第14話 初仕事
藤原が中村を呼び出したのは、夕方の少し静かな時間だった。中村が到着し、椅子に腰をかけると藤原は無造作に書類を机に置いた。
「中村、初仕事だ」
突然の言葉に、彼女は驚いて顔を上げる。
「初仕事って……」
中村は目を丸くしながら、机の上の書類に視線を落とした。
「本部から新しいクライアントの情報が来た。俺が外商として回っている顧客だ。明日俺が直接交渉に行く」
藤原の声はいつもと同じ落ち着いたトーンだったが、その言葉には確かな緊張感がこもっていた。
「交渉って、シェアリングボディの依頼者のことですよね?」
中村は少し身を乗り出す。
「そうだ。シェアリングボディの依頼を受けるかどうかを、クライアントに直接確認するんだ。相手の事情や条件をしっかり聞いた上で、前向きな返事をもらうことが目的だ」
「なるほど……先輩が行くんですね?」
中村は少しホッとしたように微笑む。
「当然だ。俺なら外商の仕事として向かえるから自然に話をすることができる。ただし、今回はお前にも重要な役割がある」
「えっ、私に?」
予想外の展開に中村の目が再び大きくなる。
藤原は腕を組み、彼女を真剣に見つめる。
「もしクライアントから前向きな回答が得られたら、その次は体の提供者候補との交渉が必要になる。その役目をお前に任せる」
「え……私が、提供者候補と?」
中村は驚きの声を上げると同時に、少し不安そうな表情を浮かべた。
「そうだ。お前も体を提供した経験があるから、候補者の立場や不安がわかるはずだ。お前なら適切に交渉できると思う」
「でも……私、本当にそれができるんでしょうか?」
中村は視線を落とし、机の端を軽く指でなぞるような仕草を見せた。
藤原は腕を組み、彼女を真剣に見つめる。
「確かに簡単な仕事じゃない。だが、お前にはこの仕事を通じて成長する必要がある。俺がついているから、心配するな」
その言葉に、中村は少しずつ顔を上げる。藤原の目には迷いのない信念が宿っていた。
「……わかりました!私、頑張ります!」
勢いよく答えた彼女に、藤原は軽くうなずいた。
「それと……明日、お前も同行するか?」
中村はその言葉に目を輝かせる。
「本当ですか?もちろん同行させていただきます!」
こうして翌日、藤原と中村はクライアントとの交渉に向かうこととなった。
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