第六十九話 麗奈の正体
……そういえば、気になっていることがある。
「女神様はなんで、俺が異世界に行った場合のことを知っているんだ? 俺の運命に書かれているのはおかしいと思うんだけど」
彼女の手元には『運命の書』と呼ばれる本がある。
それに、俺の運命が書かれているらしいが……異世界に行ってもないのに、異世界に行っている場合のことを教えてくれたので、不思議だったのだ。
そのことについても、女神様は最初から説明するつもりだったようだ。
「はい。これは、二つ目の回答につながるものなのですが……私は、本当は昨日の時点で光喜様の夢に介入するつもりだったのです。しかし、それができなかった理由が関係しています」
あ、それも聞きたいことである。
俺は昨日、女神様の夢を見なかった。起きたら全て忘れる泡沫の時間だが、メンタルに影響があることは事実。苦悩している時はなおさら、女神様と話したかったのだが……それは、許されていないと言っていた気がする。
「――運命の書が、分岐していたのです。通常、運命は一つのはずなのに……光喜様の場合は、異世界に転移したパターンと、現世に残るパターンで、運命が分かれていました。だから、異世界に転移したパターンの出来事も把握しているというわけです」
「なるほど。じゃあ、えっと……それが、夢に出てこられなかった理由とどうつながるんだ?」
「……私が夢で発言することによって、どうやら光喜様が『異世界転移』することが確定しそうだったので。光喜様が分かりやすい言葉で言うと、私とのイベントでフラグが立つ状態だったみたいですよ?」
分かりやすい。
そのせいで、女神さまは『会うことを許されていない』と表現したわけだ。
「ここでの出来事は、起きたら全部忘れるのにか?」
「はい。忘れるだけで、影響がないわけではないので……因果関係は不明なのですが、フラグの存在を知っていたからこそ、私は何も手を出せませんでした。ごめんなさい、本当はもっと早く光喜様とお会いしたかったのですが」
俺も、あの時は無性に会いたくなっていた。
しかし、会ってしまったら、異世界転移することになっていたらしい。そう考えると、女神様の気遣いに感謝である。
「そしてこれは、次の回答にも関係のあることでして」
「え? 次の回答って……」
「――あなたの幼馴染の正体について、です」
……ついに、か。
もちろん、俺の幼馴染である麗奈についても、女神様に聞こうと思っていたことの一つだ。
俺の疑念も、彼女はちゃんと把握している。だったら……知っているはずだ。
「麗奈が、女神様みたいになっていた」
「はい。見てました……全てを」
セーラとの戦いのとき。
俺が助けてと叫んだら、彼女の体から白い光があふれだした。
その光をまとっていた麗奈は、女神様と限りなく酷似していた。
容姿だけじゃない。雰囲気が、まさしく女神様と瓜二つだったのである。
いったいなぜ、女神様と麗奈はこんなにも似ているのか。
「――彼女は、私です」
その理由は、ちょっと理解が難しかった。
えっと、どういうことだ?
「正確に言うと、あなたの幼馴染は私の因子を持っています……分かりますか?」
「ご、ごめん。無理……」
「分かりやすく説明すると――私の分身、と言えますね」
分身。その表現なら、どうにか理解できた。
……って、マジ?
「麗奈って、女神様なのか!?」
あまりにも顔が似ている上に、名前だって『レイナール』と『麗奈』でそっくりなのだ。関係性があるとは思っていたが
、まさか同一人物だったなんて。
「それって、本当なのか?」
「……一つ、証拠があります。人の運命について、それを変えることができるのは本人のみ。これは前に説明しましたよね?」
「うん、覚えてるよ。だから、麗奈が俺の運命を変えることが本来ならあり得ないって」
「はい。その時に気付くべきでした……人には、他人の運命は帰られません。しかし『神』であれば、話は別です。昨日、私が夢に出ていたら光喜様の運命が変わっていたことと同じですね」
そう繋がるのか。
女神様の介入で、俺の運命が変わる。分岐する。それと近しいことを、麗奈もしていたらしい。
「つまり、麗奈は『女神様』だから、俺の運命を変えることができたってことか?」
「厳密には、私の因子を持っているから……ですね。神に近しい存在だからこそ、彼女は光喜様の運命を捻じ曲げました」
荒唐無稽な話だ。
と、一蹴するには……あまりにも、麗奈が異質すぎる。
そうか。彼女は、女神様だったんだ。
そう考えると、色々と辻褄があった。
初めに、異世界転生しかけた時に、この白い空間を殴り壊したことも。
俺を転生イベントから次々と守ってくれたことも。
セーラとの戦いで覚醒したことも。
全部、納得できる。
俺の幼馴染は、どうやら『女神様』だったようだ――。