嫌いな理由
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
「……未来視って、私、小さい頃から使えたんだ」
橘さんがぽつりと呟く。
それは今まで誰にも話してこなかった秘密みたいな響きだった。
湊は言葉を挟まず、ただうなずいて耳を傾ける。
「最初はね、ただの偶然かと思ってた。“この人、今から転ぶ”とか、“お母さんが電話してくる”とか……でも当たる回数が多すぎて、気づいたの」
「自分には、未来が見えてるって?」
「うん。でもさ……当たれば当たるほど、つまらなくなってった」
橘さんの声が、少しだけ細くなる。
「誰かと喋ってても、『ああ、この会話、次に何言うか分かるな』って思うと、冷めるの。映画も、テストの結果も、ぜんぶ。……先がわかると、驚きとか、感動って減るんだよね」
「……」
「でも、一回だけ。未来視を使って、本当に“よかった”って思ったことがある」
湊は、軽く目を見開いた。
橘さんは、まっすぐに空を見たまま話し続ける。
「中学の時。友達と一緒に帰ってて、ふと未来が視えたの。数分後、信号無視の車が来て、その子がはねられる未来」
「……!」
「私は反射的にその子を引っ張った。未来は変わった。何も起きなかった。でも……そのあと、その子に“どうしてわかったの?”って聞かれて、答えられなかった」
言葉を詰まらせる橘さん。
湊は、何も言わずにただ静かに聞いていた。
「それ以来、未来視は“使えるけど使いたくない”って思うようになったの。助けたい。でも、知られたくない。感謝されても、距離ができる。……複雑で、苦しくて、うんざりすることもある」
そこで、橘さんがようやく湊を見た。
「……ねえ、春野くんは、どうして楽しそうなの?」
まっすぐな問いだった。
どこか投げやりで、でもずっと胸にしまっていた感情が混じっている。
湊は、少しだけ考えてから言った。
「俺、たぶんね……“未来を知ること”じゃなくて、“そこに辿り着くまで”が好きなんだと思う」
「辿り着くまで?」
「たとえば“橘さんと仲良くなる未来”が見えたとするじゃん?
でも、そのとき“どうやって仲良くなったか”は見えないんだよね。俺はそこが楽しいんだ。
驚きもあるし、選べるし、寄り道もできる。“決まってるのに自由”って、なんか面白くない?」
橘さんは、ぽかんとした顔で聞いていた。
やがて、ふっと小さく笑う。
「……やっぱり、ちょっと変だよ、春野くん」
「変だって、褒め言葉?」
「うん。……たぶんね」
夕焼けが、ふたりの影を長く伸ばしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
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