第七十話 女神様と浮気しても浮気じゃない!?
麗奈は、女神様らしい。
……自分で言ってみても、やっぱりこれはよく分からんな。
「でも、女神様は麗奈のことについて何も知らないんだよな?」
「はい。運命の書におかしなことが書かれていません。だから、記録上彼女は『一般人』でしかありません」
「女神様の記憶にも、何もないのか?」
「もちろんです。あ、もしかして……何か隠していると思っているのですか?」
「いや、まぁ……何かあるのかなって」
「何もありませんよ? 本当に……まるで生き別れの双子を見つけたような気分です。どうして彼女に私の力の一部があるのですか?」
「俺に聞かれても困るよ」
麗奈の正体は判明した。
だが、なぜ彼女が存在するのかは、やっぱりよく分からない。
ただ……まぁ、そんなのは些細なことだろう。
「でも、なんか安心した。女神様が麗奈で、麗奈が女神様なら……俺の大好きな人であることは、一緒だよな」
「――あ! 確かにその通りですね。つまり、ここでイチャイチャしても浮気になりません」
「その通り! ……って、いやいや。別に何もしないけどね?」
「うふふ……でも、そういうことだったのですね。道理で、光喜様のことをこんなにも愛しく思ってしまうわけです。彼女の気持ちが、私にも影響を与えているのでしょうか」
女神様がやけに好意的だった理由も、ここに集約されるらしい。
麗奈と同一人物なら、女神様の態度も腑に落ちた。
「さて、そろそろ説明も終わりましたし、イチャイチャしたいところですが……時間が迫っています。他に、何か聞きたいことはありますか?」
「……フィオたちのこと――は、聞いても仕方ないか」
「はい。光喜様が知ったところで、どうにかできるものではありませんから」
うん。それは分かっている。
でも、できれば彼女たちの問題も解決してあげたかったが……それは欲張りすぎだろう。
俺が選んだのは、異世界ではなく麗奈だ。彼女たちまで救うなんて、傲慢だ。
……と、俺が思っていることも、女神さまは察したのだろう。
「うふふ。背負ってしまっていますね……それなら、一つだけお土産を持たせたいと思います。きっと、異世界の子たちも喜んでくれると思いますよ?」
「お土産?」
でも、ここでの出来事はすべて忘れてしまうはず。
お土産なんて、大丈夫なのだろうか。
「この単語だけ、忘れないように設定します。意味や記憶までは持っていけないので、ワードだけ……現世に持ち帰って、異世界のエルフの子に伝えてみてください。そうすれば、きっとお互いにとって良い情報が得られますよ」
と、そこまで女神様が語ったところで、俺の体が薄くなり始めた。
そろそろ、意識の覚醒が迫っているらしい。
「――――」
もう、声を発することもできない。
そんな俺に、女神様は優しく微笑みかけながら……一言。
「『異世界と現世の時間』というワードを、覚えていてくださいね」
その言葉を最後に、俺の体は落下していくような浮遊感に包まれた。
(女神様、ありがとう!)
もう声は出ないので、心の中でそう叫ぶ。
彼女のおかげで、色々な疑問が解決した。起きたら全て忘れるとしても、気持ちは楽になっていると思う。
良かった。俺の選択は、正解とも言えなかったのかもしれないが、間違いでもなかった。
だったら、精一杯に生きよう。
麗奈と一緒に、平穏な幸せを楽しもう。
そんなことを、改めて決意するのだった――。