第五十五話 デート、しよ?
「あ、あれ? おかしいなぁ。わたし、学校に行くつもりだったんだけどなぁ? 光喜くんがあまりにも気持ちよさそうに寝てたから、つられて寝ちゃってたのかなぁ? た、たたたたぶんそうなんだろうなぁ?」
白々しい言い訳は、もちろん噓だろう。
俺のことを心配して、彼女も学校をサボったみたいだ。
「えへへ。眠っちゃったのは仕方ないよねっ」
「……まぁ、そうだな」
もちろん、怒る感情なんてない。
むしろ、俺のことを心から思ってくれている彼女に愛情は、とても嬉しいものだった。
(でも、どうしよう。まったく何も決断できていないな……)
寝たおかげか、少しだけ頭がスッキリしている。
寝る前と比べて、今はかなり冷静だ。
そして、冷静だからこそ……自分の状態でもちゃんと把握できていた。
(一人になったところで、この悩みは解決しない)
この思考に出口はない。
どんなに考えたところで、答えを導き出すことは難しいだろう。
だから、麗奈がいてもいなくても同じだ。それなら、いてくれた方がありがたいと思ったのだ。
「あ、おなか空いてる? おかゆあるけど、食べる?」
「……いや、食欲はまだないかも」
気分はマシになったが、体調は万全ではない。
時刻は正午。寝られたのは……四時間くらいか。できればもう少し眠りたいが、目が冴えているのでそれは不可能そうだ。
どうしようか。無理にでも食事をした方が、体調が良くなるだろうか。
と、考えていたら……急に麗奈がソファから立ち上がって、こう言った。
「光喜くん。デート、しよっか」
……なぜそうなるのだろう。
唐突な提案に無言で首をかしげると、麗奈は少し顔を赤くした。
「で、デートって単語は、なんか恥ずかしいかもっ。普段からよく二人で買い物とかに出かけてるし、あれもデートみたいなものだよね」
「いや、あれはデートなのか?」
どちらかというと、夫婦の買い出しと表現した方がいいと思うが。
まぁ、とりあえず……麗奈はどうやら、出かけたいようだ。
「ほら。あれ! 光喜くんの言ってた映画、三日前くらいから公開されてるよね? いい機会だから、見に行かない?」
「映画……ああ、そういえばもう公開されてるか」
俺の好きな異世界ファンタジーの一作が劇場化されていて、前々から麗奈と一緒に見に行こうと約束していたのだ。
異世界の転生フラグとか、フィオたちが来たことでバタバタしていて、映画のことをすっかり忘れていた。
「光喜くん、ちょっと元気がないからデートしてスッキリしよ?」
……やっぱり、俺のためだよなぁ。
ちなみに麗奈は異世界系の作品にとことん興味がない。嫌いではないみたいだが、好きでもないので、無関心だ。どちらかというと日常アニメとか、あとラブコメが好きらしい。
映画も、前に話していた時はさほど乗り気じゃなかったと思う。
でも、俺を元気づけるために、一緒に行ってくれるみたいだ。
(一人で考えていても、仕方ないよな)
異世界に行くかどうか。まだどちらを選ぶか、決定できていない。
だが、昨夜のように一人で考えていても、時間の無駄にしかならないだろう。たちまちに制限時間が訪れて、彼女たちが答えを聞きに来るはずだ。
その時までには、ちゃんと決断しておきたい。
だから……うん。ここでしっかりと気分転換するのは良いかもしれない。
「分かった。じゃあ、準備してから行こう」
そういうわけで、俺たちは今からデートをすることになった――。