表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/74

第三十三話 規格外のヒロイン

「分からない、としか言えませんね」


 麗奈の正体について聞いてみても、やっぱり女神様は何も教えてくれなかった。

 いや、この言い方だと彼女が情報を隠しているみたいになるか……正確には、女神様ですら麗奈について『何も知らない』ということらしい。


「ご期待に沿えず、申し訳ありません。私も、可能であれば教えてあげたいのですが」


 そう言いながら、女神様は分厚い本のページをすさまじい速さでめくっている。

 たぶん、麗奈に関する情報を探してくれているのかもしれない。その様子は演技にも見えないし、嘘をついているようにも思えない。


 本当に女神様は何も知らない、と俺は判断している。

 だって、今の出来事を俺はどうせ忘れる。何か知っているのなら、隠す必要もないだろう。どうせ記憶に残せないのだから。


「これで『運命の書』に記されていない、とか特別な事情があればまだ考察の余地も生まれます。ただ、彼女の運命は他の大多数の人間と同じように記されていて、特別な表記も一切ないのです」


 記録上は『普通』そのもの。

 しかし、彼女は見るからに普通じゃない。

 その矛盾が、余計に混乱を生んでいる。


「麗奈の運命って、どうなってるんだ?」


「高校を卒業後、近所の大学に進学。卒業後は保育士の道を歩み、結婚して、子供を授かり、幸せな家庭で子育てに励み、老後は小さな土地を購入して畑作をするそうです」


「そっか。麗奈らしい人生だなぁ」


 とても幸せそうで、なんだか安心した。

 やっぱり、俺にとって彼女は大切な人なのだろう。彼女の人生がありふれた幸せに満ち溢れていることが、すごく嬉しい。


 ただ、その一方で……やっぱり不自然だとも思ってしまった。


「麗奈は俺の異世界転生を阻止しているけど、それって普通の人間にできることなのか?」


「自分の運命なら変えることは可能です。しかし、他人の運命となると……普通の人間にはできませんね」


 記録と実体が違う。

 表記上は普通なのに、実際は異常。その矛盾を、どう認識していいか分からない。


「そして、光喜様の運命も不安定なものとなっています。運命の書がこうも記述を変えることなんてないので、私も困惑していて……どうなるのでしょうね」


 神でさえ、予測ができない。

 麗奈の意思によって、運命が大きく変わる。

 まさしく彼女は『規格外』の存在だった。


「一番不自然なのは――あなたの幼馴染の記録に、光喜様の記述が一切ないことです」


「……だから、結婚相手の詳細を何も言わなかったんだ」


 少し、気になっていたのだ。

 だって、仮に麗奈が俺と結婚するなら、この場で言ってもいいだろう。

 何せ俺は、ここで知る情報を現実に持ち越せない。何も不都合はないはずなのに、女神様は麗奈の結婚相手について何も詳細を言わなかった。


 それは意地悪や何か思惑があったわけではなく、単純に記載がなかった……ということらしい。


「私自身も、気になっています。どうして彼女は女神である私に酷似していて、他人の運命を変えることができるのに、記録上は普通の存在でしかないのか……」


 それから、女神様は小さくため息をついた。

 考え込んでも仕方ない。そう言わんばかりに優しく微笑んで……女神様は、俺をギュッと抱きしめた。


「そろそろ時間です。これ以上は光喜様の精神に負担をかけますね」


「……色々教えてくれてありがとう。まぁ、全部忘れちゃうけど」


「うふふ。それでいいのですよ。全部忘れるから、私も気兼ねなくお話ができますから」


 柔らかい体に包まれると、不思議と気持ちが落ち着いた。

 そっと目を閉じて、女神様に身を預ける。


 すると、少しずつ体が浮いていくような感覚になった。


「それでは、また今度。光喜様の運命を、ここから見守っています……愛していますよ、心より」


 ……あれ?

 なんだか、女神様の様子が少しおかしい気がする。


 目を開けて、彼女の表情を見ようとした。

 でも、その前にもう女神様は俺を現実に送り返したようだ。





「――あなたとこうして笑い合える時間を、私は何よりも美しく思います」





 その言葉の意味を、聞くことはできずに……俺の体はどこかに落ちていった。

 もう何も見えない。真っ白い空間にはいない。


 そして意識を取り戻した時、俺は今の出来事を全部忘れるのだ――。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

「面白かった!」と思っていただけたら、ぜひ感想コメントを残してもらえると嬉しいです!

『ブックマーク』や下の評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると、次の更新のモチベーションになります。

これからもよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ