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第五十六話 憧れの異世界ファンタジー



『社畜として限界まで働いて死んだら、神様に「好きな能力全部あげる」と言われたので、ありったけ詰め込んで異世界行ったら最強だった件』


 文章が長すぎる。かっこ笑い。

 今時テンプレすぎる。かっこ笑い。

 はいはいなろう系ね。かっこ笑い。


 と、ネットでは好き放題言われている、いわゆる転生無双系ファンタジー。

 しかし、ネット掲示板で何と言われようと市場では売り上げの数字こそが全て。ギャグコメディ調の作品で、主人公が一切の苦労をせずに世界を冒険していく様を楽しんでいる読者は多い。また、アニメ化が大成功したこともあり、メディアミックスも上場。劇場版まで公開されるほどの、いわゆるトレンド作品だ。


(――やっぱり、いいよなぁ)


 もうそろそろ終盤だ。

 主人公がちょうど、ダンジョンの王をぶち殺したがトラップの催淫魔法が発動してヒロインたちが発情し、てんやわんやになっている場面で、俺は深くため息をついた。


 これだよ。

 これが俺の求めていた、異世界ファンタジーなんだ。


 生前、主人公は社畜として苦しい人生を送っていたが、異世界に転生してから何一つ苦労のない順風満帆なファンタジーライフを送っている。

 バトルにおいても苦戦はなく、どんな敵だろうといつだって瞬殺。「俺、なんかやっちゃいました?」状態だ。


 ヒロインたちはそんな主人公を称え、崇め、盲信し、ひれ伏している。主人公はそれに狼狽えながらも、まんざらでもない感じでイチャイチャしている。


 最高だ。

 俺が夢に見ているファンタジーライフは、これだ。


(……異世界に行けば、俺もこれに近い状態になるのか?)


 はたして、どうなのだろうか。

 フィオたちとの旅は、楽しめると思うけど……この作品みたいに、うまくいくのだろうか。


 仮に、うまくいくと仮定しよう。

 しかし、異世界に行くと、誰よりも大好きな彼女との別れになってしまうわけで。


(たとえ、この作品みたいな最高のファンタジーライフが過ごせたとしても――今より幸せだとは、思えない)


 異世界に憧れはある。

 だが、今の生活を捨てるほどではない。

 その点は明確だ。しかし、一方で……やはり、多くの命を救えると聞いてしまうと、その天秤は一気に拮抗する。


 英雄になる責務と、ありふれた幸せ。

 その二つの天秤は、未だにどちらにも傾くことはなかった。


(どうすれば、いいんだろう)


 迷いは未だに消えない。

 ふと、麗奈の方を見てみる。どうせ彼女は寝ているか、興味がなさそうにぼーっとしているか……いずれかだろうと思っていた。

 いつも、家で俺と一緒に異世界系のアニメを見ていたら、だいたい無の表情を浮かべている。今回もそうだろうと予想していたのである。


 だが、今日は違った。


(……あれ? ちゃんと見てるな)


 ともすれば、俺以上に真剣に。

 麗奈は、映像をジッと見つめている。ただ、その表情は楽しんでいると言うよりは……どこか、見定めようとしているようにも見えた。


 たぶん、麗奈も何かに勘づいている。

 俺が、異世界関連の出来事で悩んでいることを、察知しているのかもしれない。


 だからこの映画を見に行こうと言ってくれたのだろうか。


(明日の午前中がタイムリミットだ……夜までには、どちらかちゃんと決めておかないと。もしかしたら、フィオたちが来る可能性もあるし)


 映画はもうすぐ終わる。

 主人公たちがなんとかダンジョンから脱出して、とってつけたような感動シーンが流れている。

 ギャグコメディ色の強い作品にありがちなオチのつけ方だ。このあたりも俺は全然楽しめるので、いい作品だったと思う。


 それを見ながら、俺はどちらにするかずっと考えてみる。

 しかし答えはやっぱり見つからなかった――。


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