第五話 通り魔VS幼馴染ヒロイン
俺は――死んだ?
いや、生きている。あれ、生きている!?
(何も見えないけど……って、あ。そうか、目を閉じてるんだ!!)
我ながら、パニックになっているなぁ。
あまりの恐怖に、反射的に目を閉じていたらしい。
恐る恐る開けて、自分の腹部を確認。
ナイフは……刺さっていない!
じゃ、じゃあさっきの鈍い音の正体は何だ?
叫び声は、誰が挙げたんだ?
「光喜くんは殺させないけど?」
「ぐはぁああああああ!?」
あ、分かった。
麗奈だ。麗奈が、助けてくれたんだ。
しかも、彼女は通り魔の腹部に拳を突き刺していた。凄まじいボディブローを叩き込んだせいで、通り魔が叫び声をあげている。お前の叫び声だったのかよ!!
「はい、終わり」
そして、次の瞬間にはも制圧されていた。
「――っ」
通り魔は倒れた。顎に一発もらって地面に倒れ込んだのである。
もう意識はないようだ。
「なーんか動き方が変だったんだよね。目が血走ってるし、ポケットの何かをずっと握ってて、不自然だったから警戒してたの」
麗奈が達人すぎる。
最初からずっと警戒していたおかげで、迅速に制圧できたみたいだ。
「はぁ。警察に通報しないとね……クレープ買ってからでもいいかなぁ」
「さ、さすがにダメじゃないか?」
あと、ありがとう。
こ、怖かったぁ……車とか植木鉢より、やっぱり狂気の人間の方が怖いな。
転生系のイベントだと、通り魔が一番怖い気がする。
通り魔を目前に身がすくんでしまった。麗奈がいなかったらちゃんと殺されていたと思う。
彼女のおかげで、俺は命が救われていた。
それはそうと……たぶんそろそろ、ネタ切れじゃないか?
いや、厳密には『ブラック企業で過労死』といか『自殺』とか『餓死』とかもあるが、俺は働いている大人じゃないし、隣に常に麗奈がいるので、そういった状況にそもそもならないだろう。
転生フラグも無限にあるわけじゃない。俺が思い当たることはやりつくした気がする。
はたして、次はどんな手でくるのだろうか。
――警戒していたが、通り魔以降は何も起きなかった。
やっぱり、転生のテンプレがほとんど尽きたのかもしれない。
「麗奈、もう大丈夫だと思うぞ」
夜。俺が住んでいる1DKのアパートには、まだ麗奈がいた。
夕方くらいには彼女も自宅に戻ったのだが、お風呂に入ってから俺の家に来たのである。それから夜ご飯を作ってくれて、一緒に食べて、俺もお風呂に入って……と、くつろいでいたら、あっという間に深夜になっていた。
現在の時間、夜の11時。
しかし麗奈は、帰ろうとしない。ソファに座ったままテレビをぼーっと眺めていた。
「さすがに家の中で転生するような事故はないよ……あ、ゲームをしていたらいきなりその世界に入り込んだ、ならまだ有り得るか」
「じゃあ、ゲームは禁止ね」
「え」
まずい。墓穴を掘った。まだソシャゲのデイリー報酬を回収してないのに……!
いや、まぁ一日くらい別にいいんだが。
麗奈に言われたから、というよりは俺が怖いのでゲームは起動できそうになかった。
通り魔の件があったせいで、死というものを近くで感じた。そのせいか、異世界転生のワクワクもなくなってしまったのである。
単純に死ぬのは怖いので、下手な真似はしないでおこうかな。
「うーん。やっぱり心配だから、今日は泊まろうかなぁ」
「いやいや。年頃の男の家に泊まるとか、ダメじゃないか? さすがに幼馴染でも、親父さんが許さないだろ」
麗奈の父親とはもちろん顔見知りだ。
幼いころからお世話にもなっているので、嫌われてはいない。むしろ、好意的に接してくれていて、よく家にもお邪魔している。
だが、愛娘の外泊を許可するほど認められてはいない……と、俺は思っていたのだが。
「大丈夫。お父さんはわたし以上に光喜くんのこと大好きだもん。さっき連絡したら『連泊してもいいぞ!』って笑ってたけど」
「……そ、そっか」
俺の想定以上に許されていた。
霊道家の人間にのみ好かれる体質なのかもしれない。
「お父さん、息子がほしいって言ってたからなぁ。光喜くんのこともたぶんそういう目で見てるよ」
「マジかよ。今度『おとうさん』って呼ぼうかな。喜んでくれるんじゃないか?」
「……『お義父さん』だなんて、もうっ♡」
「え? あれ? なんか違くない? なんで麗奈が喜んでるの?」
発音が違う気がする。俺としてはフラットな言い方をしたつもりなのに……まぁいいけど。
そういうわけなので、今日は麗奈が我が家に泊まることになった。
麗奈と一緒に寝るのは……そういえば、数年ぶりかもしれない――
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