愛おしい
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
電車を降りて歩くこと数分。昔ながらのアーケード街がふたりを迎えた。
提灯がぶら下がった細い通りには、どこか懐かしい匂いが漂っていて。
焼きそば、たい焼き、たこ焼き、ラムネの瓶が陽にきらめく。
未来のことなんか、どうでもよくなるような空気だった。
「すごい、こんなとこ初めて」
詩の目が、いつもよりもぱっと開いている。
その横顔が無防備に浮かべた笑みを見て、
俺の鼓動が少しだけ速くなった。
「どれか食べたいのある?」
「ぜんぶ!」
そう言って笑ったときの彼女は、ほんの少しだけ、
“未来”を忘れているように見えた。
――それが、うれしかった。
まずはたこ焼き。
アツアツを口に入れて「熱っ」と目をまるくする詩に、思わず笑ってしまう。
そのあと、駄菓子屋を冷やかして、ラムネをふたつ買った。瓶を傾けながら、詩が言う。
「今日だけは……未来視、ほんとに封印しといてよ?」
「うん、誓う。全部、今起きることを楽しむって決めたから」
「そっか」
詩は、ラムネのビー玉をじっと見つめたあと、ふと顔を上げて言った。
「なんかね、久しぶりに“未来じゃなくて今”を感じてるかも」
「それって、俺の誘いが正解だったってこと?」
「……うん、かもね」
そのときの笑顔は、驚くほど柔らかくて、きらきらしていて。
これまでのどの“視た未来”よりも、胸に刺さった。
――俺、今、すごく惹かれてる。
そう気づいたとき、目の前にくじ引き屋があった。
「やってみる?」
「どうせティッシュでしょ~?」
「やってみなきゃ分からないって」
詩が笑いながら引いたくじは――まさかの二等。
「え、うそ」
「すご。ティッシュじゃなかったな」
渡されたのは、くまのぬいぐるみのキーホルダー。
「……かわいい」
キーホルダーを手で包み込んで、包み込んだ手を胸に当ててほほ笑む詩。
「……!」
初めてだ。
初めて、未来じゃなく、“この瞬間”が愛おしいと心から思った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
また、改善点なども指摘していただけると、嬉しいです。