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第五十四話 幼馴染が俺を愛しすぎている件



 ――寝たら何かが進展する。

 根拠はない。ただ、最近は寝ている時に何か夢を見ている気がしている。その夢が、何かとても大切な感じがしていて……だからこそ、昨日は麗奈にも早めに帰ってもらってすぐ電気を消した。


 でも、一睡もできなかった。


「くそっ」


 布団の上で、小さく悪態をつく。

 カーテンの隙間から漏れ出る朝日に、思わず顔をしかめてしまった。


 考えがまとまらない。

 眠って少しでも思考を整理しようと思っても、気持ちが落ち着かなくて寝ることはできなかった。


 考え事をしていたらいつか睡魔が訪れるかと思って、ずっと自問自答をしていたのも悪影響だったと思う。

 眠気が訪れることはなく、結局朝になってしまったというわけだ。


 ……そろそろ麗奈が俺を起こしに来る時間だ。

 できればまだ、会いたくない。せめて、異世界に行くか行かないかを決定してから、ちゃんと彼女と話したい。


 ただ、麗奈は合鍵を持っているので会わないことは不可能だ。

 だから、俺が選んだのは――ズル休みだった。


「光喜くん、起きてる?」


「……今日は体調が悪いから休むよ」


 いつもの時間に到着した麗奈に、布団の中からそう伝えた。

 一応、嘘ではない。一睡もしていないので気分が悪く、学校に行けるコンディションではなかった。


 あと、フィオ達と顔を合わせたくない。

 会って、何を話せばいいのか分からなかった。


「え? だ、大丈夫? わたしも休んで看病して――」


「ダメだ。風邪だったら移るかもしれないし……もし麗奈が風邪をひいたら、その時に誰が俺の看病をしてくれる?」


 もちろん、麗奈がそう言いだすことも予想済みだ。

 言い訳もあらかじめ考えている。この言い回しであれば麗奈を傷つけないだろう。


「ごめん。少し、一人で休みたくて」


 それから、少し含みを持たせて本心も伝えた。

 昨日からずっと俺の様子がおかしいことを麗奈は把握している。だからこそ、彼女が俺に気を遣ってくれることも理解している。


 麗奈とはもう長いことずっと一緒にいるのだ。

 彼女の性格は、分かっている。


「……そっか。分かった、ゆっくりしててね」


 予想通り、麗奈は何か察したように頷いてくれた。

 とはいえ、やっぱり心配してくれているようである。


「でも、ギリギリまではここにいるから、何かあったら言ってね? あ、食欲が出た時のためにおかゆも作って冷蔵庫に入れておこうかな」


 相変わらず、優しい女の子だ。

 お節介とは決して思わない。面倒見がいい姉御肌なのだ。この優しさは、否定することはできない。


「ありがとう。じゃあ、寝てるから……」


「うん。おやすみなさい」


 すぐに出ていってもらうことはできなかったが、しかし登校時間になれば一人になれる。

 そう思ったので、麗奈が出ていくまでは大人しく目を閉じて静かにしておいた。


 以降、麗奈も俺に話しかけることはなく。

 軽い片付けや料理をする物音がだけが、しばらく響いていた。


(……あ、眠いかも)


 その音を聞いていたら、なんだか急に眠気がやってきた。

 麗奈が家にいてくれるおかげで、暗い気持ちが緩和されたのだろうか。


 ふと気づくと、気持ちもだいぶ落ち着いていた。

 やっぱり、俺にとって麗奈はそれだけ安心できる存在でもあるのかもしれない。


 そして、だからこそ……彼女に決断をさせて、責任を背負わせることは絶対に避けたかった。

 とりあえず、少しでいいから眠ろう。眠ったら、何かが変わるかもしれない。


 そう思って、俺は目を閉じた。

 麗奈が一通りの家事をすませて、ソファに座る物音を聞いたところで……俺の意識は、一気に闇に落ちた。


 ようやく、夢を見られる。

 彼女に、会える……そう、思ったのだが――。





『……運命が、それを許してくれません。光喜様、ごめんなさい』





 声が、聞こえた。

 しかし、夢を見ることはできずに……俺は再び、目を覚ました。


(あ、あれ? なんで……いや、まぁ夢なんて見なくても普通か。えっと、普通だよな?)


 最近、夢をたくさん見ていた気がするので、少し戸惑った。

 それから、戸惑っている自分が変に思って、そのことにも首を傾げた。


 俺は何で、こんなにも夢を見たがっていたのか。

 よく分からないことなので、とりあえずこの件についてはおいておこう。


 それで、問題は――彼女だ。


「……むにゃむにゃ」


 ソファの上に、見慣れた少女がいた。

 ショートカット……じゃない。ボブカットと前に教えてもらった髪型の幼馴染が、ソファの上で気持ちよさそうに寝息を立てている。


「……なんでいるんだ」


 それを見て、つい笑ってしまった。

 本当に、この子は……俺のことを、愛しているんだなって――。

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