詩
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
夕日が沈みきる前の教室。
誰もいなくなったその空間は、静かなだけでなく、どこか柔らかかった。
机に寄りかかりながら、俺は何気なく言った。
「……ねえ、橘さんってさ」
「ん?」
「呼ばれ方、なんかこだわりある?」
詩は目を瞬かせて、ちょっと考えるように口元に手を当てた。
「どうだろ。中学までは下の名前で呼ばれてたし、高校では苗字ばっかだし……別に、どっちでもいいかな」
「そっか」
「でも、春野くんには……好きに呼ばれてもいいかも」
「ほんと?」
「うん」
じゃあ、と俺は少しだけ間を置いてから、探るように言った。
「詩さん、とか?」
「……ふふっ、それ、逆に他人行儀じゃない?」
「じゃあ……詩」
名前を呼んだ瞬間、彼女がほんの少しだけ、目をそらした。
でもすぐに、照れたような、それでも受け入れるような笑顔を見せた。
「うん。それでいいよ」
胸の奥が、ふわっと熱くなった気がした。
たった一言で、たった一歩で、こんなに世界の距離って変わるんだ。
「じゃあ……俺のことも、湊で」
「え?」
「苗字だけ呼ばれるの、実はちょっと寂しかったんだよね」
「そうだったんだ。じゃあ……湊くん?」
今度は俺が、少しだけ照れる番だった。
誰かの名前を呼ぶことが、こんなにも意味を持つことだなんて。
未来視では、決してわからなかった感情だった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
また、改善点なども指摘していただけると、嬉しいです。




