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見てたから

読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。



 ——体育祭当日。

 夏を思わせる日差しの中、グラウンドでは応援の声と笛の音が飛び交っていた。

 陽が昇るにつれて、グラウンドの熱気はどんどん増していく。


 午後一発目の競技は、クラス対抗の借り物競走だった。


 白線に沿って用意されたくじ箱から紙を引き、そこに書かれた「借り物」を持ってゴールを目指す。

 運と瞬発力、そしてちょっとした人間関係が試される競技だ。


(あ、橘さんだ……)


 どうやら、橘さんは借り物競争に出ていたらしい。

 男女で別れて出る種目を決めたため、知らなかった。


 彼女がくじを引いて紙を開いた瞬間、ぴたりと動きが止まる。


 やがて、ほんの少しだけ顔が赤くなって、紙を握りしめたままグラウンドを見渡し始めた。


(ん?)


 その視線が、ふとこちらに向く。

 ほんの一瞬だけ視線が合い——橘さんが、迷うような表情で歩いてくる。


「……えっと」


「借り物、俺?」


 湊が冗談めかして言うと、橘さんは驚いた顔で目を見開いた。


「……どうしてわかったの?」


「いや、来る方向的に? あと、顔赤いけど、何書いてんの?」


「……『好きな人』って書いてあったの」


 その一言で、湊の心臓が一瞬止まりかけた。

 でもすぐに、橘さんが慌てて続ける。


「別に、春野くんがそうって意味じゃなくて、たまたま……その、知ってる人で、借りやすいっていうか」


「あー、うんうん、わかる。俺、借りられやすいタイプってよく言われるし」


「ふふ、そんなの初めて聞いたけど」


 どこか和んだ空気になって、ふたりで走り出そうとしたそのときだった。


「あ」

「危ないっ!」


 橘さんの足がもつれてバランスを崩す。


「っ……!」


 湊はすかさず橘さんの手を掴み、体を引き寄せる。


「大丈夫!?橘さん?」


「うん……って、今、未来視使ったの?」


「使ってないし、そもそも橘さんの未来は見えないから」

「あ、そっか。……なら、なんで?」

「なんで分かったのかって……ちゃんと橘さんを見てたから、かな?」

「……」

「……」


 自分でも歯が浮くようなことを言ってしまったのだが、橘さんは何も反応しない。

 茶化すでも、笑うでもない。

 ただ反応がない。

 一体どうしたのか、橘さんの方を見ると橘さんの顔はこっちに向いていない。


「……ん?橘さん?」


 橘さんに何かあったのか、気になり声をかける。


「ううん。なんでもない。早く行こ!」


 橘さんはそっぽを向きながらも、さっきよりほんの少しだけ近い距離で並んで走り出す。

 未来は視えないけれど、今、この時間だけはしっかりと息が合っていた。



最後まで読んでいただきありがとうございました。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

また、改善点なども指摘していただけると、嬉しいです。



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