真っ赤にしていて、こっちも動揺してしまった。
「望むところだよ……私が、全員つぶす。『幼馴染』を舐めないでね?」
そして麗奈も、怖かった。
やる気満々である。ともすれば、昨日のバトル以上に熱くなっているように見えた。
まったく……どうしてこんなことになったんだ。
(でも、こんな日常も悪くはないか)
まだまだ波乱が起きそうだが。
でも、麗奈と離れ離れになって異世界でファンタジーするよりかは、こちらの方が楽しそうだ。
だから、つい笑ってしまった。
幸せだなと、そう思ったから。
異世界は好きだ。憧れもある。
でも……やっぱり、俺は、現実ラブコメの方が好きだった――。
【完】