ユウリ先生の授業
ユウリはぽんと手を合わせて叩く。
「――ずばり! 神様の力の真髄、それは“想像を創造する”事です」
「つまり、イメージの具現化だネ」
ガーネが横から合いの手を入れる。
「何でも思った通りになる、みたいな……?」
「はい、概ねその通りです。ですが、もちろん何でも無制限無制約に、とはいきません」
ふむ、と来人は思い返す。
つまり、この間鬼と戦った時に神の色が白金に染まったのも、十字架のアクセサリーが剣の形に変化したのも、どこからともなく鎖を産み出せたのも、全て神の力。
来人のイメージが具現化した物だった、という事なのだろう。
しかし、あの時は咄嗟に本能に身を任せるまま力を振るったので、あまりピンと来なかった。
そんな来人の様子を見て、ユウリは少し考えた後、
「そうですね。わたしたちはこの神の力を“絵を描くこと”に例えています」
と言って、指を鳴らす。
すると、どこかからイーゼルに掛けられたキャンバスと、見覚えの有る学校で使う様な絵の具セットが出て来た。
というか、イリスが爆速で持って来た。
よく見れば、来人が昔使っていた奴だ。
「ここにキャンバスが有ります。では、ここに絵を描くには、何が必要でしょうか?」
「筆と、絵の具と、パレット……ですか?」
「その通りです。神の力にもその三点が必要になります」
ユウリは指を三本立てる。
「パレットである『魂の器』と、絵の具である『魂の波動』、そして筆である『魂の柱』。この三つを用いて神は己のイメージを描き、世界を彩るのです」
そして、ユウリはキャンバスへと向き直る。
「まずは『器』――つまりパレットです。その大きさは人によって違います。それが大きければ大きい程、規模の大きい創造が可能となります」
そのままパレットに絵の具を出す。
「次に『波動』――これは絵の具です。魂に血液の様に流れる、力を使う為のエネルギーです。量が多ければ多い程、沢山の創造が可能となります。もちろん、波動が尽きるまで力を使えば倒れてしまいますよ」
そしてその絵の具を先を水で濡らした筆で混ぜ、筆先に馴染ませる。
「最後に『柱』――筆の役割ですね。これは世界と自分の器を繋ぐ橋渡しの役割を果たします。あなたが首に掛けているその十字架や、わたしの指輪がそうですね。この柱が神の力と対応しています」
そしてちらりと十字架と指輪に視線を移した後、白紙のキャンバスにその筆で一匹の鳥を描いた。
すると、絵だった鳥はそこからもこりと浮き上がり、どこかへと飛んで行った。
「こんな感じです」
「おおー」
来人は拍手をする。
まとめると、つまり。
魂に流れる波動をエネルギーとして、心の中で想像したイメージを現実に投影――創造する。
それが、神の力。
「ジンさんとかの凄い神様は柱無しで力を使ったりするけどネ。ちなみにネは刀を使うネ」
ガーネは口の奥からぬっと刀を取り出した。
それはそれでどういう理屈で口の中に納まっているのか気になるが。
しかし、弘法筆を選ばずと言うが、卓越した力を持つ神もまた筆を選ばないという事なのだろう。
柱はあくまで神の力を使う補助の為のツールであり、極めれば筆が無くとも指先で絵は描ける、という様なイメージだろうか。
「そうですね、ライジン様はとてもお強かったと有名です」
あのイリスにデブ呼ばわりされている肉の塊と化した父親が、神様界隈ではとても強かったと有名らしいが、来人にはあまりイメージが湧かなかった。
「僕の器と波動は、どれくらいなんだろう?」
大きい程良い、量が多い程良いと言っていたが、果たして。
「王の血統、ライジン様の実子ですからね。めちゃくちゃやばいと思いますよ」
「やばい……」
「わたしも末端の神の中では悪くない方だと思いますが、あなたとは天と地ほどの差があるはずです」
「実感湧かないなあ……」
現状比較対象が無いので分からないが、神々の王と言うからにはそれだけの力があるのだろう。
「それはまあ、使い方が分からなければ宝の持ち腐れですから。その使い方を学ぶために、わたしが先生として呼ばれた訳です」
ユウリはえへんと言わんばかりに胸を張る。
「確かにそうですね。よろしくお願いします、先生」
「はい、お願いされました! それでは、今日は最後に実践です! 習うより慣れろです!」
「だネ! レッツ鬼退治だネ!」
しばらく座学だけだと思って高を括っていた来人だったが、早速実践――つまり、またあの鬼との戦いに駆り出されるらしい。
多少の不安と緊張を覚えつつも、来人はガーネとユウリと共に、鬼退治へと向かった。
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