二人きりの時間
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
また、本日の12時に短編の物語を投稿します。
それも、読んでいただけると幸いです。
陽が傾きかけた放課後の教室。
祭りのような賑やかさはすっかり消え、夕焼け色が窓から差し込んでいる。
ほとんどのクラスメイトは帰ったり、部活に行ったりと、教室にはもうほとんど人はいない。
湊はカバンをまとめながら、窓際に視線を向ける。
「……何してるの、橘さん」
窓際の席に、橘さんが座っていた。
橘さんは、帰りのHRを終えてからずっと、静かに空を見ていた。
「うん。ちょっと風、気持ちよかったから」
そう言って、彼女は鞄の上に頭をのせたまま、振り返らない。
「……疲れた?」
「それなりに。でも楽しかったよ。……今日は、ありがと」
「何回言うの、それ」
「言いたい気分なんだもん」
湊は少し笑って、前の席に腰を下ろした。
ふたりきりの教室。
運動部の掛け声や吹奏楽部の音楽が遠くに聞こえる。
「……未来、今日は全然見なかった」
「俺も。見ようと思わなかった」
「そうなんだ」
短い会話。でも、それで充分だった。
未来がどうなるか、今日は考えなかった。
ただ、目の前の出来事と、隣にいる誰かのことを見ていた。
「未来が視えない人と話すと、ちょっと緊張するんだよね、私」
「どうして?」
「“これから何言われるか分からない”って、地味に怖くない?」
「じゃあ逆に、“何言っても意味ある”って思えたりしない?」
橘さんが、はっとした顔で湊を見た。
「未来が視えてたら、その言葉がどこに繋がるか分かる。でも、視えないなら、言葉ひとつで未来が変わるかもしれない。……俺はその方が好き」
「……へぇ」
橘さんは、少しだけうつむいて、くすっと笑った。
「春野くんってさ、けっこうずるいよね」
「どこが?」
「そういうこと、ふつうに言えるとこ」
「思っただけだよ。橘さんが未来視をちょっと嫌ってる理由、なんかわかった気がしたから」
夕日が窓を染めていた。
橘さんの頬が、赤くなっているようにも見えたのは、それだけのせいじゃないかもしれない。
「……あのさ、春野くん」
「うん?」
「もうちょっとだけ、話してもいい?」
「もちろん」
未来は、まだ視えない。
でもそれが、今は少しだけ、うれしかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
また、改善点なども指摘していただけると嬉しいです。