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第二十四話 ご都合主義は、誰の都合か

 麗奈は異世界に行くことができない。

 ヘイムはハッキリとそう断言した。


「この世界で言うところの……サンソと一緒。私たちの世界には『魔力』が存在していて、それをエネルギーとして活用して生命活動をしている。でも、耐性がないと死んじゃう」


 そういえば、酸素とは実は猛毒なのだと科学の授業で習った記憶がある。

 現代の生物は酸素に適応した構造をしているからこそ存在しているが、適応できなかった生物は全て絶滅してしまった――ということらしい。


 同じ意味で考えると分かりやすい。

 麗奈は魔力に適応できない。だから、人体が耐えられないのだろう。


「それなら、なおさら光喜くんが行くことは許せないよ。わたしにとって毒なら、彼にだって有害でしょ?」


 麗奈は厳しい表情を浮かべている。

 元々、俺が異世界に行くことに否定的だった姿勢が、さらに強硬になった気がした。


「ミツキは例外。耐性がある」


「でも、有害なんでしょ?」


「……それは否定できない」


 いくら耐性があろうと、魔力は異世界に住む人間にとって、毒であることに変わりはない。

 それは事実のようで、ヘイムは困ったように視線を伏せていた。


 普段は常に眠そうで、目も半開きなヘイムだが……今回ばかりは、表情をしっかりと引き締めている。

 麗奈の真剣な気持ちに、彼女なりに真摯に向き合おうとしているのかもしれない。


「ただ、被害は限りなくゼロに近い。少なくとも、彼の寿命にも、健康状態にも被害はないことは約束する。せいぜい、異世界にいる間は怪我の治りが遅くなる程度。そして、怪我は魔法で治癒できる」


「どうして断言できるの? そういうデータがあるの?」


「ある。私たちの世界では数百年に一度、異世界から英雄を招いている。その際にデータを取得して、継承している。そこは安心して」


「王族としても、その点にかんしては保証するわ。あと、ヘイムは千年を生きる悠久の大賢者よ。かつて、その目で英雄の去就を見届けた人でもあるの」


「ミツキで三度目。私以上に、異世界……君たちの世界について熟知している者はいない」


「……そうなんだ」


 フィオの補足もあって、少し麗奈の態度が軟化した。

 断固拒否、という姿勢から議論を交わせる程度には安心したのかもしれない。


「わたしが行けないことは構わないし、光喜くんがどうしても行きたいと言うのなら、寂しいけど引き止めることもできない。でもね、命が危険なら絶対に止めようって思ってたの……たとえ嫌われることになったとしても、ね」


 それだけ、麗奈は俺のことを大切に思ってくれている。

 その愛情を無視するほど、俺は鈍感な人間ではないのだ。


「麗奈、安心してくれ。お前の同意がないなら、俺は絶対に異世界に行かない。たしかに、異世界には憧れがあるけど……もし行くことになったとしても、麗奈にはちゃんと伝えるし――帰ってくるよ」


 もちろんそれは、大前提の話だ。

 仮に異世界に行くことが片道切符なのだとしたら、そもそもこの話は論ずるに値しない。


「少し時間はかかるけど、ミツキがこの世界に戻ることは保証する。私の命を捧げてでも……この大賢者ヘイムが、約束する」


 そして、ヘイムもちゃんと分かってくれているみたいだ。

 良かった……のか? いや、もちろん異世界に行ってみたいという気持ちもある。だが、可能性がない方が諦めもついたので、むしろ今のパターンの方が悩むことになるのか。


「その上で、ミツキお兄さまにお願いがあります。どうか――わたくしたちの世界に来てください」


 ここでようやく、正式なスカウトの言葉がフィオから発せられた。

 異世界を代表しての一言、なのだろう。立ち上がって、丁寧な言葉を使って、彼女は深々と頭を下げた。


 続いて、ヘイムとセーラも無言で立ち上がり、頭を下げた。


 麗奈も一緒に行けるのなら、悩まずにすんだのに……全部が全部、俺に都合のいい展開にはなってくれなかった。


 さて、困ったな。どうしたものか――。


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