第十六話 『魔法』というご都合主義万能辻褄合わせ用語
と、いうことで五人でお昼ごはんを食べることになったのだが。
教室だと目立つということで、魔法使いのヘイムさんが屋上で食べようと提案してくれた。
(なんで屋上で昼食を食べられることを知ってるんだろう?)
この人たち、異世界の住人だよな?
現世の、しかも学校というシステムにも混乱していないように見えて、少し引っかかっている。
そのあたりについても、詳しく聞いてみようかな。
そんなこんなで、五人で屋上に向かう。
ただ、屋上は昼食場所として人気スポットである。食べられる場所が空いているといいけど、もしかしたら人がいっぱいかもしれない。
「あ、やっぱりたくさんいるか」
屋上に続く扉を開けると、予想通り設置されたベンチはほとんど埋まっていた。
別の場所に行こうと、提案しかけたその時。
「仕方ないね。少し、場所を開けてもらおうか」
そう呟いて、ヘイムさんが手を軽く叩いた。
ペチン、という力のない拍手が響いて……その瞬間、ベンチで昼食を食べていた生徒たちが一斉に立ち上がった。
「え?」
な、なんだこれは?
不自然な事態に混乱している俺とは違って、みんなはいたって普通である。友人と雑談を交わしながら食べかけの弁当を片付けて、そのまま屋上から出て行った。
……な、なんだこれは。
「お、ちょうど空いたね。光喜くん、座ろっか」
そう言って、麗奈は近くのベンチに向かって言った。
やっぱり、様子が変だなぁ。
不自然なことが起きたのに、態度があまりにも普通すぎる。そのことに困惑していると……ヘイムさんが俺の肩を軽く叩いて、こんなことを囁いた。
「落ち着いて。これは軽度の『認識阻害魔法』だよ……一般人が不自然なことに気付かなくなる」
や、やっぱりそうなんだ!
なんとなく、魔法っぽいなぁと思っていたのだ。
うんうん、なるほど。それなら納得である。
「姫様が小さすぎるのに誰も何も言わないのも、ヘイムさんの耳を誰も気にしてないのも、セーラさんがムチムチでエッチすぎるのにみんなのリアクションが薄いのも、魔法ってことか!?」
「うん。ただ、セーラは流石に変すぎて少しみんなから注目を集めてたけど」
「わ、私は変ではないぞ!? え、えええええっちすぎでもないからなっ」
あ、聞いてたんだ。
女騎士のセーラさんはすぐ近くで顔を真っ赤にしていた。
堅物そうに見えて、表情がとても初々しいなぁ。
「えへへ。わたくしは12歳だから、高校生にしては年齢が低いのかしら」
いつの間にか足元にいた姫様が、かまってほしそうに俺の制服の裾を引っ張っていた。かわいいな、おい。
……って、そうだ。
姫様、なんで12歳が高校生になれないことを知っているんだ?
異世界の住人なのに、やっぱりこの人たちは現世について理解があるように見える。
せっかくなのでそのことも聞いてみたら、やっぱり予想通りの答えが返ってきた。
「『魔法』のおかげ。この世界の一般常識は魔法で理解してる」
「なるほど」
やはり魔法。
魔法は全てを解決する。
あらゆる不条理も、矛盾も、違和感も、魔法という単語で全部解決できるからすごい。
魔法は万能。ご都合主義の辻褄合わせに、これ以上の単語はない。
「でも、魔法に異常な耐性のある君にはかからない。あくまで耐性の低い『一般人』にだけ、私たちが普通に見えるようにしている。そもそも精神に作用する魔法はレベル差がないと失敗するから」
「俺って耐性あるんだ……」
それってすごいのかなぁ。自覚がないのでよく分からない。
一応、俺だけに違和感があって、みんな普段通りに過ごしている理由としては筋が通っているか。
それはそうと。
「一般人、ね」
その単語を聞いて、俺は彼女に視線を向けた。
(麗奈はやっぱり、いつも通りだ)
彼女は特に俺たちを気にすることなく、弁当を食べ始めている。
異世界の住人がここにいるというのに……麗奈はずっと普通だ。
(つまり、麗奈も『一般人』なのか?)
今までの出来事は、全部魔法という単語で納得できた。
でも、麗奈に魔法がかかっていることだけは、どうしても納得できない。
(麗奈は絶対に普通じゃないのに)
異常な身体能力。他に類を見ない美貌。女神様に酷似した容姿。俺の運命を捻じ曲げるほどの力。
それらをもっていながら、一般人とはさすがに思えない。
でも、女神様も麗奈のことは普通だと言っていた。
だから、今のところ麗奈は普通の一般人だと認識するしかないだろう。
魔法よりも、異世界のことよりも、俺のことよりも……もしかしたら、最も理解が難しいのは『麗奈』という存在なのかもしれない――。
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