第二十六話 異世界の誘惑に耐えられるかな?
もっとシリアスな場面なのかと思っていたが。
しかし、セーラが空気を読めていないので、雰囲気が一気に軽くなった。
「これから一週間、ミツキ殿を誘惑させてもらう。それで彼が『異世界に行きたい』という気持ちになったら、レイナは何も言わないでくれるな?」
誘惑って。
俺って軽薄な人間に見えるのだろうか。麗奈以外の異性には心変わりしないと思うけどなぁ。
「うん。別に勝負には乗ってあげるけど……光喜くんはわたしのこと大好きだから、誘惑しても無駄だと思うなぁ。たしかにセーラちゃんは綺麗だしおっぱいも大きい。でも、うぬぼれたらダメだよ?」
「セーラ、落ち着いて。たしかに君はスケベな体をしている。でも、ミツキとレイナの絆には勝てない」
「わたくしもそう思うわ。セーラは男性とお付き合いしたことないのだから、レイナお姉さまには負けちゃうと思うの」
「そ、そそそんな破廉恥な誘惑ではありません! 姫までそのようなことを言わないでくださいっ」
あれ?
俺もそっち方向の誘惑だと思っていたが、どうやら違うらしい。
「ミツキ殿は異世界が好きなのだろう?」
そう言って、彼女は俺の本棚を指さした。
そこにはぎっしりと異世界ファンタジーが敷き詰められている。
まさしく、彼女の言う通りだ。
「異世界で冒険、したくないか?」
「……っ!」
なるほど。そこを突いてくるか。
異性としての誘惑になら余裕で耐える自信はあった。
だが、異世界ファンタジーの魅力を語られたら……少し、自信がなくなる。
だって俺は、異世界が大好きなのだから。
「フハハ! 私には分かる。ミツキ殿は温厚に見えて、意外と戦いや冒険が好きだろう?」
「そ、それは分からないぞ? たしかに異世界は好きだけど、それは物語だからで――」
「強がらなくても良いのだぞ? 何せ、我々を見る目が少年のようにキラキラと輝いている。ヘイムが魔法のことを語っていた時の食いつきもすごかったからな……よっぽど、異世界からの使者が気になっていると見た」
セーラはあまり難しいことを考えない人間に見える。
しかし、だからこそシンプルに問題の解決方法を考えたようだ。
問い。俺が異世界に行きたがっていないのなら、どうする?
答え。俺が異世界に行きたがるほどに、楽しそうだと思わせればいい――ということだろう。
「【顕現せよ】」
不意に一言。セーラが呟くと同時に、何もない虚空から剣が出現した。
これは、魔法だ。
「セーラ。君はもしもの時以外に魔法を使うなと言っただろう?」
「いや、今がそのタイミングだ。ほら、ミツキ殿を見てみろ」
と、二人が会話しているのを、俺はもう聞いていなかった。
「おお……!」
なぜなら、セーラの持っている剣に夢中だったからである。
西洋風の剣だ。刃が広く、平べったい。実物を目にするのは初めてだ!
「……ミツキお兄さま、すごく嬉しそうだわ」
「あ~。光喜くん、ファンタジーが大好きだからね……」
麗奈はため息をついていた。
彼女も理解したらしい。セーラがやろうとしている誘惑が、俺に効果的であるとういうことを。
も、もちろん剣を見せられた程度では屈しないぞ!
ただ、うん。ワクワクしないと言えば、ウソになるだろう。剣が嫌いな男の子はいない。
「そういうわけだ。ミツキ殿は果たして、異世界の誘惑に耐えられるかな?」
「なるほどなぁ。帰って来られるんだったら、旅行とほとんど変わらないし……ちょっとだけ、分が悪いかも?」
つまり、この勝負は『麗奈』と『異世界旅行』を天秤にかけているということか。
俺としては、麗奈と離れ離れになるのはやっぱり嫌なのだが。
(でも、数ヵ月くらいなら……と、思ってしまう自分がいるのは否定できないか)
その天秤は、かなりいい勝負だった。
今はやや麗奈に傾いているが、何かきっかけがあればすぐに逆転してしまいそうだった――。
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