第四十五話 女騎士VSかよわい(自称)ラブコメヒロイン
少し待っていたら、トレーニングウェアとショートパンツを着た麗奈とセーラがやって来た。
……め、目に毒だなこれは。
「わぁ。ミツキお兄さま、すごくセクシーだわっ」
「……フィオ、二人に注意してくれ。スケベだぞって」
「聞こえてるよ? そういう目で見る方がスケベです~。これはちゃんとスポーツ用のトレーニングウェアなんだからね?」
「は、ははは破廉恥だが、動きやすい恰好はこれしかなかったのでなっ」
俺としては、もうちょっと露出を押さえてほしかったところである。
とはいえ、ボクシングと言えばこういう恰好が普通なので、俺が過剰に反応しているだけとも言えた。
「麗奈、リングはいつでも使っていいぞ! アップできたら上がれ」
親父さんも無反応だ。俺が思春期過ぎるだけなので、気にしないように努めよう。
「アップはやらなくてもいいよ。そろそろ生徒さんが来る時間でしょ? すぐに終わらせるから」
「お前はいいかもしれねぇが……友達は大丈夫なのか?」
「私も不要だ。準備体操をしている時間など、戦場にはないからな」
「そうか。大丈夫ならいい。それで、ルールはどうする?」
「ルールもなくていいよ。どっちかが降参したら終わりってことで」
「当然だ。戦場にルールなどない。死ねば敗北だ」
「……ほどほどにしておけよ。やれやれ、若い者は血気盛んじゃねぇか。ガハハ!」
そんなやり取りをしてから、麗奈とセーラはグローブを着用した。
ヘッドギアもつけないらしい。危ない、と思うのは素人だからだろうな……麗奈は経験者だから分かるのだが、セーラについては心配だった。
「フィオ……セーラは大丈夫だよな? 麗奈、めちゃくちゃ強いから怪我しないといいんだが」
俺にとって、麗奈は異次元の存在だ。
一応、幼少期は一緒にボクシングを習っていたことがある。だが、俺には全く才能がなくて全然成長できずにやめてしまった。一方、麗奈は才能の塊で、みるみる内に強くなったことをよく覚えている。
引退こそしたが、その強さは今でも健在。
セーラが太刀打ちできるかな、と考えていたのだ。
「大丈夫よ。セーラはおバカだけど――強いわ」
フィオがそう断言する。
迷いのない一言だが、俺は麗奈のバケモノっぷりを知っているので、やっぱりすぐには信じきれなかった。
『カーン!』
ゴングの音が鳴って、戦いが始まる。
「来い」
まず、セーラが様子見と言わんばかりに手をこまねいた。
ノーガードで、麗奈を挑発している。
どこでもいいから殴ってみろ。そう言わんばかりの態度を見て、麗奈は即座に動いた。
「いいの? じゃあ、遠慮なく」
その言葉の直後だった。
『――ズドン!!』
麗奈の拳が、セーラの腹部を思いっきり打ち抜いた。
植木鉢を粉砕するほどの一撃だ。その力がセーラの腹部に集約されたのである……常人なら、まともではいられないだろう。
だが、セーラはやっぱり『武人』だった。
「……軽いな。レイナ、手加減は不要だぞ?」
重いボディブローを受けてなお、セーラは平然としていた。
筋肉質の肉体だが、決して筋骨隆々というわけではない。少し肉付きもあるので、セーラの肉体は健康的と呼べる範囲だ。
だが、麗奈の一撃を平気そうに受けていた。
それが意味することとはつまり――セーラも、麗奈に負けないくらい頑丈で『強い』ということだ。
「あはっ……いいね、面白いかも」
セーラも驚いている。
彼女が強いとは予想していたみたいだが、一撃を受け止められたことでより実感したのだろう。
麗奈は、好戦的に笑っていた。
「ごめんね。無意識に手加減しちゃってた」
「構わん。再度言おう――全力でこい」
セーラも、麗奈と同じようにニヤリと笑っている。
……お、乙女の笑みとはちょっと遠い気がするのだが。
何はともあれ、女騎士とかよわい(自称)女の子の戦いが始まった。
果たして、結果はどうなるのだろうか――。