第二十二話 異世界への憧れ
歩くことしばらく。ようやく俺の家に到着した。
我が家は1DKのアパートである。
一人で暮らす分には快適なのだが、さすがに五人も入ると少し狭いかもしれない。
一応、ソファがあるのでそこに三人は座れる。異世界の三人にちょうどいいだろう。
ただ、そうなると俺と麗奈が床に座ることになる。俺としては来客なので、三人を優先したいところだったのだが。
「ミツキ、レイナ。私とセーラはいいから、座って」
「主と同じ席に座るわけにもいかんからな」
身分的な問題があるらしい。
そういうわけなので、俺を中心にフィオと麗奈がそばに座った。ちなみに、ヘイムとセーラは立ったままである……座布団はあるのだが、まぁ本人たちの好きにしてもらおう。
さて、これでようやく落ち着いて話ができる。
何を目的に彼女たちがここに来たのか――そのことを、しっかりと聞きたかったのだが。
「はい、お菓子とジュースでもどうぞ~。好きに食べてね」
「オカシ? ジュース? あ、この世界のスイーツなのね」
「姫! 毒見は私にお任せを……ぱくっ。ぱくっ。ぱくっ。ぱくっ」
「セーラ!? 毒見にしては食べすぎだと思うわっ。わたくしの分も残してね……?」
「……ふわぁ。眠くなってきちゃった」
ゆ、ゆるいなぁ。
まるで日常系アニメのワンシーンだった。もう少しシリアスな場面になる気がしたけど、あまりにも緊張感がなさすぎる。
麗奈がお菓子とジュースを出したせいだろうなぁ。
たぶん、彼女は友人を家に招いたくらいの感覚なのかもしれない。
お菓子に夢中なフィオとセーラ。
立ったまま寝ようとしているヘイム。
隣で俺の制服のしわを伸ばしている麗奈……みんな想像以上に自由だった。
このままだと、本題に入りそうにない。
そう思ったので、やや強引だが……唐突に切り出してみることにした。
「それで、三人はなんでこの世界に来たんだ?」
「もぐもぐもぐ!」
「……ごっくん。セーラ、口に入れながら説明するのは不可能よ、落ち着いた方がいいわ」
「すやぁ」
「あ、光喜くんったら寝癖もついてる……コンディショナー変えた方がいいかなぁ」
と、まだまだ空気は緩いのだが。
一応、俺の質問はちゃんと聞いていたらしい。フィオとセーラがお菓子を咀嚼した後に、ちゃんと答えてくれた。
「大賢者ヘイム様の転移魔法陣で来たんだ」
「ヘイムは我が世界でも数少ない転移魔法の使い手なのよっ」
いや、来た手段ではなく目的を聞いたつもりだったのだが。
でも……ちょうどいい。このことについても、詳しく知りたかったのだ。
「転移魔法って、こんなに気軽にできるのか? 俺のイメージだと、異世界間での転移は一方通行だと思ってたんだけど」
「――通常はそう。でも、私はすごい魔法使いだから……往復できる」
眠りかけていたヘイムだが、自分のことが話題になっているのに気付いたのか。
鼻提灯をおさめて、ちゃんと説明してくれた。
「ただ、とにかく膨大な魔力を消費する。一往復する分の魔力を回復するには、元の世界でも三カ月ほどかかる」
「――ちなみに、そこの老婆は1000年生きる大賢者だ。保有魔力量も普通の魔法使いの100倍は超える。それでも一往復分がやっと、ということだ」
「こんな芸当ができるのは、ヘイム一人だけなのっ。彼女がいなければ、こうやってわたしたちが異世界に来ることはできなかったわ」
なるほど。やっぱり、そう簡単に異世界間で転移することはできないよな。
もし転移が気軽にできるなら、今までにも異世界からの住人がきっといたはずだ。それがいないということは、ヘイムが稀有な存在という証明だろう。
(それなら、麗奈も一緒に行けそうだな)
往復できるのなら、帰ってくることだって可能だ。
片道切符じゃないのなら、麗奈だってきっと許してくれるだろう。
設定としては都合が良すぎるように思える。
いかにもなご都合主義の設定だ。しかし、それの何が悪い?
異世界も楽しめる。大好きな人とも一緒にいられる。
そのどちらも手放さなくていいのなら、それが一番いいことだ。
(もしかしたら……異世界に行けるかもしれない)
そう考えると、なんだかワクワクした。
麗奈に申し訳ないからあまり声を大にして言えないのだが……やっぱり俺は、異世界ファンタジーが好きである。
可能であるなら、行ってみたい。
その気持ちは、やっぱり今も変わらなかった――。
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