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夜空

作者: 兎紙きりえ

ある時、空が降ってきた。


夜のことだった。


ぱーん。って弾けるような音がして、急いで家の外に出た。見上げれば、星空が割れていた。


ぐらぐらと揺れて、亀裂が何本も走っている。


ついに深い藍色が端からバラバラ零れて、雨みたいに降ってきたのだ。


太陽も登ってないから、空は白いまま張り付いていた。


まるで白紙のページみたいにのっぺりしていた。


家に戻り、時計の針がぐるりと回るのでもうすぐ朝が来たのを知ってから外に出る。


丁度、山間の影からのそりのそりと太陽が昇っている最中だ。


クレヨンで書き足したみたいな青空がひろがっていくのを眺めて、よかった。朝は割れてないみたいだ。


安心したのも束の間に、地面に落ちてるキラキラが目に止まった。


しまった。夜は割れたままなのだ。


私は急いで夜空をかき集めることにした。


降る時に、こつこつ当たったのだろう。シーグラスみたいにつるつる丸くって綺麗な夜空色。


地面にいっぱいに広がったそれを、ひとつひとつ拾って、カゴに入れた。


手のひらサイズだから拾うのは簡単だけれど、なにしろ数が多い。


家から持ってきたカゴはすぐにいっぱいになった。


一面雪景色ならぬ、一面の夜空景色。


あ!と私は声に出していた。


拾った夜空の一つ。


すりガラスみたいに曇った表面の奥に、小さく光ってるのを見つけたのだ。


キラキラと輝く、その光の粒はきっと星だ。


夜空の欠片同士でぶつけて割れると、やはり中から零れたのは大小様々なオレンジ色の星だった。


「あったかい……」


掌を合わせて作り出した暗闇の中で、ぽぅっ、と光っていた。次第に掠れ、消えゆく寸前には温かみが増した。


小さな夜空は消えてしまい、灰色の粒がぽとり。手の皺に零れる。そのうち皺の影が濃くなって、いずれ夜が来るのを私は見ていた。


夜は、来なかった。


当然だ。夜は壊れたままなのだ。割れたままの空が訪れるはずなかったのだ。


気付いて慌てて飛び出した。


山の向こうの、空と地面の境目に立って、ありったけ拾ってきた夜空の欠片を貼り付けていった。


のっぺりと白いだけの空に一つ一つ、欠片を貼り付けたのだ。


籠から一つ取り出して、ぺたり。また歩いて取り出して、ぺたり。


一列貼るだけでも途方もなく時間が過ぎていた。終わりがない作業のように思えた。


長い、長い時間が過ぎて、それで夜空の大きさを初めて知るくらい、長い時間が過ぎていた。


時計の針は回り疲れたのか止まっていた。


そして、ようやく貼り終えた頃に夜が来た。


隙間があったり、欠けてたり、歪になってしまったけれど、夜は、来たのだ。

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