第三十九話 異世界に比べるとCTが長い、という感じ
そういえば、ヘイムたちの魔法事情についても気になっていたのだ。
この世界でも魔法は使用できているらしいが、異世界と同じような条件で使えているわけではないのだろう。どんな制約があるか、ということにも興味がある。
この世界と異世界の大きな違いは、大気に魔力が存在しないことと彼女は言っていた。
そして、この世界の一般的な人間は魔力に耐性がない。だから魔力に満ちた異世界に行くと、耐性のない人間は死んでしまう。
これが、俺が現状で把握している魔法の知識だ。
それ以外についても、この際だから聞いておきたかった。
例えば気になるのは――魔力の回復手段だろう。
「眠ると回復する。魔力は体力に近い性質がある。休息が大事」
「じゃあ、なるべくたくさん寝ていればいいのか」
「それも大事。あと、エネルギーの補給も。魔力の生成源も必要だからね」
食べて、寝る。それが魔力の回復手段か。
……うん。たしかに体力に近い概念だと思った。まさしくその通りである。
「食べて寝ていれば、この世界でも普通に魔法が使えるってことか」
「間違ってはいない」
あれ? その言い方だと、間違ってはいないが、正解でもないように聞こえる。
ただ、ヘイムは説明が簡潔すぎて少し足りない。もっと詳しく教えて、とお願いしてみた。
「…………ふわぁ。まぁ、少し複雑だけど。ミツキのお願いなら仕方ないか」
めんどくさいんだろうなぁ。
眠そうにあくびをこぼしていたが、なんだかんだ要望は聞き入れてくれるのがありがたい。
気になっていたので、ぜひ教えてほしかった。
「食事と睡眠で魔力は回復する。でも、あっちの世界と比べると回復の速度が遅い。私の感覚で一割程度だね……大気に魔力が存在しないせいだと思う」
「なるほど! 酸素が薄いって感じか?」
「うん、サンソに近いね。そういうこと」
酸素カプセルで眠ると回復が早い、という話を聞いたことがある。
それに近い現象なのかもしれない。
「だから、魔法を使うと魔力の回復が遅くて、次に使えるようになるまでが長い」
「クールタイムが長いんだな」
「……こっちの世界でもそういう概念があるのかい?」
「ゲームの知識だけど」
「ゲーム……面白いね。そんなオモチャがあるんだ。でも、ちょっとニュアンスは違うかな。魔法の使用間隔ではなく、魔力の回復が遅い。それだけだよ」
ヘイムがぼんやりと虚空を眺めながら、何やら頷いている。
そういえば、この状態のことも気になっていたのだ。フィオやセーラもそうなのだが、こっちの世界特有らしい知識を語ると、途端に目の焦点が合わなくなって虚空を眺めるのだ。
「今って、何か調べ物をしているのか?」
「うん。魔法でこの世界の一般常識を脳に詰め込んでいるから、検索している」
ゲーム、とか。酸素、とか。
異世界の概念には存在しない知識を理解して処理している、ということかな。
本当に、魔法って便利だなぁ。
「ちなみに、この魔法をかけるとミツキも私たちの世界の情報を取得できるよ。あっちの世界でかける必要があるけど」
「へー。それは楽しみ……って、違う! 俺は異世界に行かないからなっ」
「残念。惜しかった」
危ない。自然な流れだったので、ついうっかり受け入れそうになっていた。
ヘイムもなんだかんだ、勧誘のことは忘れていなかったらしい。まぁ、本気でもないのだろう。失敗してもさほど気にしている様子はなかった。
とはいえ……問題は、麗奈の方なのだが。
「れ、麗奈? 今のは別に異世界に行きたかったわけではなくて――」
彼女が悲しんでいるかもしれない。
そう思って、慌てて言い訳しようとしたのだが……しかし、彼女からの反応がないことに気付いた。
あれ? 普段なら即座に会話に割って入ってくるのに、どうしたんだろう。
「……むにゃむにゃ」
「ね、寝てる!?」
魔法の話、つまらなかったのかな。
麗奈はぐっすりと寝ていた。ヘイムの腕を抱いて気持ちよさそうにしていた――。