表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/74

第四十二話 麗奈ちゃんは負けず嫌い



 ヘイムが寝て、一時間くらいだろうか。

 ソファに座って、更新された異世界ファンタジー作品のウェブ小説を読んでいたら、麗奈が目を覚ました。


「あふぅ……って、あ」


 寝ぼけているのだろうか。大口を開けてあくびをこぼして、それから俺に見られていることに気付いたらしい。慌てて口を隠すように押さえてから、そっぽを向いた。


「やだっ。乙女の寝起きを見ないでっ」


「よだれ出てるぞ」


「見ないで!!」


「寝癖もついてる」


「うぅ……お、乙女の威厳がぁ」


「まぁ、全部嘘なんだけど」


「――ばか。もう、顔を洗ってくるねっ」


 麗奈はほっぺたを膨らませてかわいく怒っていた。たまにからかうとリアクションが面白いんだよなぁ。


 と、麗奈とオシャベリしていたら、家のドアが『バンッ!』と勢いよく開け放たれた。


「ミツキ殿! ミツキ殿はいるか!?」


 荒くれ者のような登場をしたのは、ポニーテールがよく似合っているセーラだ。

 どうやら買い物から帰ってきたらしい。


「セーラ? 乱暴にしてはいけないわ。扉を壊したら大変よ」


 隣にはフィオもいた。昼に俺の勧誘を失敗して以降、少し元気がなかったのだが……時間が経過したおかげか、今は普通そうに見える。彼女のことも心配していたので、落ち着いたのなら良かった。


「どうしたんだ?」


「ミツキ殿! 実は折り入って頼みがあるんだが、いいだろうか」


「内容による、としか」


 別に警戒しているわけではないけど、流石に内容も知らずに頼みごとを聞くのはできない。

 詳しく聞いてみたところ、


「――景品になってくれ!」


「……???」


 意味がまったく分からない。景品ってなんだろう。


「セーラ、落ち着いて。ミツキお兄さまがまったく理解してないわ」


 フィオが暴れ馬を制御するかの如く、セーラの背中を優しく叩いている。

 そのおかげなのか分からないが、すぐにセーラが説明の言葉を足してくれた。


「ミツキ殿。私は武人なのでな、難しいことを考えるのは苦手だ」


「うん、知ってる」


「分からなければ殴ればいいと思っている」


「意外性はないよ」


「だから、ミツキ殿。私は、戦う」


「……フィオ、どういうことか教えてくれ」


 ダメだ。言語は通じているのに、会話ができない。

 そしてセーラはどうも興奮しているようで、いつも以上に会話が成り立たなかった。たぶん、この話もフィオと相談して決定したことだと思うのだが……なんでそんなに気合が入っているのか。


「はぁ……そうね、わたくしが最初から説明するべきだったわ」


「姫に手間をかけるわけにはいきません! 私にお任せを!!」


「任せたせいでミツキお兄さまを混乱させているわっ。とりあえずセーラは落ち着きなさい……こほん」


 かわいらしい咳ばらいをした後。

 フィオが、セーラの言いたいことを要約して教えてくれた。


「ミツキお兄さまの勧誘、どうすればいいのかわたくしたちは悩んでいたの。事前に一人一回ずつ交渉しようってことを決めていたのだけれど、わたくしは失敗したわ。次のヘイムもどうせやる気がないし失敗したでしょ?」


「うん。断ったよ」


「やっぱり……それで、最後はセーラの案を試す番なの。でも、彼女は難しいことを考えるのが嫌いだから、シンプルにこう決めたらしいわ」


 つまり、セーラが考えた勧誘の案についての話に繋がるようだ。

 はたして、彼女はどんな策を思いついたのか。


「――ミツキお兄さまをかけて、レイナお姉さまと戦う。だから、ミツキお兄さまには勝者側の『景品』になってほしい、ということらしいわ」


 ……な、なるほど!

 景品という意味がようやく理解できたのは良かった。

 でも、それが受け入れられるかどうかは別なわけで。


「さすがに、それは……」


 もちろん乗り気ではない。

 まるで決闘のようなやり方である。現代では受け入れられない考え方、だったのだが。


「ふーん。わたしに勝てると思ってるんだ」


 ……忘れていた。

 うちの麗奈は、大の負けず嫌いだった!


「上等よ。光喜くんを景品に、戦おっか」


 顔を洗って戻ってきた麗奈も、話を聞いていたらしい。

 指の骨をポキポキと鳴らして、やる気満々だった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ