第四十一話 異世界勢力の滞在時間は『三日』
異世界の三人は、三日で異世界に帰る予定みたいだ。
思ったよりも早い別れになるのかもしれない。もう少し長く一緒にいられると思っていただけに、動揺は隠せなかった。
「そ、そうなんだ……三日かぁ。つまり、明日の夜くらいか?」
「来たのは昨日の午前中だから……丸三日は持つと考えて、最長でも明後日の午前中だね。tだ、魔力の消耗量を考えると、それより前に帰っておきたい。魔力がギリギリになる前に、ね」
なんだか、飛行機の出発時間みたいだな。
空港にギリギリに到着すると、荷物を預ける時間や荷物検査で間に合わなくなるので、少し余裕があった方が望ましい。それと同じようなことなのだろう。
「寂しいな。せっかく、仲良くなれたのに」
「ミツキが異世界に来たら、もっと長く一緒にいられるけどね」
それはそうなのだが。
でも……うん。やっぱり無理だ。
「麗奈をおいて行けない」
ヘイムの隣で眠る彼女に、視線を向けた。
寝心地がかなりいのだろうか。ぐっすりと眠り込んでいて、まったく起きる気配がない。ヘイムの腕を抱き枕にして気持ち良さそうにしていた。
「うへへ……♪」
愛らしい寝顔を見ていると、やっぱり異世界への好奇心が薄くなっていく。
こんなに魅力的な幼馴染がいるのだから、できれば離れたくなかった。
「私はしつこく勧誘はしないさ。君の意思も尊重する」
なんだかんだ、異世界の三人の中で彼女は一番大人だ。
1000年生きているからだろうか。言動も落ち着いていて、俺の言葉もしっかりと理解してくれているように思える。
しかしながら、実は彼女の意思はそこまで重要ではないわけで。
「姫様に判断は任せるよ。私はあの子に従うだけ……ふぅ。これで勧誘も果たせたかな? 彼女に指示されていたからね、我ながら眠気に負けずによく頑張れたものだ」
と、言ってからヘイムは再び大きなあくびをこぼした。
なるほど。フィオの指示があったから、俺の話にも付き合ってくれたんだ。
「色々聞かせてくれてありがとう。すごく楽しかったよ」
「……すまないね。私も、君と話すことは嫌いじゃない。ただ、慢性的に魔力が欠乏している状態なせいか、眠気が酷いんだ。不快にさせてしまったかな」
俺たちの世界で考えると、ヘイムの状態は結構酷いかもしれない。
なぜなら、常に体力がじわじわと減っている上に、今は半分ほどしか回復していないのだ。寝不足と似たような状況と言っても過言ではないだろう。
元々、性格は落ち着いていると思うが……輪にかけてダウナーになっているのは、特殊な事情も重なっているからみたいだ。
それなら、あまり長く話に付き合わせるわけにもいかないな。
「ありがとう。お詫びに、布団でしっかり寝てくれ」
「言われなくてもそうしていたよ。君の布団はなかなか悪くない……匂いがいいね。落ち着くよ」
「に、匂いは、どうだろう」
麗奈といい、あまり意識させないでほしい。
もちろん、麗奈と一緒に定期的に干しているし、シーツも換えているので、清潔ではあると思う。だが、どうしても思春期の男子なので気にはなっていた。
まぁ……たくさん話をしてくれたし、今日はいいだろう。
「……すやぁ」
少し黙っていたら、ヘイムはもう寝ていた。
麗奈と一緒に仲良く眠るその姿を見ていると、やっぱり――寂しいなと、感じてしまった。
(もしかしたら、麗奈の友達になってくれたかもしれないのに……)
彼女は少し、俺に依存しすぎている。
もちろんそれが嫌とは思っていない。むしろ、好意を持たれて嬉しさもある。
でも、彼女は俺以外の人間に対して距離を取るタイプで……やっぱり、仲の良い同性がいたほうが麗奈にとってもいいだろうな、と思っていたのだ。
だから、異世界の三人が麗奈と仲良くしてくれて、それが嬉しかったのだ。
三人との別れは、俺も寂しいのだが……麗奈もやっぱり、寂しく思うかもしれない――。