第十一話 異世界召喚にラブコメが負けるわけないでしょ?
現在、異世界に召喚されかけている。
というか、もう膝まで異世界に顕現していた。このままだと、本当に召喚されることになりそうだ。
「英雄さま。お名前は何というのかしら?」
王冠をかぶったドレス姿の少女――姫と呼ばれている彼女が、話しかけてくる。
俺に興味津々なのか、赤い瞳がキラキラと輝いていた。か、可愛いな……庇護欲がそそられる感じがあった。妹的な魅力のある子だと思う。
でも、だからこそ変なことを言えない。
異世界なんて嫌だ。そう言ったら、この子が悲しそうな顔をする気がした。
「名前は……見上光喜」
「ミツキお兄さま、というのねっ」
おい、初対面なのにお兄さま呼びはやめてもらおうか。
(お兄ちゃんになりたくなってしまうだろ……!)
この子の兄になりたいと思わせないでほしい。
俺は異世界になんて行きたくないのに……くそっ。
「ミツキ。よろしくね、私はヘイム……君のお姉ちゃんだよ」
エルフの魔法使い――ヘイムさんが、姫に悪ノリして変なことを言い出している。
い、妹じゃなくて姉まで……たしかに、この人はお姉さんっぽい感じがする! 甘えたくなる魅力があった。
「むっ。じゃ、じゃあ私は何になる? ……母か?」
「君はペットでいいんじゃないか?」
「セーラが母親は無理があるわ」
「姫様までそんな……酷いことを言わないでくださいっ」
女騎士のセーラさんは、そういう扱いの人なのかな。確かにこの人は堅物そうだが、冗談が通じなさそうなところが逆に面白い気配がする。
な、なんか楽しそうなメンバーだった。この人たちとなら、うまくやれそうな気もしてしまう。
(……あ、もうダメかも)
ふと、足元を見たらすでに足先までこの世界に召喚されていた。
もしかして全身出ているのでは!?
一瞬、焦ったが……しかし右手のひらがまだ出てきていないことに気付いた。手首までは出ているが、それ以降がぴくりとも動かない。
まだ完全に召喚はされていないのだろう。
だが、それは時間の問題だ。
「あ、あの、できれば召喚を中断してもらうことって……」
「……今中断したら右手のひらと指がなくなる。それでもいい?」
いや、ダメです。
大賢者ヘイムさんにそう言われては、どうしようもなかった。
そっか。ここまできたらもう終わりなのか。
麗奈……ごめん。抵抗したけど、やっぱり異世界召喚には抗えなかったよ。
「ミツキお兄さま、これから一緒に魔王を倒しましょうねっ」
屈託のない笑みを向けられて、決意した。
仕方ない。この世界で俺は、この子の兄として生きよう。
そう覚悟を決めて、力強く頷いた。
……そうやって、全てを諦めかけたその時。
「――こらっ。勝手にどこかに行くなんてダメでしょ、光喜くんっ?」
声が響くと同時、右手がガシッと握られた。
「え? この声は、誰?」
「二人目の召喚者か!?」
「……違う。召喚陣は一人しか通れない。だから――あ、まずいかも」
三人は戸惑っている。
しかし、誰よりも動揺しているのは俺だという自信はあった。
「れ、れれれ麗奈!? 別に異世界になんて行くつもりはなかったからな!! こ、これは不本意と言うか、強制というか……!!」
怒られる。これは絶対に、怒られる!
そう思って、慌てて謝ったところ……ぐいっと、手が引っ張られた。
直後、俺の体は再び魔法陣に呑み込まれていった。
「うわぁああああ!?」
別れの挨拶を、する暇もなく。
穴に引きずり込まれるかのように、俺は現世に戻されたのである。
麗奈はジト目で俺を見つめていた。
「……手を繋いだまま添い寝してて良かったかも。おかげで、光喜くんの異変に気付けたもん」
おい。寝る前は添い寝しないって約束だっただろ。
と、いつもなら責めているところだが、彼女が手を握ってくれていたから俺は助かっているのだ。今回ばかりは何も言えなかった。
(危なかった……!)
俺は今、宙づりの状態になって現世に引き戻された。
片手で男子高校生を軽々と持たないでほしい。お前の筋力はどうなっているんだ。
でも……何はともあれ。
とりあえず俺は、異世界に行かずにすんだらしい。
今回もまた、麗奈のおかげである。
なので、ちゃんとお礼を言っておこう。
「あ、ありがとう。助かったよ」
「いえいえ。でも、なんか光喜くんが嬉しそうな感じがするのは、気のせいかなぁ」
ちっ。お礼を伝えて誤魔化そうとしたが、やっぱりダメだった。
麗奈は勘が鋭い。特に俺が嘘をつくとすぐに気づくので、隠し事は不可能である。
だから、今の出来事もすべて説明することにした。
異世界の住人に会ったことを、麗奈にも教えたのである――。
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