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僕のペナントライフ  作者: 遊馬 友仁
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幕間その4〜決戦・日本シリーズ!オリックス対阪神〜その④

 11月1日(水)


「おし! 大山(おおやま)ありがとう!」


 時刻は、午後10時すぎ――――――。


 大山の放った打球が、前進守備のサードとショートの間を抜けていくのを確認すると、僕は、拝(おが)むように手を合わせたあと、


「大山さん、今日は打ってくれたね!」


と、笑顔で語る奈緒美さんと両手でハイタッチを交わした。


 緊張が解けて、ふぅ〜とため息をついた、僕は、前日の願掛けに応えてくれた打者(バッター)を頼もしく感じながら、彼女に相づちを打ち、


「うん! ウチの4番を舐めるな、って感じだわ」


と答える。


 同点で迎えた9回裏、一死(ワンアウト)から四球で出塁した近本(ちかもと)が、二度の暴投(ワイルドピッチ)で、三塁まで進んだところで、バファローズベンチは、打席に経っていた中野(なかの)、続く森下(もりした)に対して、連続して申告敬遠の作戦を取り、一死満塁と塁を埋めて、大山との勝負に挑んだ。


 中継のテレビカメラに映し出される、主審に対して四本の指を立てて申告敬遠を告げる中島(なかじま)監督の姿と、


「えっ!? 自分も敬遠なの?」


という驚いたような表情をしている森下の様子が印象的だった。


 この日、会社の規定で「繁忙期以外は定時退社」となっているらしい奈緒美さんが帰ってくる午後6時半に間に合うように夕飯を準備するべく、買い物を終えた僕は、夕方6時前に彼女の家に到着し、第4戦の試合開始に備えていた。


 近所のスーパーでは、水曜日は魚の特売日ということで、鮭の切り身が安くなっていたので、メインディッシュには、ムニエルと香草焼きを作ることにする。


 夕飯の準備をしながらテレビ観戦をしていると、我がチームが1点を先制したあと、バファローズに同点に追い付かれるのと同じくらいのタイミングで彼女が帰ってきた。


「わぁ、いい香り……虎太郎くん、今日もありがとう」


 室内に漂うバターとハーブの香りに反応した奈緒美さんに、


「いい感じに焼けてるから、すぐに食べれるよ」


と返事をし、キッチンからリビングに移動し、料理の配膳を進める。


 できたての料理を食べ始めると、同点に追い付かれた裏の攻撃で、二死(ツーアウト)ランナーなしから、チャンスを作った我がチームは、近本のタイムリーで勝ち越しに成功した。

 試合を見ながら、彼女が、


「今日は、勝てそう?」


と、たずねてくる。


「うん……昨日と同じで接戦になりそうだから、あと、もう1点とれれば……」


 そう答えた僕は、5回裏の追加点の場面で小さく握りガッツポーズを作った。

 一死一・三塁から併殺崩れで得点をもぎ取った大山の全力疾走をする姿に、僕の胸は熱くなっていた。


 9月頃から、打撃の調子が上がらず、クライマックスシリーズでも、この日本シリーズでも、大山のバットから快音は聞こえていない。

 しかし、チームの主軸となる4番打者が、ヒットが出ないときでも、泥臭く1点をもぎ取ろうとしている姿に、今年のこのチームの強さの要因があると、僕は感じている。


 その後、エラーをきっかけに同点に追い付かれ、終盤の8回のピンチでマウンドに立ったのは、前日に宮崎県で行われた『フェニックス・リーグ』からベンチ入りメンバーとして招集されたばかりの湯浅京己(ゆあさあつき)だった。


「えっ……マジで!? ここで湯浅を出すか……」


 思わず、口から出てしまった言葉に彼女が反応し、


「そんなに意外な選手起用なの?」


と、たずねてくる。


「6月に二軍(にぐん)に落ちてから、一軍では投げていないからね……それに、ケガもしているという報道もあったから……」

 

 タイガースファンには説明の必要もないだろうが、彼女の質問に答えたように、湯浅は、交流戦のバファローズ戦で手痛い逆転負けを喫して以来、一軍での登板機会はなかった。

 ただ、不安を覚えた僕の心情とは違って、現地の甲子園球場では、


「タイガースのピッチャー島本に代わりまして、湯浅」


というアナウンスが流れたとき、場内の盛り上がりは、モノスゴいものだった様だ。


 そしてまた、僕の懸念とは異なり、1番打者の中川圭太(なかがわけいた)を1球で内野フライに打ち取った湯浅は、復帰登板を無事に終えた喜びを全身で表現していた。


 9回表も岩崎(いわざき)が無失点で切り抜け、有利な流れを作ったまま9回裏に突入し、チームはサヨナラ勝ちを収めた。


 その9回裏の攻撃中には午後10時をすぎ、最後の大山の打席では、鳴り物を使っての応援はなくなっていたのだが、テレビのスピーカーを通していても、僕がこれまで聞いたことのないような声援が送られていることがわかった。


 湯浅の復帰、大山のサヨナラ打、そして、球場の声援のボリューム――――――。


 これらの要素があれば、甲子園で、このチームが負けるということは、僕には考えられなかった。


 【本日の試合結果】


 プロ野球日本選手権シリーズ 阪神 対 オリックス 第4戦 


 阪神 4ー3 オリックス


 第4戦の先発投手は、タイガース・才木浩人(さいきひろと)、バファローズ・山崎福也(やまざきさちや)。

 1回裏にタイガースが森下翔太(もりしたしょうた)のタイムリー・ツーベースで先制すると、バファローズも2回表に紅林弘太郎(くればやしこうたろう)のタイムリーで同点に追いつく。

 その後、タイガースは2回裏に近本光司(ちかもとこうじ)のタイムリー、5回裏に大山悠輔(おおやまゆうすけ)の内野ゴロの間に1点ずつを加えて2点差としたものの、7回表には、佐藤輝明(さとうてるあき)のエラーをきっかけに、前日に続き、宗佑磨(むねゆうま)に2点タイムリーが飛び出し、バファローズが同点に追い付く。

 しかし、8回表を島本浩也(しまもとひろや)と湯浅京己(ゆあさあつき)、9回表を岩崎優(いわざきすぐる)の継投で無失点に抑えると、迎えた9回裏、この回から登板したジェイソン・ワゲスパックの暴投で得た一死満塁のチャンスで、大山悠輔(おおやまゆうすけ)がタイムリーを放ち劇的なサヨナラ勝利。

 タイガースが勝敗を2勝2敗のタイに戻した。


 ◎11月1日終了時点の日本選手権シリーズ成績

 

 阪神タイガース     2勝

 オリックスバファローズ 2勝

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