家庭教師
客人という事で、来人も一応居住まいを正しておく。
程なくして、イリスの後に続いて、若い女性が入って来た。
年齢は来人ともそんなに変わらない様に見える。
腰まで伸びた長い黒髪が印象的で、紫紺色の瞳を眼鏡の奥に覗かせている。
そして、何よりの特徴はその尖った形をした耳、エルフ耳だ。
この特徴的な容姿、もしかすると――。
その黒髪の女性は部屋をきょろきょろと見回した後、来人を見つけてぱっと表情を弾けさせた。
「――あ、あなたが来人君ですね」
「どうも。えっと……」
「ユウリと申します。ライジン様に頼まれまして、あなたの家庭教師をしに来ました」
そう言って、ユウリと名乗る女性はぺこりと軽く頭を下げる。
そう、来客は家庭教師の先生だ。
父が明日には家庭教師が来ると言っていた。
まさか、女性だったとは。
父が呼んだ家庭教師という事は、この女性も神様だ。
それならば、エルフ耳にも今更驚く事も無いだろう。
来人にとって父親の事をちゃんと“ライジン様”と敬う人に会うのは初めての事で、本当に父は神様なのだと改めて実感させられた。
そして、王の血筋である父が権力を振りかざして、昨日の今日で呼びつけられたのだろうと察する事も出来て、ちょっと可哀想だなとも思った。
「来人です、よろしくお願いします」
「ふふっ」
来人がそうソファから立ち上がり丁寧に挨拶を返すと、何故か笑われてしまった。
果たして、何かおかしかっただろうか。
そう思っていると、すぐにユウリから釈明が入る。
「あ、すみません。見た目の印象と違って、意外と丁寧だなあと思って、つい」
「ああ、そういう……」
来人は少し照れ臭くなって自分の前髪をちょいちょいと指先で触る。
来人がそう勘違いされるのはよくある事で、慣れてはいるがそれでも少しこそばゆい。
一件少しやんちゃに見える派手な髪色の来人だが、いざ口を開けば第一印象にそぐわない物腰で、育ちの良さが端々から漏れ出てしまう。
髪を染めてみたりアクセサリーを身に着けてみたりとしているのも、結局は自分を装う仮面の代わりでしか無い訳で、根は変わらない。
イリスの生暖かい視線を感じるが、気付かなかったことにする。
ユウリは可愛い弟でも見る様ににこりと微笑んで、庭の方を指差す。
「じゃあ早速ですが、始めましょうか。お庭、使ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ。他にも必要な物が有れば、お申し付けください」
イリスは下がり、来人は流されるがままユウリと共に庭へ出た。
「らいたーん、こっちだネー!」
庭へ出れば、ガーネが待っていた。
今にも手を振りそうな勢いだが、振る手は無いので代わりにぴょんぴょんと跳ねている。
「それでは、授業を始めますね」
来人はガーネと並んで体育座りで庭に腰を下ろす。
何となく、それっぽい気がしてそうしてみた。
「よろしくお願いします」
「わたしの事はユウリ先生とお呼びください」
ユウリ先生はわざとらしく眼鏡の端をくいっと持ち上げて見せる。
「はい、ユウリ先生!」
「と言っても、わたしも神様に成ってまだ一〇〇年も経っていない新参者なんですけどね」
来人がお道化てそう呼んでみれば、ユウリ先生は「あはは」と照れ臭そうに笑って見せた。
どういう時間感覚なのか分からないが、その言い方からして一〇〇年という時間は神様からするととても短い物なのだろう。
これまで普通に人間として生きて来た来人にはあまり分からない感覚だ。
「そうなんですね。でも、僕なんて本当に何も知らないんで助かります」
「分かりました。それでは、今日は“神の力について”やって行きましょうか。何事も基本からです」
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