変わってきた
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皆様、こんな稚拙な作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。
また、これからも読んでいただけると幸いです。
どうか、よろしくお願いいたします。
次の日の放課後。
俺は下駄箱で靴を履きながら、ふと昨日のことを思い出していた。
橘さんが未来を見て、さりげなく誰かを助ける。
あれは、他人から見たらただの“偶然”にしか見えなかった。けれど、俺にはわかった。
未来視で誰かを救っても、何も言われないし、感謝すらされないことだってある。
それでも、橘さんは迷わず動いていた。
(……ああいうの、ずっと繰り返してきたんだろうな)
正直、俺には真似できない。
未来は知りたいけど、それを“変えよう”とまでは思わない。
でも、彼女は違う。知ったうえで、動くことを選んでる。
——じゃあ、俺にできることってなんだろう。
そんなことを考えながら校門を出ると、ちょうど前を歩いていた橘さんの姿が見えた。
少しだけ早足で追いつく。
「橘さん」
名前を呼ぶと、橘さんは振り返った。
ちょっと驚いたような目だったけれど、すぐに表情を緩めた。
「……春野くん。どうしたの?」
「いや、たまたま帰り道が一緒かなって」
「そっか。じゃあ、ちょっと歩く?」
その言葉に、俺はうなずいた。
数分、他愛ない話を交わしながら並んで歩いていたけれど、言いたいことが胸に引っかかっていた。
そして、信号待ちのタイミングで、俺は口を開いた。
「昨日、見てた。あの事故、助けたやつ」
「……」
橘さんはほんの少しだけ目を見開いて、それから目をそらした。
「そっか。……見られてたんだね」
「ありがとうとか、偉いとか言うつもりはないよ。ただ、すごいと思った」
言葉を選びながら、俺は続けた。
「俺だったら、たぶん……あえて見ないふりしてたかも。見えるくせに」
「……私も、ほんとは見たくなかったよ」
橘さんがぽつりとつぶやいた。
「見たくないけど、見えちゃうんだ。未来って。で、見えたら……もう、知らないふりできないじゃん」
彼女の声は、少しだけ震えていた。
「だからね。春野くんのそういうところ、ちょっとうらやましいかも」
「え?」
「“見ない”って選べるの、いいなって。ちゃんと距離を取れるっていうか」
——距離を、取る。
それは、橘さんにとって“未来”との距離だけじゃなく、“人”との距離でもあるのかもしれない。
「でも、俺……最近ちょっと変わってきた」
「変わった?」
「橘さんの未来だけ、見えないから。だから、自分で考えて動くしかなくて。……なんか、それが、けっこう楽しいんだよね」
橘さんは、目を丸くして俺を見た。
そして、ゆっくりと小さく笑った。
「……そっか。じゃあ、もうちょっとだけ一緒に歩いてく?」
「もちろん」
並んで歩く道。
その先の未来は、どちらにも見えていない。
でも——それが悪くないと思えるようになってきた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
また、改善点なども指摘していただけると、嬉しいです。




