第三十二話 想像していた異世界ファンタジーよりドロドロすぎる
本来なら、俺が知り得るはずのない情報を、女神様が教えてくれた。
実はフィオが複雑な事情を抱える立場にいることや、ヘイムが不死であることなど、そういった裏の事情を知って驚いていた。
「三人の内、あなたたちの世界に赴いて一番様子が変わったのは、女騎士の方かもしれませんね」
「そうなのか? セーラは美人だけど少しおバカな脳筋、っていうイメージしかないんだけど」
「うふふ。素敵なイメージですね……実際に、あの方はそういう楽しいタイプの子だと思います。ただ、異世界は彼女に笑うことを許していないようですよ」
お姫様の護衛。それくらいの印象を持っていたが……どうやら、違うらしい。
「元々は地方の田舎娘。幼少期に村が魔族に襲われ、壊滅。生きていくために騎士団に入隊。コネがない中、実力一本で成り上がり、現在は騎士団長に就任。戦場では常に先陣を切って戦い、返り血をまとう彼女を『烈火』と称される狂戦士――そして彼女は王の暗殺を企んでいます」
「マジかよ」
聞いた感じ、どうも異世界の情勢は良くないようだ。
魔族との戦いもあると言っていた気がするのだが……それよりも、王の悪政の方が問題なのかもしれない。
「だからこそ、彼女は異世界で油断を一切することなく、常に無言でいます。彼女が笑うことができるのは、姫様と二人きりでいるときだけ……ただ、この世界には敵がいないので、すっかり気が緩んでいるみたいですが」
そのおかげで、俺や麗奈の前では抜けているところばかり見るのか。
戦いになると人が変わるタイプ、なのかな?
「三人があなたを狙う本当の目的は、魔王を倒してほしいからではありません。それはあくまで副産物にすぎないでしょうね」
「……権力のため、か?」
「はい。『異世界の英雄』という戦力を保有して王に対抗するため――という方が近いでしょうね。場合によってはクーデターの象徴にもなり得るかもしれません」
「お、俺の想像していたファンタジーとは、ちょっと違うなぁ」
もっと清々しいファンタジーをイメージしていた。
魔物を倒したり、ダンジョンにもぐったり、伝説の魔獣をテイムしたり、封印された剣を探したり――そういう冒険がメイン、ではないのかもしれない。
「夢と現実は違います。たとえ夢のような状況だとしても、それが現実であれば……全てが理想通りにはなりません」
まさしく、その通りだ。
俺にとって都合がいいだけの異世界なんて、あるわけがないか。
「うふふ。そう思われるのが分かっているから、三人は本当のことを教えないと思いますよ。実際、話を聞いた光喜様はすごく苦々しい顔をしていますから」
「うん。この状況なら……異世界に行ったところで、俺って利用される立場なんだよな? ちょっとそれは、遠慮したいかも」
少なくとも、麗奈と天秤にかけることすら有り得ない状況だ。
まったく心がときめかない。まぁ、それでもファンタジーの世界は好きなので、麗奈がいなければ考えていたかもしれないけど。
「敵は魔族でも、魔物でもなく、同じ『人間』なんだな」
「……否定はできませんね。魔族や魔物とも戦うことはあると思いますが」
「たぶん、人間と戦うこともある――と」
仮に、異世界に行ったとしよう。
その場合、俺は三人の味方になるはず。そして三人は、現王政への謀反を企てている。
いわゆるクーデターだ。人間同士の争いだ……それに耐えられるとは、決して思えない。
「もちろん、この情報は異世界の三人にあまりにも不利なので、現実では忘れてしまいます。そのことにはご注意くださいね」
「……女神様って、どっちの味方なんだ?」
「もちろん、基本的には光喜様の味方ですよ? ただ……公平じゃないのは、嫌いなので」
アンフェアだと許せない、ということか。
うーん。やっぱり、女神様は麗奈に似ているよなぁ。
顔だけじゃない。性格もそうだ。だって麗奈も公平ではないことを嫌がる。
二人がまったく関係のない存在だとは、思えない。
この際だから、麗奈についても少しだけ聞いてみようかな――。
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