「第8話」素直になれなくて。
さきはキッチンに食器を片付けに行った。
調理しっぱなしだった。さきは皿洗いし、片付けをする。そして最後にキッチンを綺麗にした。
リビングに戻り、自分の部屋に入る前にひさおの方をチラッと見る。どうやら、ひさおは既に眠っているようだ。
私、物心ついて初めて。。
私、初めて一人ぼっちじゃない。。
私にはひさおがいる。
この気持ちは、家族と過ごした日々でも決して感じたことのない、初めて感じた安らぎだった。
さきは一緒にいたいという、どうしても抑え切れない感情が湧いてしまい、ひさおの元へと向かった。
さきはバスタオル姿でひさおのベッドに入ると、勇気を出してひさおに抱きついた。
眠っているひさおと触れ合うと、さきは自分の体が信じられないくらい熱くなるのを感じる。
さきに起こった身体の変化は初体験だった。感じたことのないドキドキ。
さきは初めての経験に戸惑い、みゆ。。こ、これって愛なの?恋なの?ねぇ。と心の中で呟いた。
ひさおは目を覚ました。
必死に抱きつくさきを見て、やっぱり不安なんだなな。と、ひさおは安心させるために頭を撫でた。
さきには安らぎがあった。そしてひさおと触れ合うだけで大きな幸せを感じる。
突然ひさおに頭を撫でられると、さきには、キュンと心臓が締め付けられるような感覚があった。
あっ。恋だ。これって恋だよね?絶対に間違いない。ひさおを見た時の感情。
あれ一目惚れだったんだ。。
私が人を好きになることがあるなんて。
誰がどう考えても恋に決まっていたのだが、経験のないさきはもしかしたらとは思ったが、判断に慎重だった。ひさおが絶対に失いたくない人だったからなのだろう。
今や自身が確信したさきは、初めての経験でもっと知りたくなってしまった。
目が覚めたひさおは、さきの頭を抱きしめる。
時折、さきがひさおの顔を見ると、頭を撫でて、胸に抱き寄せ、また頭を抱きしめる。
まるで大丈夫だよ。と伝えているように。
さきは、チラッとひさおの顔見るために頭を動かす。その度にひさおは頭を抱きしめ直す。さきはドキドキしっぱなしだ。
ひさおの厚い胸で抱きしめられ、さきは自然と気持ちが高まってしまう。
さきは抱いて欲しかった。抱いてくれると思っていた。バスタオル姿で裸同然。なのに1時間経っても。。何故?私は魅力ないの?
さきは我慢することが出来ない。どうしても望みを叶えたかった。
ついに我慢の限界になったさきは「あの。。わ、わたし、お礼しないと。」とバスタオルを剥ぎ取り裸になった。
ひさおはびっくりして、さきはひさおから本日2回目のお叱りを受ける「さき!そんなつもりで家に入れたんじゃないよ。お礼なんて求めてないんだ。僕はさきの不安を消したかっただけ。あなたは価値ある人間なんだ。もっと自分を大切にしなさい。」
さきは言葉を間違えたのだ。いや、素直になれなかったのだ。
本当の気持ちを素直言わないと、ひさおは私を女としては見てくれない。。
ひさおは欲だけで手を出す人じゃない。
考えてみたら、私に手を出すような人なら、恋に落ちるはずがない。私、どうしたら。。この気持ちどうしたらいいの。。私、初めて男性を好きになったのに。。。どうしたら。。
意を決して、さきは改めて気持ちを素直に伝える「ひさおさん。ひさおさんといると、私、生まれて初めて一人ぼっちじゃないって。。だから、お礼じゃないの。私、怖いの。一人ぼっちじゃないって気持ちが欲しいの。だからひさおさん。私を抱いて欲しいの。」
ひさお「さき。ごめん。それは出来ない。僕は恥ずかしいけど、この歳で経験もない。それに、特に今は不安定なさきだから怖いんだ。僕はさきを傷つけたくない。皆があなたを傷つけたのかも知れない、だけど僕はあなたを傷つけたりはしないから安心して。」
頑なに拒むひさおだった。
さきはもう、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。