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僕のペナントライフ  作者: 遊馬 友仁
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第4幕・ARE(アレ)の章〜⑨〜

 9月10日(日)


 タイガースの快進撃は、ファンの期待を上回るスピードで継続していた。


 最短の日程でリーグ優勝が決まってしまうと、阪神百貨店で販売される優勝記念グッズは、胴上げ翌日に間に合わないという。

 ただ、連勝に連勝を重ねて、最短で優勝を決めなくても、甲子園でのカープ戦とジャイアンツ戦で、マジックを2に減らせたら、奈緒美さんとの約束の日である17日(日)の優勝決定を避けられる――――――。


 僕は、そんな風に考えていた。


 9月最初の山場と目されている甲子園でのカープ三連戦は、我がチームが、村上(むらかみ)大竹(おおたけ)伊藤将司(いとうまさし)。カープが、床田(とこだ)森下(もりした)九里(くり)と、今シーズン好調の先発陣をぶつけ合う、文字通り『天王山の戦い』と言っても良かったのだが……。


 その三連戦の初戦――――――。


 タイガースは、ここまで苦戦していたカープの床田廣樹(とこだひろき)森下翔太(もりしたしょうた)佐藤輝明(さとうてるあき)のホームランで攻略すると、今やエースの風格さえ漂いはじめた村上頌樹(むらかみしょうき)も素晴らしい投球(ピッチング)を見せて、あっさりとモノにしてしまった。


 ここまで、2戦してどちらも大敗を喫していたカープの床田を相手にして、今シーズン、先発陣の大黒柱と言って良い存在に成長した村上が、どこまで試合を作ってくれるか――――――?


 試合前の段階では、僕はそう考えていたが、防御率や勝ち星でリーグトップを争うカープの左腕を序盤の一発攻勢で攻略するとは予想もできなかった。

 本当に、今年の我がチームは、僕の予想や期待を良い意味で裏切ってくれることが多い。


 しかし、この大事な一戦でカープのエース床田から先制ホームランを打てる森下という新人選手は、本当にスゴい。そして、9月に入ってから、覚醒したようにホームランを量産し始めた佐藤輝明にも長距離打者(ヒッター)としての迫力が感じられるようになってきた。


(今回は、三連敗さえしなければ大丈夫……)


 自分自身にそう言い聞かせていたことで、第一関門をクリアしたタイガースの戦いぶりに安堵し、僕は平穏な気持ちで翌日を迎えた。


 ※


 三連戦の二試合目となる9日(土)の試合では、ペナントレースでも滅多に見られない現象が発生した。


 通常は、マジックが点灯しているチームが勝利してマジック対象のチームが敗れたとき、マジックナンバーは2つ減るのだが、この日、タイガースの勝利によって、そのマジックナンバーが、一気に3つも減ったのだ。


 その理由はセントラル・リーグの規定にあるという。セ・リーグの順位を決定する規定では、シーズンの優勝球団は、


 ・勝率が1位

 ・勝率が並んだ場合は、勝利数が多い方とする


と定められている。さらに、上記の2つの条件が並んだ場合は、


 ・「直接対決の勝率が高い方」が優勝

 ・直接対決の勝率も並んでいる場合は、「交流戦を除いたリーグ内の勝率が高い方」を優勝とする。


と定められているそうだ。


 9日の試合で、タイガースは2回裏に、シェルドン・ノイジーのタイムリーと大竹、近本の連続タイムリー2ベースで4点を先制。先発の大竹は、7回途中までを投げて1失点に抑え、自身初の二桁となる10勝目をあげた。

 我がチームがこの試合に勝ったことで、カープは残り15試合に全勝しても、阪神が残り19試合のうち7勝をあげれば最終的な勝率と勝利数で並ぶことになる。


 さらに、この9日の試合前までは、直接対決の勝率でカープが、我がチームを上回る可能性が残されていたが、この勝利でカープとの対戦成績は12勝7敗1引き分けとなり、残り5試合の直接対決すべてに敗れた場合でも12勝12敗1引き分け、直接対決での勝率が並ぶ。


 このため、上記に挙げた最後の条件である


 ・直接対決の勝率も並んでいる場合は、「交流戦を除いたリーグ内の勝率が高い方」を優勝とする。

 

の項目が適用され、阪神タイガースは、広島東洋カープを上回ることになるため、優勝球団になるということだ。


 カープとの三連戦で、マジックを4つ減らすことができれば、なんとか来週の16日(土)までに優勝を決める条件が揃う――――――。


 僕は、そう考えていただけに、2試合で、マジックが5つも減ったことは、期待以上の喜びだったと言える。


 そして、東京でのライブ・イベント1週前となる日曜日の三連戦最終戦でも、我がチームは勝利し、マジックナンバーは5に減った。

 

 この勝利を受けて、いよいよ、岡田監督の言うところの『アレ』への本格的なカウントダウンが始まり、これまで自制していた阪神ファン、さらに、テレビ局やスポーツ新聞を始めとする各メディアも、一気にテンションが上がり始める。


 奈緒美さんから、メッセージが送られてきたのは、こんな風に、予想以上の快勝に終わったカープ三連戦の日の深夜のことだった――――――。


 【本日の試合結果】

 

 阪神 対 広島 21回戦  阪神 5ー1 広島


 タイガース・伊藤将司(いとうまさし)、カープ・九里亜蓮(くりあれん)、両先発の好投で、中盤まではお互いに無得点のまま試合は進む。5回表にカープが、ライアン・マクブルームのソロホームランで先制すると、タイガースも6回裏に、ルーキーの森下翔太(もりしたしょうた)のタイムリーで試合を振り出しに戻した。

 試合は、そのまま終盤に進む。8回裏、タイガースは、力投を続ける九里を攻めて二死満塁の好機を作ると、代打に送られた糸原健斗(いとはらけんと)が値千金の2点タイムリーを放つ。さらに、続くチャンスでも木浪聖也(きなみせいや)のタイムリーで試合を決定づける。

 8回に志願の登板を行った伊藤将司(いとうまさし)は、2年ぶりに二桁勝利となる10勝目を挙げる。

 タイガースの連勝は8に伸び、優勝へのマジックナンバーは、5となった。


 ◎9月10日終了時点の阪神タイガースの成績


 勝敗:75勝42敗 4引き分け 貯金33

 順位:首位(2位と11ゲーム差) マジック5

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