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第一話 トラックの事故って、もしかして転生フラグ?

 登校中。もちろん俺は、夢について麗奈に全て話した。


「へぇ。真っ白い世界で転生しようとして……え、わたしが空間を壊した!? そんな野蛮なことするわけないよっ。ほら、かよわい乙女だもん」


「夢でも同じこと言ってたな」


 ボクシング、続けた方が良かったと思うけど。

 親父さん、お前がやめるって決めた時は号泣してたぞ。麗奈なら世界を取れるはずなのに、って。


「……殴られたら顔が腫れるでしょ?」


「まぁ、格闘技だから仕方ない」


「でも、光喜くんにぶちゃいくなところ見せたくないし」


「乙女だな」


「うん。めっちゃ乙女。かわいいでしょ? 光喜くんのために見た目を気にしてる女の子とか、最高じゃない? 幸せ者だね、光喜くんは」


「自分で言わなければ、たしかにかわいいかもしれない」


 自信家なところも、格闘技に向いている気がするが。

 しかし、こんなやり取りは今まで散々してきている。麗奈にボクシングを続ける気がないことは知っているので、しつこく言うのはやめていた。


「とにかく! 俺は異世界転生しようとしたけど、麗奈に連れ戻されたんだよっ」


「えー。大好きな男の子の夢に出ちゃうとか、めっちゃ幸せかも」


「そこにときめくなよ」


 話が進まないが、麗奈は基本的に恋愛脳なので仕方ない。

 こういうやり取りも、すっかり慣れている。


「あれって本当に夢だったのかなぁ」


「夢じゃなかったら怖くない? だって、わたしは知らないもん」


「うん。麗奈も覚えていたら……面白かったんだけどな」


 いつもの日常はもちろん楽しい。

 でも、ほんの少しだけ、刺激が欲しくないと言えばウソになる。

 ファンタジーが好きだ。剣と魔法の世界に憧れている。空想の世界で、俺は何度も英雄になっている。


 ……まぁ、高校生になった今は流石に妄想の頻度は減っているが。

 それでも、やっぱり憧れは残っている。


「面白くないよっ。光喜くんが異世界に行っちゃったら、わたしが寂しいでしょ?」


「うん。俺も寂しいし、一緒に行かないか?」


「え。やだ、プロポーズ!? えへへ、しょうがないなぁ。光喜くんのことは、一生幸せにしてあげるね♡」


「落ち着け。プロポーズではないから」


「はい、誓います♡」


「勝手に誓わないで」


 麗奈はすっかり結婚した気でいるらしい。

 俺に指輪をはめてもらうつもりなのか、手をそっと差し出している。


 それを横目に見ながら……ふと、彼女がいない日常のことを考えてみた。

 やっぱり……ありえないな。


 小さい頃からずっと一緒で、兄妹……じゃなくて姉弟と言わざるを得ないことだけが少し残念だが、しかしそういう関係性で俺たちは今まで生きてきた。


 幼い時期に両親を亡くした俺に取って、彼女は家族であり、そして誰よりも信頼できる大切な人でもある。

 だから、彼女のいない世界は考えられない。麗奈のことを最初から思い出していれば、一人で異世界に行くことなんて判断していなかっただろう。


 そう考えると、彼女に止めてもらえて良かったかもしれない――





『ピィイイイイ!!』





 ――あ、死んだ。

 急だが、一瞬で理解した。俺は今から死ぬのだ……と。


 なぜなら、前方からトラックがこちらに向かって突っ込んできていたのだ。

 クラクションを鳴らしながら、まっすぐこちらに迫っている。


 トラックの暴走、か?


(……死ぬ間際って、本当に時間がスローになるんだな)


 思考が巡る。猛スピードで迫っているはずのトラックが、遅く見えている。

 でも、遅いのは俺の動きも同じだ。このスピードでは、避けられない。


(せめて、麗奈だけでもっ)


 大好きな幼馴染くらいは、助ける。

 彼女を突き飛ばすくらいならできるはず……そう思って、俺は麗奈がいた方向に視線を動かす。


 その時だった。


「――っ!!」


 麗奈が、俺に手を伸ばしている。


『手を握って!』


 そう叫んでいる気がして、ならない。

 だから、考える間もなく反射的に彼女の手を握りしめていた。


 直後、体に凄まじい衝撃が襲いかかる。

 でも、感覚があるということは……壊れていないということでもあって。


『ドンッ!!』


 その轟音は、トラックが先ほどまで俺たちのいた付近にあるブロック塀にあたって発生したものだ。


「ぐっ……!」


 遅れて、俺の体は地面に思いっきり背中を打ち付けた。アスファルトなのでもちろん痛い。しかも俺の上には麗奈が抱き着いていたので、彼女の分も重さは加算されている。ただ、お腹付近に柔らかい感触があるので、差し引きゼロだ……って、こんなくだらないことを考えられるのなら、俺は無事だな。


(い、生きてる?)


 自分の体を確認。大きな怪我すらない。ちゃんと生きていた。

 先ほど、トラックにひかれかけた時に麗奈が飛びついてくれたおかげだ。彼女の強靭な脚力での場から吹き飛ばされて、トラックの走路からそれたようだ。


 現在、俺と麗奈はぺちゃんこになったトラックのすぐそばで、お互いに抱き合ってアスファルトに転がっている。


「あ、危なかった……死ぬかと思ったぁ」


 俺を抱きしめながら、麗奈が冷や汗を拭っている。

 彼女の柔らかい体を感じて、俺も生きていることを再確認した。


「……俺、死んだと思ってた」


 というか、諦めていた。

 せめて麗奈だけでも助けようと思ったのだが……逆に彼女が、助けてくれたみたいだ。


「ボクシングやってて良かった。わたし、反射神経めっちゃ早いから」


「お、おう。そうだな」


 ボクシングで説明がつく反射神経なのか。

 ともあれ、どうにか事故を回避できた。


「だ、大丈夫か!?」


 しかも、トラックの運転手も無事だったようで、座席から慌てながら降りてきた。見たところ、大きなけがはないように見える。


 事故は起きたが、誰も怪我はしていない。

 そのことに、まずは安堵する。


 そして次に考えたのが、こんなことだった。


(トラックの暴走だよな……これって、もしかして――転生フラグか?)


 やはり頭をよぎったのは、今朝の夢。

 真っ白い空間で、女神様に俺は『転生する運命』と言われていたわけで。

 つまりこのトラックの暴走も、転生のフラグかもしれないと思ってしまったのだ――。

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