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第四十四話 やめて! 俺のために争わないで!



 ヘイムは眠っていたので置いてきた。

 現在、俺たちは近所にある『霊道ボクシングジム』に来ている。


 ここは麗奈の実家でもあった。


「ただいまー」


「麗奈か。今日は早いな……て、おお! 坊主じゃないか!!」


 ジムを掃除していたらしい親父さんは、俺を見つけて嬉しそうに笑っていた。

 相変わらず、親父さんは俺に対して好意的である。


「親父さん、急にすみません」


「気にするんじゃねぇよ! 坊主ならいつでも大歓迎だからな、ガハハ!」


 豪快に笑っている親父さんは、麗奈の義理の父親である霊道巌さんだ。

 今年でたしか、六十五歳だったかな? 禿頭で、ひげも眉毛も真っ白なおじいさんなのだが、筋肉は未だにムキムキである。身長も二メートル近くあるので、威圧感がすごい。


 一言で言うといかつい。

 態度も豪快なのだが、気さくな人で俺のことも小さいころから可愛がってくれているのだ。


「坊主、元気か? ちゃんと飯は食っているか???」


「はい。麗奈のご飯が美味しいので、結構食べてます」


「そいつは何よりだ! もっと食って大きくなれよっ!!」


 ……親父さんからすると、俺はまだまだ幼い坊主なんだろうなぁ。頭を大きな手でガシガシと撫でていた。


 高校生なので成長していると思っていたが、まだまだ子供扱いされていた……父親を幼いころに亡くしている俺にとっては、親父さんのその態度は父親みたいで嬉しいのだが。


 でも、フィオとセーラに見られていたので、ちょっと恥ずかしかった。


「お父さん! 光喜くんの髪の毛が乱れるからやめてっ」


「お、おう。そうか、ごめん」


 そして、一人娘に対して弱々しくなるのは相変わらずだ。

 親父さんは麗奈を溺愛している。血こそ繋がっていないが、実の娘と同じくらい……いや、それ以上に可愛がっていた。だから反論もせずに、怒られてしょんぼりとしていた。


 年頃の娘を持つお父さんは大変だなぁ。

 閑話休題。そろそろ、俺の隣で居心地が悪そうなフィオとセーラについても、親父さんに紹介したいところだ。


「ねぇ、リング借りてもいい? ちょっと友達とスパーリングしたいんだけど」


「別に構わねぇが……お前とスパーリングできる同世代の子なんているのか?」


「うん。あ、二人のことも紹介しておくね。小さくてかわいい子がフィオちゃん」


 麗奈も二人のことをようやく思い出してくれたようだ。


「は、初めましてっ」


「おう、よろしくな嬢ちゃん。で、隣の小娘は……ほう。なるほど」


 セーラの紹介をする前に、親父さんは彼女を見て隻眼を鋭く光らせた。

 全身を見てから、何やら深く頷いている。


「――強いな。まさか、麗奈の同世代にこんな逸材がいるとは……!」


 やっぱり、格闘技の達人にしか分からない何かがあるのかもしれない。

 セーラを一目見ただけで、親父さんは彼女の実力を評価していた。


「名は?」


「セーラだ。アマリエル王国騎士団長にして、フィオーネ姫の近衛でもある」


「そうか。よろしくな」


 相変わらず、認識阻害の魔法も効いている。

 親父さんはフィオやセーラの違和感を特に気にせず、普通に接していた。

 色々とツッコミどころはあるのだが、認識阻害の影響で何も違和感を持っていないのだろう。


「老兵か。ふむ、なかなか……そちらとも手合わせして見たいものだが」


「もう引退済みのよぼよぼのジジイだ。儂より、麗奈と戦ってやれ。この子に匹敵する強者なんて、同世代では初めてだな」


「ふっ。それは――そうだろうな。私もワクワクしているよ」


「ガハハ! 儂も楽しみだ」


 達人同士、通じ合っているなぁ。

 一方、俺とフィオは蚊帳の外である。なんで二人が認め合っているのかもよく分かっていないので、ポカンとしていた。


「ミツキお兄さま。セーラは21歳なのだけれど、レイナお姉さまと同世代なのかしら」


「……親父さんから見たら、まぁ同じにしか見えないんだろうな」


 あれだ。年を取ると、若いアイドルがみんな同じ顔に見えるらしい。あれと同じ現象なのだろう。

 俺から見ても、セーラはやっぱり大人の女性なので同世代とは言い難いと思うが……まぁ、そのあたりはいいや。


 いよいよ、二人がリングに上がる。

 こういう時って、やっぱりこう言えばいいのかな。


『やめて! 俺のために争わないで!』


 ……でも、なんかちょっと違う気もする。

 別に戦ってほしいとは微塵も思っていないので、複雑な気分だ。

 まぁ、当事者の二人がノリノリなので、止めることはできないけど――。


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