第三十話 情報整理の時間です
――あ、また来たんだ。
いつの間にか、上下左右が真っ白い空間に立っている。距離感も時間感覚もないこの不思議な空間に来たということは……彼女に呼び出された、ということだろう。
「光喜様、数日ぶりですね」
目の前で、女神様が微笑んでいる。
純白の空間にいるというのに、真っ白いドレスのような衣服を着ているせいで、なんだか空間に同化しているように錯覚する。まるで淡く発光しているかのように、輪郭が朧気だ。
ただ、よくよく見てみると、女神様の顔はやっぱり……幼馴染の麗奈に似ている。髪の毛の長さやスタイルは違うものの、大人になった麗奈と表現してもいいだろう。
幼いころから、見慣れた顔だ。
だからこそ、俺は女神様を前にしても平常心でいられるのかもしれない。
「今日も何か用事があるのか?」
「いえ。寂しくて、つい呼んじゃいました」
……そういうところも、麗奈に似ているなぁ。
数日会わないだけで彼女は落ち着きがなくなるのだ。普段は冷静で大人びているのに、意外と寂しがり屋なのである。
「そっか。まぁ、いつでも呼んでくれ。俺も女神様と会うのは楽しいし」
「あら♪ 素敵なことを言ってくれますね……うふふ。いいのですか? 毎日呼んじゃうと、魂が疲弊して寿命が縮みますよ?」
「……や、やっぱりほどほどでお願いしようかな」
笑顔で怖いことを言わないでほしい。
魂だけの状態だから、かな。なんだかんだリスクはあるのかもしれない。
「大丈夫ですよ。そのあたりは配慮していますから。ちゃんと、光喜様の負担にならないよう調整しているので、安心してください」
それなら良かった。
まぁ、ちょっとくらいの寿命なら削れてもいいのだが……それに見合うだけの体験をしていると思う。
だって、女神様とこうしてオシャベリできるのだ。普通に生きているだけでは有り得ないことができているので、それが純粋に嬉しかった。
「くつろいでください。今は休憩時間……ラブコメでも、異世界ファンタジーでもない、合間の行間です。このひとときに、頭を整理するのもいいと思います」
「整理、か」
たしかに、現実世界では色々と起きている。
整理する時間なんてないほど、目まぐるしくイベントが連続で発生している。
考えてみると、たしかに落ち着く時間なんてなかった。
「私に、光喜様の日常を聞かせてください。運命の書で何が起きているのかは把握しているのですが、詳細までは知らないので」
へー、そうなんだ。
女神様のことだから、俺の人生もすべて把握していると思っていた。
なるほど。だからこうして話をすることを、彼女も望んでいるのか。
「そういえば、異世界からお迎えが来たみたいですね」
「うん。お姫様のフィオと、エルフで魔法使いのヘイムと、女騎士のフレアと会ったよ」
「……悪政を敷く父から王位を奪うために足掻く継承権第七位の幼き姫と、不老不死の呪いを受けたエルフに、烈火のごとき狂戦士で知られる騎士団長――これはまた、癖のある三人ですね」
「え、そうなの!?」
意外と三人の背景が複雑だった件について。
ただのかわいい妹系お姫様と、ちょっと眠そうな美形のダウナー系エルフと、脳筋で体がスケベなだけのおバカ騎士様だと思っていた!
「うふふ。光喜様、それはさすがに失礼ですよ。平和ボケしすぎです」
「俺の心を読まないで」
女神様ならできて当たり前かもしれないが、心の声は流石に恥ずかしいので、聞いていたとしても何も言わないでほしい。
と、いう声も聞こえたのだろう。女神様は小さく頷いてから、三人についてさらに詳細を教えてくれた――。
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