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僕のペナントライフ  作者: 遊馬 友仁
68/78

第4幕・ARE(アレ)の章〜⑭〜

 =================

 

 7回を終わって4対1と阪神リード!


 戎橋付近のライブカメラによると、

 道頓堀に、徐々に阪神ファンが

 集まって来ています(^_^;)


https://youtube.com/live/lBCdG7fqlnQ?si=wO-9YZd9sH51XsVr


 =================


 8回を迎えた時点での3点のリードは、両リーグを通じて今年のリリーフ投手陣から考えれば、危なげのない点差に思えた。

 その8回に、ジャイアンツに1点を返され、2点差となって迎えた9回表。


 大方の予想通り、リリーフカーに乗って、守護神の岩崎優(いわざきすぐる)が登場したのだが、甲子園には、ちょっとしたどよめきが起こっていた。


 場内に流れている楽曲が、岩崎の登場曲である河野万里奈(こうのまりな)(彼女も一家揃ってタイガースのファンだそうだ)の『アイキャントライ』ではなかったからだ。


 サンテレビのテレビ中継では、CM明けに、その曲のBメロあたりが流れていた。


 ♪ あの時 想い描いた夢の途中に 今も

 ♪ 何度も何度も あきらめかけた夢の 途中


 いつもの岩崎の登場曲とは異なることに気づいた実況の湯浅アナウンサ―が、解説の真弓・掛布の両氏に語りかける。


「選手には、それぞれ登場曲があるんですが、岩崎投手のいつもの曲とは違うんですよね」

「ゆずさんの曲なんですけど、実は、横田慎太郎さんの曲だったんですよ」


 NHKのアテネオリンピックの公式テーマソングとして、一般にも広く知られるその歌は、スタンドの多くのファンが口ずさめるものだった。

 

 ♪ いくつもの日々を越えて

 ♪ 辿り着いた今がある

 ♪ だからもう迷わずに進めばいい

 ♪ 栄光の架橋へと


 プロ野球の試合が行われている甲子園球場が、コンサート会場になったかのような光景を見ながら、僕は今朝に続いて、あふれる熱い涙を抑えることができなかった。


 その歌詞に対しては、病と戦う横田さんや目標に向かって努力を続けるアスリートだけでなく、何度も夢をみては想いを遂げることができなかった阪神タイガースのファンの心理をも代弁しているようにも聞こえる。


 それは、『栄光の架橋』が、『阪神タイガースの歌』(通称・六甲おろし)、85年日本一打線のクリーンアップのヒッティングマーチ(中年以上のタイガースファンは、泥酔すると良くバース・掛布・岡田の応援歌を歌い出す)に続いて、タイガースファンにとって、三番目の讃歌(アンセム)になった瞬間でもあった。


『アレ』(この期に及んでもゲン(かつ)ぎで、あの言葉を口にできない自分が悲しい)が掛かった一戦で、横田さんのユニフォームをベンチに準備するだけでなく、こんな()()な演出をするなんて……。

 当然ながら、翌日以降に予定されているカープの本拠地マツダスタジアムでは、最終回にこんな演出をすることはできない。


 地元で胴上げを決めることができる最大のメリットを最大限に生かした選手と球団スタッフに敬意と感謝の気持ちを抱きながら、()()瞬間が訪れるのを待つ。


 しかし――――――。


 4番の岡本を簡単に内野フライに打ち取ったあと、続く坂本勇人(さかもとはやと)には、真ん中に入ったストレートを完璧な当たりでレフトスタンドに運ばれて1点差に迫られ、さらに、続く秋広優人には、フェンス直撃のツーベース・ヒットを打たれ、一打同点のピンチを迎えてしまう。


(ここは……ここだけは凌いでくれ……でないと、9回表の演出がすべて台無しになってしまう)


 この試合、二度目となる切実な想いで画面を見つめていた次の打者の初球――――――。


 岩崎の投じたストレートを弾き返した梶谷隆幸(かじたにたかゆき)の打球は、痛烈なゴロとなり、一・二塁間を襲う。


 だが、このヒット性の強い打球をセカンドの中野拓夢(なかのたくむ)がスライディングをしながら捕球し、一塁へ送球!

 見事なプレーで、同点の危機を救った。


 二死三塁となり、打席に立つのは、北村拓己(きたむらたくみ)

 引き続き同点のピンチというシチュエーションに、心拍数は上がり続け、行きが苦しくなる。


 その心を落ち着かせるように、亡くなった祖父(じい)さんが、球場やテレビで野球観戦をするときに、試合の局面のたびに行っていたあのルーティーンを無意識のうちにし始めていた。


 左手の指先でズバンの太もものあたりをたくし上げ、かたわらに置いていたカンフーバットを右手で握ってグルグルと回す。両手でカンフーバットを握ると目の前で、それを寝かせ気味にして、そこから初めて構えに入ってバットのヘッドに向けてチラリと視線を送る。


 その仕草をしている間に、岩崎は打者の北村に対して、次々とストレートを投げ込む。

 

 そして、(ワン)ボール・(ワン)ストライクとなった3球目――――――。


 ド真ん中の高めに投じられた力強い投球を打ち上げた打者は天を仰ぎ、スタンドからは歓声があがる。

 高々と舞い上がった打球を二塁ベースの後方で中野が掴むと、歓声は大歓声に変わって、歓喜の瞬間が訪れた。


「史上最強の猛虎、ここにあり!」


 壁に掛けたテレビからは、湯浅アナウンサーの実況が聞こえる。


 祖父に連れられて球場観戦をした年から数えて十五回目のシーズンで、ようやく……ようやく……『アレ』ならぬ、リーグ優勝を目にすることができた。


 ピッチャーマウンドの近くで胴上げされ、六度宙を舞った岡田監督、そして、横田さんのユニフォームとともに宙を舞う岩崎の姿をカメラが捉えると、湯浅アナウンサーは、こう語った。


「横田慎太郎さんのユニフォームも今胴上げです」


「横田さん、今どこで見てますか? 先輩たちが同期生たちが、そしてあなたの愛した後輩たちが優勝という最高の結果を残してくれましたよ。あなたのことは一生忘れません」


 その光景を目に焼き付けながら、僕は、(エックス)(旧Twitter)に投稿を行う。

 

=================

 

 祝!阪神タイガース優勝‼️


選手の皆さんおめでとう\(^o^)/


岡田監督ありがとう(T_T)


#阪神優勝


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「naomi_mikoshibaさんが いいね! しました」

 

 フォロワーが、二桁の前半の数に過ぎない僕のアカウントだが、すぐに奈緒美さんをはじめ、友人たちから「いいね」の反応が届く。


 万感の想いにひたりながら、テレビの中継で岡田監督の優勝監督インタビューを見ながら、タブレットで道頓堀のライブカメラの映像をはじめ、各地でファンが賑わう様子を確認する。


 YouTubeライブの映像では、甲子園球場前の高架下の模様が生中継されていた。


「凄い盛り上がりだな……」


 苦笑しながら、その映像を目にして、


(ここで、優勝の瞬間を迎えるのも良かったかも……)


と、考えていると、4Kのクリアな画像の中に、見知った顔を発見した。

 タブレットを外部出力モードに切り替え、壁掛けのテレビディスプレイに映像を投影する。


 画面の右隅で、盛り上がるファンのすき間をオロオロと歩くその姿は、僕が想いを寄せるその人だった――――――。

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