第六話 甘々ラブコメパート
小学生のころまで、麗奈の家によく泊まっていた。
保護者である叔母の帰宅が遅かったので、親父さんの好意で寝かせてもらっていたのである。
もちろん、当時から麗奈とは仲良しだったので、一緒に寝ていた。
あの時は同じ部屋で、しかも同じベッドだったなぁ。
でも、さすがに中学生になって思春期を迎えてからは、泊まることもなくなった。
だから、約三年ぶりかもしれない。
「わたしは布団でいいよっ。光喜くんはソファね」
「それは俺が言うべきセリフでは?」
もちろん、そう言おうと思ってたけど。
逆に言われてしまうと、何か裏の意図があるのかと勘繰ってしまった。
「何を企んでいる?」
「べ、べべべ別に何も企んでないけど? ただ、光喜くんの匂いが――」
「やっぱりダメ。俺が布団で眠るから、麗奈はソファで寝てくれ」
「えー!? そんなぁ……!」
匂いなんて意識させるなよ。恥ずかしいので、麗奈には申し訳ないが布団は死守させてもらうことにした。
使っていない枕と掛布団が予備であるし、ソファは背もたれを倒してベッドになるタイプなので、麗奈も快適に眠れるだろう。
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ! 光喜くんが眠るまででいいからっ」
「それまで添い寝するつもりか!? 俺が寝られるわけないだろっ」
「大丈夫! ほら、昔は背中をトントンしてあげたら、ぐっすり眠ってたでしょ?」
「あの頃と今は違うからな?」
小学生の頃の俺は純粋な子供だった。
だが、今は不純な男子高校生である。麗奈のことも当然意識しているし、たまにエッチな目で見ているので、自重してほしいものだ。
「分かった! 添い寝は我慢するから、光喜くんの枕だけ貸してっ」
「使っていないのがあるぞ。そっちを使わないのか」
「だ、だってぇ」
ただ、麗奈は引き下がりそうにない。
久しぶりのお泊りなので、なんだかんだ彼女もテンションが上がっているのかもしれない。
頑なに意地を張っても時間の無駄だろう……仕方ないので、少し譲歩することにした。
「……枕だけだからな?」
「いいの!? やった、ありがとう♪」
ようやく交渉は成立だ。
俺が新品の枕を使って、使い古した枕は麗奈に渡した。
「えへへっ。ぎゅーっ」
すると、彼女は強く抱きしめて顔をうずめた。おいやめろ、本人の前で匂いを嗅ぐな。
まったく……麗奈は本当に、感情に素直だ。
「電気、消してもいいか?」
「うん、いいよ~」
「……俺の布団からどいてくれ」
「ちょっとだけだから! 光喜くんが寝るまで、ここでオシャベリさせてっ。添い寝はしないから!!」
本当か?
って、なんで俺が疑っているのか。
なんだか寝込みに襲われる心配をしている乙女みたいだ。まぁ、麗奈は俺の意に反することは絶対にしないので、その部分は大丈夫だろう。変なことは考えずに、素直に眠ればいいか。
そう思って、電気のスイッチを消す。
暗闇でも、自分が住んでいる部屋なので物の配置は把握していた。布団に直行して、寝転ぶと……俺の気配を感じ取ったのだろう。麗奈が、そっと頭を撫でてきた。
「ねんねんこ~」
「赤ちゃんじゃないんだから」
「そうだね。えへへ、かわいくてつい」
かわいいはこっちのセリフである。
やっぱり麗奈は楽しそうだ。お泊りではしゃぐなんて……こんなの、かわいいと言わざるを得ないだろう。
「わたしはそばにいるからね」
「はいはい。気がすんだら麗奈も寝ろよ……」
そう言って、目を閉じる。
直後――彼女はそっと、俺の手を握ってきた。
「麗奈?」
「うん。ちょっとだけだから、ね?」
……手を繋ぐくらいなら、いいか。
俺も変な気分にならないと思うので、これくらいは大丈夫だろう。
「ちょっとだけだからな? それ以上踏み込んだら俺が暴走しちゃうから気を付けてくれ」
「別に暴走してもいいのに」
「え? なんだって?」
「聞こえてるくせに~」
「……まぁ、聞こえてるけどさ」
聞こえないふりだって通用しないし、通用しなくても関係は変わらない。
たぶん、彼女は俺の気持ちだって全部受け止めてくれるだろう。でも……それはもっと大人になってからでもいいかな、と思っている。
だって、今の関係でも十分に幸せなのだから。
「おやすみ、麗奈」
「うん、おやすみ」
そして俺は目を閉じた。
麗奈がすぐ近くにいるので、寝つきは悪いかなと予想していたが……意外とすぐに、意識は溶けていた。
なんだかんだ、麗奈が近くにいると安心するのかもしれない――。
……そして目を開けると、俺は真っ白い空間にいた。
目の前にはもちろん、麗奈にそっくりな女神様もいた――。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白かった!」と思っていただけたら、ぜひ感想コメントを残してもらえると嬉しいです!
『ブックマーク』や下の評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると、次の更新のモチベーションになります。
これからもよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ