第二十話 俺たちの世界の洗礼――ごはんが美味しい!
「いただきます」
手を合わせて、作ってくれた麗奈に感謝を伝えてから、箸を握る。
その様子を見届けてから、麗奈も続いて食事を始めた。
「……イタダキマス」
隣に座るフィオも手を合わせてからサンドイッチを手に持った。いただきますと言う文化はないだろうが、俺の真似をしていて可愛い。
「ヘイムよ。それだけで空腹が満たされるのか? 一本食べておけ」
「要らない。君みたいにバカ食いできる年齢じゃないからね」
「そうか。老婆は食が細くて可愛そうだな」
「次に老婆と言ったら君を殺す」
隣のベンチでは何やら物騒な会話をしていたので、聞かなかったことにしておこう。
そっか。ヘイムってエルフだから……ああ見えて意外とご年配なのか? 年齢にかんする話題はセンシティブそうなので、今後はあまり触れないでおくか。
「ミツキお兄さま……あの、包装がとれなくて……」
隣のフィオがいちいち可愛くて困る。
サンドイッチのフィルムが剥がれる、ということは知識としてあるようだが、手段が分からないようだ。
「ここに出っ張りがあるだろ? ここを引っ張ると……そうそう。綺麗に剥がれるんだよ」
「わぁっ。これは魔法かしら? すごいわ!」
リアクションがいちいち純粋で、心が浄化されそうだった。
「か、かわいい……子供は女の子もいいなぁ。ワンパクな男の子も魅力的だけどっ」
隣の麗奈もフィオが可愛くて仕方ないのだろう。俺越しにずっと眺めている。
俺も今はフィオのことをジッと見つめていた。
さてさて。異世界の住人による初めての食事である。
どんな反応を見せてくれるのだろうか、楽しみだ。
「あむっ。こ、これは――!?」
まずは一口。サンドイッチの隅っこに、小さな歯型がついた。
味見程度のつもりだったのだろう。少し咀嚼して、それからフィオは目の色を変えた。
「お、美味しいわっ。今まで食べたどんな食事よりも……!」
なるほど。そうなるんだ!
現生の食事は、異世界と比べて味が良いらしい。異世界の方が魔物とかここと違う食材も豊富だし、あっちの方が美味しいかと持っていたが、意外と違うみたいだ。
「旨味の暴力とはこのことか!? 美味い、美味すぎるぞ!!」
隣のベンチに座っているセーラも、チキンを両の手にそれぞれ一本ずつ握ってすさまじい勢いで食べていた。それは単体で昼食にならない気がするし、揚げ物を一度に大量摂取したら気分が悪くなる……と教えても止まりそうにないので、何も言わないでおいた。
「……すやぁ」
そしてヘイムはもう寝ていた。十秒でチャージできることで有名なゼリー飲料は既になくなっている。日向ぼっこが気持ち良いのかもしれない。そっとしておこう。
「ミツキお兄さま! レイナお姉さま! この中にある、黄色い……卵というのねっ。これが美味しいわ!」
味がよっぽどお気に召したのか。
俺たちにちゃんと報告してくるところもまた、愛らしかった。
麗奈なんてもう、すっかりデレデレである。
「フィオちゃん? これも食べてみる? 同じ卵焼きだよ~」
麗奈は人見知りするタイプだが、年下は平気らしい。小さい子が好きらしいので、将来は保母さんになることも視野に入れていると前に言っていた。
一番の夢は俺のお嫁さんになること――と言っていたのは、またいつか話すことにして。
「いいの!? もちろん、食べたいわっ」
「はい、どうぞ」
「あむ……!? う、上には上があるのねっ。すごいわ。異世界、すごい!!」
フィオはすっかり感動していた。
この世界の食事の洗礼を浴びて、すごく楽しそうだった。
(……賑やかだなぁ)
普段は、麗奈と二人きりでいることが多い。
彼女と過ごす日常も楽しい。でも、こうやって複数人で賑やかに過ごすのも、また違った楽しさがあった。
当然、これは一時的なものだと分かっている。
彼女たちは異世界の住人で、この世界に長くとどまることもないだろう。
だからこそ、この一瞬を噛みしめておこう。
この後、何が起きるか分からないのだから――。
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