第二十九話 ラブコメは異世界にNTRれない
なんとなく、麗奈の気持ちが伝わってくる。
彼女はもしかしたら……俺を束縛しているのではないか、と心配しているのかもしれない。
「行きたかったら、行って来てもいいよ。数ヵ月なら我慢できるもん……寂しいけどね」
いつだって彼女は俺の気持ちを尊重してくれる。
麗奈は愛情を押し付けない。あくまで渡すだけで、重荷になることを極端に恐れている。
たぶん――嫌われたくない、という気持ちの方が強いのかもしれない。
それだけ愛情深く、俺のことを思ってくれているのだ。
その気持ちが分からないほど、俺は鈍感じゃない。
もちろん、そんな彼女の思いを当たり前のように受け取るような、傲慢な人間でもなかった。
「麗奈がいないなら、行きたくない」
これは、嘘や偽りのない俺の本心。
気を遣っているわけでも、遠慮しているわけでもなかった。
「たしかに異世界は好きだし、ファンタジーに憧れはある。だけど、麗奈と一緒にいられない辛さの方が大きい。だから、行こうとなんて思ってないよ」
麗奈の不安を、少しでも軽くしてあげたい。
その一心で、本音を伝えた。
本当は、勝負する前に言ってあげたかったのだが……あの時はタイミングを逃してしまって、麗奈に気持ちを伝えられなかった。
だから、今はちょうどいい機会だ。
「0歳のころから一緒にいるんだぞ? 数ヵ月でも離れたら、寂しいに決まってる……まぁ、麗奈が嫌だったら、それは仕方ないけどさ」
「――嫌なんて、ありえないよ」
そう呟くと同時に、麗奈はいきなり俺の胸元に抱き着いてきた。
「おっと……」
意外と勢いが強かったのでよろめいたが、しっかりと受け止めた。
麗奈が全体重をかけているせいだと思う。軽いけど、俺を心配しすぎていた。少し力を抜いたら麗奈が転倒しそうだったので、しっかりと踏ん張っておこう。
それだけ、彼女は俺に身を預けているということか。
「えへへ。やっぱり、光喜くんと幼馴染で良かった。こんなに素敵な人と、誰よりも長く一緒にいられるなんて、これ以上ない幸運だよ」
「その言葉、そのまま返せるな」
むしろ、麗奈は俺にもったいないほどの美少女だ。
見た目はもちろん、中身はそれ以上かもしれない。愛情深く、それでいて一途で、献身的な女の子。こんなに素敵な人を探す方が難しいだろう。
「勝負なんて引き受けなくて良かったんだぞ? 俺は異世界に行くつもりがないからな」
「……ううん。それは、不公平だからダメだよ。わたしは幼馴染っていう有利な状況にいるけど、あの三人は違うでしょ?」
変に律儀なのも、麗奈の魅力の一つだ。
スポーツマンシップなのかな。幼いころにボクシングを叩き込まれたせいか、彼女は不正を好まない。
「あと、勝つ自信はあるの。光喜くんがもし異世界に行くつもりがないなら……わたしから寝取られることはないって、断言できるから」
「ね、寝取るとは違うと思うけど」
「異世界に寝取られているのと一緒でしょ?」
そうなのかなぁ。
ちょっと違う気がするのだが……麗奈の感覚としては、異世界という存在はライバルに近いらしい。
「心変わりなんてさせるわけないよ。だって、わたしは光喜くんを愛しているし、光喜くんはわたしを愛しているもんね」
また、恥ずかしいことを言う……!
でも、まさしくその通りだ。俺たちは、付き合ってこそいないが両思いであることは、お互いに自覚している。
恋人になっていないのは、恋人になる必要性をまだ感じていないから。
必要になるか、もしお互いのどちらかが望めば、いつだって恋人になるだろう。
それくらい、好きという気持ちはお互いに理解しているわけで。
そう考えると……麗奈が勝気なんおも、なんとなく分かる気がした。
「えへへ。良かった、光喜くんに行く気がないなら……安心だね」
彼女は勝利を確信している。
ある意味、それは当然だとすら思う。
異世界でファンタジーすることと、幼馴染とラブコメすること。
その二つは、現状……天秤にかけるまでもなく、麗奈の方が俺にとって大切なのだから――
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白かった!」と思っていただけたら、ぜひ感想コメントを残してもらえると嬉しいです!
『ブックマーク』や下の評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると、次の更新のモチベーションになります。
これからもよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ