「第88話」さきの疑問
月曜の朝、慌ただしく食事の準備をするさきと母。
母「ひさお。そろそろ起きなさい。」
ひさお「んー。何時?」
さき「7時半よ。」
ひさお「えっ?時間ないじゃない。何で起こしてくれないの!」
さき「いつも、勝手に起きてるじゃないの!私と出会う前はどうしてたのよ。お母さんいると甘えん坊さんなのね。」
母「ひさお。昼は私作るから、帰って来て食べなさい。さきさんはどうするの?」
さき「ちょっと不規則な2週間だし、人も少なそうだから、2週間だけは贅沢して学食で食べようと。弁当は食中毒が怖いからゴールデンウィーク明けからはやめました。」
母「ゴールデンウィーク明けからはどうしてたのさ?」
さき「仲間6人で毎日ここで食べてました。お母さんくるから、人数多いと迷惑だし。。」
母「何の気を遣ってるの。みんな呼べばいいじゃない。」
さき「そうね。今日聞いて来る。あっ、だけど昼食はみゆと彼が担当なの。」
母「まあ、聞いてきて、明日からは決めたらいいわ。」
テーブルにつくとひさおは食べようとする。
母「ひさお。あなた、離れてるとは言ってもダメよ。お祈り。さきさんは手合わせていればいいから。」
ひさお「愛する天の神様。今日も家族と共に食事を頂ける恵みを感謝致します。さきと母の体調が守られ幸せな1日となりますように。世界で多くの苦しみを受けている方々をどうかお救い下さり、平和な世界になりますように。これらを祈り願いイエス様のお名前によりお祈りします。アーメン。」
母「アーメン。頂きます。ひさお、まあまあいいお祈りじゃない。」
さきは、不思議な感覚で感動してしまった。
母「さきさんも、食べてね。」
さき「あ、はい。」
ひさお「美味しいな。」
母「おかわりは?」
ひさお「何かこの先太りそうだから、やめておくよ。じゃあ、行ってきます。昼は12時くらいに戻るよ。ああ、母さん。合鍵ね。」
ひさおが出かけて行き、片付けをする2人。
母「どうしたの?考えこんで。」
さき「イエス様のお名前によりって、どういうことかなって。」
母「ああ、さきさん。イエス様は何?」
さき「2000年前に生きてた人です。」
母「そうね。お母さんは?」
さき「マリア。」
母「そうね。マリア様が処女で身籠った。と言うのは普通に生きてたら納得するのは難しいかもしれないわね。実際は見てないから分からないし、比喩的な表現なのかもしれないわね。でも、当時マリアは婚約中の身。ある日突然、あなたは身籠ったって言われる。今より厳しい時代よ。結婚前に身籠ったら生きるのは辛いわ。旦那さんの気持ちは複雑よね。今の教会でも結婚前はダメなのよ。アメリカ人が守っているの?とか考えてはいけないわよ。そんな状況で産まれたイエス。イエスは人だけど人じゃない。神が人間となって現れ、人々の身代わりになって命を落とした。難しいわよね?」
さき「いえ、知りたかったことが、ちょっとだけ分かるように。。けど分からないことがあまりに多くて。」
母「ちょっと経ったら、教会に来る?私の教会の牧師先生は、日本語だけじゃなく英語や、ギリシャ語でも聖書学んだ人だから、さきさんには向いた先生かもしれないわね。日本語版では伝わらない部分はあるらしいの。私はそこまで詳しくないけど、10進数じゃない12進数の時代とか、数字に意味ある部分も分かるわ。さきさん。イエスが傷めつけられながら十字架に向かう途中で、お母さんに会った時に何て言った?」
さき「えーーと。。ああ。そこの女。ね。」
母「そうね。あそこは母親なら複雑よね。いい?あの時は、もう神になっているの。もう、お母さんじゃないのよ?複雑。ずっと。。私はね。婚約者がいるのに突然妊娠して、命懸けで産んだ子供なのよ。それが、そこの女よ。。切ないような。。難しいわね。いろんな目線で福音書に弟子達が書いてあるから。。。」
インターホンが鳴る。
さき「あっ、忘れてた。みゆ。お母さん行ってきます。みゆは帰ってきたら挨拶とかしますね。」
母「分かったよ。気をつけてね。」
みゆ「おはよう。ねえ、お母さんは?」
さき「いるよ。昨日無事に来たよ。今日帰り大丈夫だから。みゆの夕食だからって。彼も来るかもって伝えた。あと、明日からみんな昼は家で食べたらって。」
みゆ「みんなに聞きましょう。」
テストはどうやら全員ほとんど回答出来たようだ。確認したところ、みゆ達の味を知ってしまった仲間は選択肢は無いようなもので、明日からはさきの家で食事することになった。
※※※
昼休み、ひさおは昼食に戻る。久しぶりの親子2人だけの食事だ。母がお祈りすると食事を食べる。
母「ひさお。さきさん、聖書が気になるみたいね。学びたい気持ちが強いみたい。あの子、救われるかもしれないわね。でも強制するつもりはないから、さきさんが聞いたら分かることは教えてあげなさい。」
ひさお「ずっと愛を知らないで生きてきたから、知らない世界なのかな。僕達の当たり前は、さきには当たり前じゃない。聖書は頭に入るだけでは理解は出来ないからな。世の中生きていくのに無理な考えは信仰あったとしても守れない。それに結婚前にさきと関係持ったのは事実。でも、間違いだとは思えない。目の前で自ら命を絶とうとしている人間を救うためにしたことは罪だとは思えない。これが罪と言うなら、僕は信仰やめるよ。」
母「あの、厳しいお父さんが言わないのよ?正しいことなの。それは私も同じ。こんなこと言うと怒られるけど、教会だって組織よ。愛してるなら好きにしたらいいって教えたら、成り立たなくなるでしょう?まあ、たぶん。そういうことよ。少なくとも私はあなたは正しいことをしたと思ってる。」
ひさお「正月帰れなかったの、さきを紹介するのがやましい気持ちあった。出会ってすぐプロポーズの準備はした。けど、プロポーズは卒業してからと決めてたから、どう紹介したらいいか分からなかったし。」
母「大した問題じゃないわ。あのね?あんな子、ひさおと普通だったら愛し合う人になる?神様が与えたとしか思えない。彼女があきらめた最後の最後にあなたが救って、あなたも彼女に救われた。偶然のはずがないでしょう?必然よ。さきさんもそれを感じるから聖書が気になるのだと思う。まあ、あなた達は信仰が幸せの一部になればいいと思う。信仰が一番とか、先生は言うけど、結局はみんなが教会に来てくれないと先生達、生きていけないでしょう?」
ひさお「母さん。信仰深いのに、そんなこと言うの。意外だな。。」
母「あのね?私だって、世の中で生きているからね。信仰だけで無理なこともあるのはあなた以上に経験済みよ。そういうことは教会では言わないけどね。でも、神様はいる。それを信じているならいいと思うの。」
ひさお「母さん。さきの親のこと調べようと思うんだ。」
母「んー。あなたが決めることだけど、私はさきさんから聞いたことだけでいいと思う。何か新しい事実が分かって、あなたはどうするの?さきさんを幸せにする何かが得られるの?あなたが、罪を裁くの?あなた達に何が残るの?親が改心するの?見捨てた事実は消えない。あの子の心を再び掻き回すのは、してはいけない。愛する人間はしてはいけない。あなたはさきさんをただ愛することよ。昨日、さきさんが私に抱きついて泣いたの分かる?親という存在を初めて感じたの。私、伝わったわ。すぐに安心して寝ちゃった。まるで、ひさおの小さい時みたいだった。私、やっとさきさんの母になれた気がした。だから、とても幸せだったわ。」
ひさお「母さんには勝てないな。。そうだな。きっと何かを知ってしまったら、罰を与えるだろうね。僕が人を裁いてはいけないな。」
母「私は、あまりにあの子が頭が良すぎるのが心配よ。あなたの愛がすごく大切に感じた。だから。。心配ね。」
ひさお「それはずいぶん悩んだけど、今は、僕はあまり心配してないんだ。今日もみゆさん来るんでしょう?僕は仲間達の素晴らしさを見て、僕がいなくなっても、彼女達が支えてくれるって感じた。だからプロポーズ抵抗無かった。それに、僕がいなくなっても、さきはまだ若い。女の幸せをまた見つけられるさ。」
母「馬鹿ね。私、あなたの親よ?あなたよりいい男がいるわけがないでしょう!あなたは1日でも長生きしなければならないのよ。愛する責任よ。運命は決まっているけど、分からない。だから一生懸命生きるんでしょう?仕事戻らないで大丈夫?」
ひさお「ああ、もう1時間以上経ったるじゃないか。。外回りしてきたことにするか。まあ、営業は融通効くからね。」
母「今日聞いた中では一番の罪ね。気をつけてね。」
ひさおは会社に戻ると、母親との会話を思い出す。
ひさおは探偵事務所に依頼の取り消しの連絡をして、部下の指導に普段以上に力を入れた。
夕方、社長から呼び出しがあり、急いで社長室に行く。
社長「お前さー。今月から取締役になったんだから、こちらの席も使えよ。なんのために改装したんだ。1人ぼっちはさみしいだろう。」
ひさお「まあ、社外取締役ばかりで、東京から移転したら、お見えになる回数も減りますよね。でも、後輩の指導しないと後継が。」
社長「後継?」
ひさお「はい。私の考えでは新人を育てて後継にしたいです。彼は期待出来ると思っています。まあ、彼に能力があることはさきが教えてくれたんですけど。彼を早期に課長まで上がるように実力をつけたいのです。課長の定年までに何とか。最終的には私の代わりになって欲しいと思っています。」
社長「彼か。。頼りないんじゃないか?陸上のあいつは?」
ひさお「彼は、いずれは課長にはなれると思っていますが、まだまだですね。新人を育てるほうが優先です。カズキは役職よりは営業マンとしてプロになるほうが会社の利益になると思っています。」
社長「年中見てないからな。まあ、君が言うなら正しいのだろう。」
ひさお「申し訳ないですけど社長。それより、娘さんとの話をするべきではないでしょうか?」
社長「ああ、そうだったな。正直驚いたよ。あんなにまともになっているとは。自分らでは無理だ。さきさん達のおかげということが、まみから聞いて良く分かった。なあ、お前、まみに手出したら許さないぞ。」
ひさお「出すわけないでしょう!」
社長「まみな。ひさおさん、ひさおさん、ばかりで。聞いたら、好きとか言いやがって。友達といえども娘はやらないからな!」
ひさお「あの。お言葉ですが。私、既婚者ですし、最愛の妻がいますので、申し訳ないですが。。頼まれても期待に添えないんです。」
社長「私の娘じゃ、不満か。。それはそれで腹が立つな。。」
ひさお「さきが聞いてましたよ。まみさん、彼は二の次って。まずは1人で生きることを学びたいと。」
社長「たまに週末に帰って来るって。本当嬉しかった。夏休みにまみの家に泊まる約束したんだ。私は2日だけど、母さんは1週間。2日はまみの家で家族揃うんだ。あと、私が泊まりで出張の日は必ずどちらかの家に行く約束したよ。」
ひさお「いや〜、良かったですね。さきが言ってましたよ。まみは人懐っこいから、自分から話すから月曜には解決するはずって。」
社長「全てお見通しだな。さきさんのスピード感はすごいよな。陸上の話聞いて、私が家に行く時にまみを呼んだらしいな。あのスピードと機転は真似出来ない。我が社に入ってくれたらな。。営業部長の最高の後継になるんじゃないか?」
ひさお「どうでしょうね。まだまだ足りない部分もありますよ。キレはすごいですけどね。あと、ダメになると徹底的にダメ。自分でリカバー出来ない。そのあたりが変わらないと部長は無理でしょうね。私の経験を教えたら、若くしてとんでもない実力者になるのは間違いないし、そうするのが私の役割とは思っています。」
社長「是非入社してほしいな。」
ひさお「それより、社長。娘さんに電話したらどうです?今日からテスト期間ですから、バイトしてないなら夕食誘ったら?最初より痩せたから、栄養足りないんじゃないですか?あのスーパーの寿司を家で食べるとか。奥さんも呼んで。自分の出来ることしないと、また後悔しますよ。」
社長「そうだな。。大至急連絡するよ。」
ひさお「では戻ります。」
デスクに戻り部下の相談や決済を課長、係長と話しながら一気に進めて帰宅する。
みゆさん達、来てるのかな?毎日イベント。なんか人生楽しいな。ずっと1人だったのに。さきのおかげで人生が変わって感謝だな。
出会い頭にぶつからないように気をつけて会社を出ると、小走りに自宅に戻るひさおだった。




