表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/74

プロローグ 転生<<<<<ラブコメ

 ――目を開けると、そこは真っ白い空間だった。


「え? ここって……」


 上下左右、どこを見ても白。

 境界線も距離感もないこの空間は異質そのもので、明らかに現実ではない。


 そして、目の前にはとんでもない美女がいた。


「初めまして、見上光喜様。お待ちしていましたよ」


 美しく輝く銀髪。全てを見透かしているような金色の瞳。透き通るように白い肌。そして、均整の取れたスタイル。すべてが美しすぎるあまり、人間味を感じない。


 もしかして、彼女は――


「女神様、か?」


「あら。お察しがいいですね……はい、女神レイナールと申します」


 女神。そして、真っ白い空間ときた。

 あ、これは知ってるやつだ。


「もしかして……異世界転生!?」


 テンプレすぎるにもほどがある。

 異世界ファンタジーは好きだったので、すぐに気づいた。


「うふふ。その通りです、本当にお察しがいいですね」


「そ、そっか。俺、転生しちゃうんだ……」


「はい。運命の書によると、あなたは異世界で魔王を倒して英雄になるそうですよ。転生者に付与されるスキルもあるみたいなので、それを駆使して頑張ってくださいね」


「分かった! 俺に任せてくれ」


 正直に言うと、ワクワクしていた。

 だって、異世界転生が嫌いな男の子なんていない。

 誰だって一度はファンタジー世界で無双する妄想をしたことがあるはずだ。少なくとも俺はよくしていたし、異世界系の作品も大好きで、たくさん楽しんでいたくらいである。


 だから、今すぐにでも行きたくてうずうずしていた。


「話が早くて何よりです。それでは、この扉を通ってください」


 女神様も、俺の興奮を感じ取っているのかもしれない。

 優しく微笑んで、手を上品に叩くと目の前に大きな扉が現れた。


 ここを通れば、俺は異世界に転生できるらしい。


(あれ? 俺、なんで転生することになったんだろう? そういえば、現世ではどうやって……)


 一瞬、何かを思い出しかける。


(あの子のことは、どうすれば――って、痛っ!?)


 しかし、その瞬間に頭にもやがかかって、急に頭が痛くなった。


(……まぁいいか! とりあえず、転生してから考えればいい)


 そう思って、意気揚々と扉を開いた。

 そして見えたのは、異世界の景色。場所は森だろうか……目の前には大きなドラゴンがいた。しかも、ドラゴンは戦闘中で三人の女性と対峙している。それだけでも興奮するのだが、ドラゴンの凶悪さや、戦っている人物がエルフや女騎士みたいな容姿で、そのことにもときめいた。


 あそこは本当に、違う世界――ファンタジーなんだ!

 そう、強く実感した。


 さて、扉を抜けたらまずは何をしよう。最初はスキルの確認からだな。

 たぶん、魔王を倒す運命だというくらいだから、もらえる能力はチートで間違いない。それでサクッとドラゴンを倒して、冒険者ギルドに行って――


『……せない』


 ん? 何か、声が聞こえたような。


『……行かせない! 異世界になんて、行かせないからね!?』


 間違いない。声が聞こえる。

 空間に響いた声は、幼いころからずっと聞いていた声で……どうして今まで思い出さなかったのか不思議なくらいに、大好きなあの子の声だった。


「あら? おかしいですね、この世界に干渉できるはずないのですが」


 女神様は不思議そうな顔をして虚空を見つめている。

 どうやら、声は俺だけではなく、女神様にも聞こえているみたいだ。


「光喜様。お気になさらず、お行きください。大好きな異世界ファンタジーが、あなたを待っていますよ」


「う、うん。そうなんだけど……」


 足は、止まっている。

 あと一歩前に進めば、俺は夢に見ていた異世界に行ける。

 だが、声を聞いて急に動けなくなった。


 その直後である。


『わたしの大好きな光喜くんを、異世界になんて渡さない!』


 ひときわ大きな叫びと同時。

 ドンッ!と大きな音が響いて、真っ白い空間に大きな亀裂が入った。


「これは……どういうことでしょうか」


 女神様も動揺している。

 異常事態のようで、亀裂を見て呆然としていた。


「なぜ、ただの人間が神の創造した空間に亀裂を――」


『光喜くん、危ないから行ったらダメだよ!』


 ドンッ!

 さらに大きな音が響く。そして、亀裂の隙間から人間の手が伸びてきて、俺の体をガシッと掴んだ。


「光喜様!? まずいです、あなたは異世界に行く運命で――」


『ダメ! 光喜くんはわたしが幸せにしてあげるんだから、異世界になんて行かせないからね!?』


 そして現れたのは――女神様によく似た、銀髪の少女。

 しかし女神様よりは幼く、スタイルも細い。子供の頃の女神様、のような見た目で……俺が世界で一番かわいいと思うあの子だった。


「麗奈?」


 麗奈……彼女は、霊道麗奈だ。

 なんで今まで忘れていたんだろう。誰よりも大切に思っている、この子の存在を。


「ふぅ……意外と、殴ればなんとかなるものだよね」


「お前の拳はどうなってるんだ」


 ボクシングジムの一人娘と言えども、さすがに異常すぎる。

 でも麗奈って天才らしいからなぁ。殴り合いは可愛くない、とかいうふざけた理由でボクシングはやめているけど。


「あ! で、でででもほら! 怪我しちゃった♡ わたし、かよわい乙女だなぁ」


「かすり傷だけどな」


 空間を殴って壊す、という概念がそもそも分からない。

 一応、硬さはあったのだろう。麗奈の拳には申し訳程度の小さな傷がついていた。


「とにかく、良かった。間に合った……今日は学校だから、そろそろ起きないと遅刻しちゃうもん」


「いや、でも異世界が……」


「異世界なんて行ったら危ないよ? 剣と魔法で戦ったりするのって、すごく怖いと思うの。怪我だってするかもしれない! 光喜くんは痛いの苦手だよね?」


 た、たしかにそうだけどっ。

 しかし、ファンタジーなら怪我くらい当たり前で……いや、まぁ痛いのは嫌か。


「大丈夫! 異世界に行くよりもわたしが幸せにしてあげるから」


 麗奈はニッコリと笑って、俺を抱っこした。いわゆるお姫様抱っこの状態で、亀裂の方に向かっている。


「これはこれは……どうしましょうか。変な展開になってしまいました」


 そんな俺たちを見て、女神様は困り果てていた。

 眉の根を下げて、むむむと唸っている。だが、こちらに手を出そうとはせず、ただただ見守っていた。


「光喜くん、ここを通り抜けたら現実に戻れるからね」


「い、いいのか? 異世界に行く流れだと思ってたんだけど」


「異世界……行きたいの?」


「まぁ、行けるなら行きたいとは思ってるけど」


「でも、わたしとラブコメした方が絶対に楽しいよ? ほら、こんなにかわいて綺麗でおっぱいが大きくて性格も良い上に、光喜くんのことが大好きな女の子なんて、わたし以外にいないと思うけど」


「――たしかに!」


 自分で自分を褒めまくっているところが少し気になるが。

 それでも、麗奈以上の美女なんてどこにも存在しない。


 女神様ですら同格だ。というか、二人の顔が似すぎてほとんど同じなので、比較なんてできないのだが。


「そういうわけだから……帰ろっか。異世界が好きなのはわかるけど、今日は数学のテストがあるんだから、ちょっと早めに登校して復習しないとね」


 まるで、公園で駄々をこねている子供をあやすかのように。

 俺を抱きかかえた麗奈は、当たり前のような顔をして亀裂に入っていく。


「ああっ。行っちゃいますよ、英雄が……どうしましょうか? うぅ、どうしたらいいんですかぁ」


 女神様は後ろであわあわするばかりで、何もできないようだ。

 なんか気まずいので「バイバイ」と軽く手を振った瞬間、麗奈と俺の足元がなくなった。


 数秒、まるでジェットコースターに乗っている時のような浮遊感が続いた後。





 そして俺は――目が覚めた。





「あ、起きたの? おはよう、光喜くん」


 まず見えたのは、神々しい金色の瞳。

 そして、眉毛付近でまっすぐ切り揃えられた、ぱっつんの銀髪である。


 幼馴染の霊道麗奈が、今日も俺の寝顔を眺めてニコニコと笑っていた。

 うーん。やっぱりこいつって、女神様に似ているようなぁ。


 って、そうだ。女神様はどうなった!?


「……麗奈! 俺たち、白い空間にいたよな!?」


「え? 何それ、知らないけど」


「知らない? えっと、あれ……?」


 麗奈はきょとんとしている。

 知らないふりをしているわけではなく、俺が何を言っているのか本当に分からないと言わんばかりに、目をぱちくりとしていた。


「変な夢でも見たんじゃないの?」


「夢……あー、夢か」


 たしかに、夢と言われてみればそうか。


 何の脈絡もなくいきなり白い空間に立っていて、女神様から異世界に転生する運命だと言われた。

 だけど、いきなり幼馴染が空間に侵入してきて、強引に連れ帰されたのである。


 まさしく夢みたいな出来事だったのだから、そう考えるのが自然である。


 しかし、それにしても……生々しいというか、鮮明に覚えているんだよなぁ。

 まるで、先ほど本当に経験したかのような気がしていた。


「ほら、変なこと言ってないでそろそろ起きて! 今日は数学の小テストがあるんだから、早めに登校して復習しないとね」


 そう言って、彼女は俺の布団を引き剥がす。

 もうすっかり眠気もなくなっていたので……俺はゆっくりと体を起こした。


 さぁ、今日もまたいつもの日常が始まる。

 血沸き肉躍るような、異世界ファンタジーではない。


 もう十年以上も続けている、かわいすぎる幼馴染との日常ラブコメが始まろうとしていた。


 でも……今日は少しだけ違和感があった。


「お布団、畳んじゃうね」


「あ、うん。ありがとう」


 そう言って、俺の布団に手をかけた麗奈の拳には……小さなかすり傷があった。

 あの真っ白い空間を壊した際に、彼女は拳をケガしていたはず。


「麗奈? その傷って、なんで……」


「傷? え、傷って……あらら、本当だ。寝ている時にどこかに打ったのかなぁ」


 だが、そのことを聞いても麗奈は首をかしげるだけだった。

 幼馴染だから、分かる。彼女は嘘をついていない。


 しかし、何かがほんの少しだけいつもと違う。

 そんな気がした――


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

「面白かった!」と思っていただけたら、ぜひ感想コメントを残してもらえると嬉しいです!

『ブックマーク』や下の評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると、次の更新のモチベーションになります。

これからもよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ