第三十八話 エルフとサキュバスが嫌いなオタクなんていない
「私のターン」
放課後。俺の家にやって来たヘイムが、布団の中からそう言い放った。
いや、待て。なぜ俺の布団でぬくぬくしている。
「ヘイムちゃん、ずるいっ。わたしだってあんまり寝られないのに!」
隣では麗奈がほっぺたを膨らませている。
他の女子には嫉妬しないのに、布団を取られたらどうしてそうなるんだ。
け、喧嘩はしないでほしいなぁ……と、思っていたら、ヘイムが少し横にズレてスペースを空けてくれた。
「レイナ、入る?」
「――うん!」
よし、解決。麗奈は一瞬で機嫌を直して、ヘイムの隣に潜り込んだ。
美少女二人が俺の布団で寝ている……って、なんでそうなってるんだよ。
「……そういえば、フィオとセーラは?」
「買い物。フィオが勧誘に失敗して落ち込んでいる。気分転換もかねてお菓子を買いに行った」
今日も三人で我が家に遊びに来るとは聞いていたのだが、ヘイムが一人で来たので不思議だった。なるほど、そういうことか。
「せっかく一人だから、ついでに勧誘も終わらせておく」
「なるほど」
つまり、ヘイムが勧誘する番ってことか。
その言い方だと、彼女は別に俺への勧誘に対して気合が入っているわけではないのかな。
「こういうのは苦手だけどね。どうせ無理だろうけど、一応やっておいて体裁を良くするのが大事」
「……ゆるいなぁ」
まぁ、ヘイムの性格には合っているのかもしれない。
彼女と出会ってまだ二日目なのだが、性格もなんとなく把握してきた。この人はいわゆるダウナー系だ。何事においてもやる気がないし、常に眠そうである。
「ヘイムちゃんも、光喜くんを異世界に連れていきたいの?」
「うん。レイナ、いい?」
「ダメ。わたしが寂しいもん」
「そっか。じゃあ、今は諦める」
弱い。ヘイムが弱すぎる。
麗奈に断られて速攻で白旗を上げていた。フィオの前だと、もっとしっかりしてたのに……姫様がいないと、彼女は更にやる気がなくなるのかもしれない。
「勧誘は姫とセーラに任せる。私はあくまでサポート役だからね……ふわぁ」
そう言って、彼女は大きなあくびをこぼした。
長い耳が連動するようにぴくりと動いたので、目がそっちにいった。エルフ……うん、やっぱりいいよね。エルフは最高だ。
ファンタジー好きのオタクならみんな共感してくれるだろう。
エルフが嫌いなオタクなんていない。サキュバスに並ぶ人気種族だ。
ヘイムの見た目はかなりの美形で、透明感のある緑色の髪の毛が特に印象的である。青汁とかの緑ではなく、エメラルドのような高級感のある色なので、つい目が奪われる。
これで目が半開きじゃなかったら、更に見とれていたかもしれない。しかしあまりにも無気力で眠そうなので、美人という感覚も薄かった。
「眠い」
「……ヘイムはいつも眠そうだな」
「この世界では仕方ない。だって、外気に魔力が一切含まれていないからね。体内で生成するしかないから、眠って回復させるしかない」
……あれ?
常に眠そうにしているのは、ダウナー系だからかなと思っていた。
だが、そのことにもちゃんと理由があるようだ。
「異世界だと、こんなに眠くならないってことなのか?」
「ううん。あっちの世界でも寝てる」
「……どっちみち、か」
「1000年生きているからね。さすがにずっと活動している、体力的に厳しいんだ」
見た目は若いけど、ちゃんとおばあちゃんなのかもしれない。
しかし、この前セーラが彼女を老人扱いすると怒っていたので、そのあたりは触れない方がいいだろう。あえて口を閉ざしておいた。
閑話休題。話がそれた。
「魔力って、眠ると回復できるのか?」
逆異世界転移パターンだと、魔法は使えなくなるというのが定番だ。
しかしヘイムたちは、どうもそういうわけではないらしい――。




