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僕のペナントライフ  作者: 遊馬 友仁
64/78

第4幕・ARE(アレ)の章〜⑩〜

9月11日(月)


 ==============


 こんばんは

 虎太郎くん

 

 お誘いした17日(日)は

 タイガースの優勝が決まるかも

 知れない日なんですね・・・


 もし、東京に行けない場合

 早めに言ってもらえると

 助かります

 

 ==============


 奈緒美さんから送られたメッセージを目にしたとき、眼の前が真っ暗になるような気分だった。


(ついに、知られてしまったか……)


 まあ、(他の地方のことはわからないけど……)関西の主要メディアが、一斉にリーグ優……もとい、『アレ』への報道を始めれば、その()()()が、今週中にもやってくることに誰だって気づくだろう。


 優柔不断な言動のせいで、彼女を不安にさせ、余計な気を使わせてしまった自分自身に腹が立つ。


 僕も、そろそろ腹をくくらなければいけない時だろう。


 彼女のメッセージには、すぐに返信することにした。


 ==============

 

 奈緒美さん

 

 17日についてですが今後の

 阪神の試合結果に関わらず

 参加させてもらう予定です!


 よろしくお願いします!!

 

 ==============


 僕がメッセージを返信すると、すぐに既読がつき、「大丈夫ですか?」と小首をかしげるような仕草の白いネコのスタンプが送信されてきた。


 そのスタンプには、こちらも「大丈夫ですよ!」と語るネコとペンギンのスタンプを返信する。


 先週の半ばまでは、


(もしも、ライブの日と優勝……いや、『アレ』の日が被ったら、どうしよう……)


と考えていたけれど、この週末に、学生時代からの友人である大野豊(おおのゆたか)に薦められた『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』という映画を観て、僕の気持ちは固まった。


 この映画のストーリーは、代数的グラフ理論という数学の難問を、いとも簡単に正解してみせる青年ウィル・ハンティングの成長譚だ。ウィルは学生ではなく、大学でアルバイト清掃員として働く孤児だった。

 数学の難問を出題したランボー教授は、ウィルの非凡な才能に目をつけ、彼の才能を開花させようとするが、ウィルはケンカをしては鑑別所入りを繰り返す素行の悪い青年であり、ランボーはウィルを更生させるため様々な心理学者に彼を診てもらうが、皆ウィルにいいようにあしらわれ、サジを投げ出す。


 教授は、最後の手段として、学生時代の同級生ショーン・マグワイアにカウンセリングを依頼する。ショーンはバンカーヒル・コミュニティ・カレッジで教壇に立つ心理学の講師で、ランボーとは不仲であったが、ウィルの更生のため協力することになった。


 ショーンは大学講師として表面的には健全な社会生活を送りながらも、最愛の妻を病気で亡くしたことから孤独に苛まれていた。事情を知らないウィルは当初ショーンをからかっていたが、やがて互いに深い心の傷を負っていることを知り、次第に打ち解けていく。


 僕の心を打ったのは、コメディ俳優として名高いロビン・ウィリアムス演じる心理学者のショーンが、主人公のウィルに、亡き妻と出会った日のことについて語る場面だ。


 ショーンが最愛の妻ナンシーと出会ったのは、1975年10月21日。


「なぜ、日付を覚えているのか?」


 と問う主人公ウィルに、中年の心理学者は、


「ワールドシリーズ最高の試合の日だったからだ」


と答える。


 シンシナティ・レッズとボストン・レッドソックスの2チームによって争われたこの年のワールドシリーズは、5戦目でレッズが3勝目をあげて王手を掛け、レッドソックスは敗退の危機を迎えて第6戦を迎えた。


 その第6戦は、得点の取り合いで延長戦にもつれ込んだ後、12回裏レッドソックスの4番カールトン・フィスクが、レフトポール際に大飛球を放つ。

 このシーンを熱く語り合う(おそらくレッドソックスの大ファンである)ショーンとウィルは、大飛球に向かって、「切れるな! 入れ、入れ」と大きなジェスチャーを取った4番打者の真似をしながら、大いに盛り上がる。


 本拠地フェンウェイ・パークのポールを直撃したこのサヨナラホームランで、レッドソックスは、3勝3敗と勝敗をタイに持ち込み、ワールドシリーズ制覇に逆王手を掛けたのだが――――――。

 観戦チケットを持っていたにもかかわらず、ショーンは、この試合を「現地で観戦していない」と言う。


 それは、試合の観戦前に球場横のカフェバーで、後に妻となるナンシーに一目惚れし、


「彼女を見極める」


と言って、観戦チケットを友人に返したからだそうだ。


「ワールドシリーズ史上最高の試合だろう? 後悔しなかったのか?」


 と問うウィルに対して、ショーンは、こともなげに言う。


「最高の女性と知り合えたんだ。後悔なんてあるわけがない」

 

 映画の中盤で語られるこのエピソードを観て、(ゆたか)が、僕にこの作品を薦めた理由がわかった。


 スポーツには全く関心を示さないにもかかわらず、いつも、僕の心に刺さる映画を推薦してくれる友人には、感謝を込めて、メッセージを送ることにする。

 

 ==============


 グッド・ウィル・ハンティング

 観たよ!


 素晴らしい映画を薦めてくれて

 ありがとう!


 彼女が素敵な女性だってことは

 わかりきっているので・・・

 

 僕は、自分自身の気持ちを

 見極めることにしようと思う


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