第九話 転生フラグの次は――召喚フラグ?
「まぁ、そういうわけで……あなたの幼馴染は、普通の人間でしかないのです。だからこそおかしくて、不思議で、私もどうしていいか分からない状況になっているということですね」
霊道麗奈という存在は、つまり未知数Xなのだろう。
誰も何も分からないが、確実にそこにある存在。それが、麗奈なのだ。
「運命でさえも、どうしていいか分からないようですが……しかし、光喜様が『異世界で英雄になる』ということはまだ確定しているようですよ。恐らく、ここからは手段が変わります」
抱きしめられながら、女神様が何か大事そうなことを言っている。
しかし、あまりにも柔らかいのと、いい匂いがするので、なんだか恥ずかしくなってきた。男子高校生には刺激が強いので、離れたいのだが……女神様の力が思ったより、強い。
というか、この人も結構強引だな。
そういうところも麗奈にちょっとだけ似ている気がした。
これで、関係者じゃないとは思えないのだが……しかし本人が何も分からないと言っているので、そういうものだと思っておこう。
「うふふ。光喜様はやっぱり愛らしいですね……うーん、本来であれば私も異世界でサポートするはずだったのですが、こうして夢のような世界でしかお話しできなくて残念です」
思っていたよりも、俺は女神様に気に入られていた。
先ほどからずっと抱きしめられたままである。頭も撫でまわされていた。男子高校生にそんなことするなんて、卑怯だと思う。
「そ、そそそそうなんだ」
おかげで、まともに呂律が回らなかった。
くっ。こういう時、転生する主人公ならもっと積極的に行動していたのだろう。
しかし俺には無理だった。あと、どうしても麗奈の存在がよぎるので、積極的になれるわけなかった。
俺の幼馴染は嫉妬深い、というわけではない。
独占欲が強い、いわゆるヤンデレタイプではないので、俺が他の女子と話していても全然平気だ。
むしろ、異性だろうと仲の良い友達ができると良かったね、と褒めてくれる優しい子である。
しかし、浮気だけは決して許さない。
もし他の子に手を出せば、俺は麗奈から無視されるだろう。もちろん、物理的に手を出すようなことを彼女はしないが、俺は麗奈に無視されたら普通に泣くので、浮気だけは絶対にしないと心に誓っていた。
だ、だから、麗奈……手を出してないから、これは浮気じゃないよな!?
「大丈夫です。ここで起きた出来事は全て忘れますから」
「それはそれで、少し寂しいけど」
「そう思ってくださるだけで、私は十分です。この空間に来れば記憶も戻りますから……たまにこうやって呼び出した時にイチャイチャできたら、私としては大いに満足です」
現世だと忘れるだけで、今生の別れというわけではないのか。
この空間に戻ってきたら記憶も戻るのなら、良かった。
「……あっ。そろそろ精神の限界も近いですね。このままだと光喜様の精神が壊れるので、現実に帰してあげないと」
「壊れるんだ……」
思っていたよりもリスクが重かった。
長居はできない、ということらしい。
と、いうことなので。
「それでは、さようなら。光喜様、またお会いしましょうね」
女神様が、俺を解放した。
それと同時に、ふわっという浮遊感を覚えた。地に足がついていない。どこかに飛んでいくような感覚である。
女神様も、ぼんやりと輪郭がおぼろげになっていく。
彼女が消えた時にはもう、俺は現実世界に戻っているのだろう。
と、思ったところで。
「あらあら。まずいです、イチャイチャしすぎて重要なことを伝えることを忘れていました」
「え!? そ、それはまずすぎるだろ!」
女神様が最大のミスを犯していた。
は、早く言って! もう俺が現実に戻っちゃうから!!
「光喜様。運命はあなたを殺すことを諦めましたが、異世界で英雄にすることはなおも決まったままです。つまり、今度はあなたを異世界に連れていくための勢力が現実に――」
言葉は、残念ながら途中で途切れた。
でも、なんとなく内容は分かった気がした。
(異世界に連れていくための勢力ってことは……異世界から誰か来るってことか? 死なずに異世界に行くって、つまり……『召喚』ってやつか?)
たぶん、そういうことだと思う
これは有益な情報だ。でも、うん。
(どうせ忘れるから、意味はないのか)
このことも、起きた時には忘れているだろう。
そう考えると、あれだった。女神様との会話は本当に意味がないというか……女神様がただ俺とオシャベリしたいだけの時間だった。
まぁいいや。
とりあえず、後のことは後の俺に任せればいい。
そうやって結論が出た時にはもう――目が覚めていた。
「……ん? あ、ちょっ。なにこれ!?」
寝起き直後。
ふと気づいたら、体が布団に沈んでいた。
ただし、柔らかい布団に体が沈んでいただけじゃない。
体が丸ごと、布団に吸い込まれるように徐々に沈んでいたのである。
しかも、周囲には何やら魔法陣みたいなものが光っていた。
これは、もしかして『召喚』か――!?
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